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第31話「SOS!!」

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 ダンとスオメタルから破壊力抜群な古代魔法『遠当て』を見せつけられ……
 ふたりを尾行して来た人狼は、完全に戦意を失ってしまった。

 脱力し、項垂うなだれる人狼……

 汚名返上、名誉回復の使命を……
 兄者達とやらから一方的に押し付けられたこの人狼は……
 ダンを倒せなかった不手際を、『巣』へ帰還したら、
 酷く叱責されるのではないか……
 
 そう考えたダンは、この『末っ子人狼』がほんの少しだけだが、
 哀れになり、フォローする事にした。
 だからと言って、自ら人狼族の奴隷になるとか、
 全面的に降伏するわけではない。

 まずは束縛の魔法を解いてやった。
 苦痛を訴え、呻きながら、人狼は何とか起き上がる。

『おい、お前にこれをやる。全部で20尾ある』

 ダンがそう言って、収納の腕輪から取り出したのは、
 先ほどスオメタルと一緒に、湖で釣った『鱒』である。
 
 この鱒は体全体が茶褐色。
 型も良く、全て40cm近くある。
 朱点がやたら多い丸々太った美味しそうな鱒であった。

 ダンが使う収納の腕輪は、空間魔法の応用で亜空間につないである。
 亜空間では時間が経過しない。
 なので、鱒は新鮮なままである。
 そして人狼が運搬出来るように、植物を編んで作った『かご』も取り出した。

 ダンの行為を見て、スオメタルが不満そうな表情を見せた。

『マスター、いけませぬ! それはさっき、マスターと私が湖で釣った新鮮な鱒でございますよ。こんなストーカーの最低野郎にくれてやるのは、勿体ないでございます』

『いやいや、ノープロブレム! スオメタル、また釣れば良いさ。場所ポイントは分かってるし』

『は、はい……マスターがそう仰るのなら、了解でございます』

 仕方なくという感じで了解はしたが…… 
 まだ怒りが収まらず口を尖らせるスオメタル。
 
 苦笑したダンは、人狼へ向き直る。
 
『ひとつ聞きたい事がある。教えてくれ』

『な、何だ?』

『俺は以前、ある冒険者から、北の狼族はサケを好んで食べると聞いた事がある。お前達、魔境に住まう人狼はこの鱒を食えるのか?』

 ダンの問いに対し、人狼はおずおずと頷いた。

『あ、ああ、お前が言う通り、この鱒は相当なご馳走だ。滅多に食べられない……』

『ならば、丁度良い。お前が人化し、このかごに入れて持って帰れ。お前の兄達へ、人間の俺とスオメタルからの友好のあかし……だと伝えてくれ』

『人間から友好の証? ま、まさか!? ホントか? この鱒を、く、くれるのか!』

 ダンの厚意を聞き、人狼は驚いたようだ。

『ああ、本当だ。持って帰れ! 俺は少し前までいくさの中に居た。戦いに明け暮れていた』

『え? お前が? 戦の中に?』

『ああ、やむにやまれぬ理由があったにせよ、憎しみ合い、殺し合う戦は虚しい。だから余計な争い事の原因をわざわざ作ろうと、俺は思わん。魔族とだって、仲良く出来るなら、仲良くしたい』

 ダンがそう言うと、人狼は何かを思い出したようにハッとする。

『お、おい! 人間! そ、そういえば! お、お前の名を聞いてなかった! ぜ、ぜひ聞かせてくれ!』

『OK! 俺の名はダン、ダン・ブレ―ヴ。彼女の名はスオメタルだ。そういうお前は?』

『お、お、俺の名は……アルパッドだ! 人狼族の第三王子だ! ま、待てよ!? ダンにスオメタルか……どこかで聞いたような気が……ま!? まさかぁっ!!』

 人狼――アルパッドがダン達の名に驚いたその時!

 おおおおおおおおおおお~~んん!!
 おおおおおおおおおおお~~んん!!

 振り絞るような声で、狼の咆哮が、二度聞こえた。

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

 対して、アルパッドも応えるように、すぐ二回咆哮した。
 そして慌てふためいた表情で、

『ヤバイ! て! 敵襲だ! ダ、ダン、スオメタル! ま、また会おう! あ、改めて話そうぜ~!』

 二回轟いた咆哮は人狼達の巣から発せられた『SOS』の合図らしかった。
 
 アルパッドは、ひと時の別れを告げると……
 凄まじい速度で走り去ってしまった。
 ……鱒を受け取る事は失念したらしい。

 スオメタルは苦笑し、大きくため息を吐く。

『ふう、という事になりましたが……どうします、マスター。……このまま帰りますでございますか』

『う~ん……あいつ、アルパッドの奴は、俺達とまた会おうって言ってたよな?』

『はい、マスター、御意でございます』

『う~ん、仕方ねぇ、あいつの言葉通りにするかぁ』

『宜しいかと思います。その前にやる事がございますよね?』

『ああ、ささっとやっちまおう』

『はい、まずは鱒を一旦仕舞う。そして転移魔法を……発動するでございます』

『了解! 鱒をまた腕輪へ戻し、アレを障壁のすぐ外へ送っちまおう』

『うふふ、さすが、マスターでございます。私の意図をすぐ察して頂き、嬉しいでございます』

『あはは、速攻で分かったよ』

 ふたりが笑って指さしたのは、先ほど遠当ての魔法で砕いた大岩である。
 白い大岩は……石灰岩だったのだ。
 石灰岩から、石灰を作れば先日話に出た土壌改良剤のとなる。
 
 スオメタルは石灰岩を見て、今後必要な石灰を得る事を、瞬時に思い付いた。
 それにダンも追随したのだ。

『あれを……石灰岩を精製すれば……石灰になるでございますよね』

『うん、俺も作った事はないが、俺達のモットーは、トライアルアンドエラー。どんどん挑戦してみようぜ。それに石灰は漆喰の原料にもなるしな』 

 ダンはそう言うと、ピンと指を鳴らした。
 すると!
 まず出していた鱒が消えた。
 収納の腕輪へ一旦、戻したのである。

 更にダンは指を鳴らす。
 今度は、砕かれた大岩が一瞬で消え失せた。
 
 重ねて数回鳴らすと、大岩の残骸は全て消え失せた。
 城の傍へ送られたのである。

 こうして、作業は完了した。

『よし、行こう! あいつを追うぞ!』

『レッツラゴーでございます。少し速度をあげればすぐ追いつくです。但し追い越し注意……でございます』

『了解!』 

 ダンとスオメタルは「ぶわっ」と急上昇。
 30mほど上がると、そのまま空中で静止する。
 飛翔魔法で、アルパッドを追おうというのだ。

『マスター、アルパッドから発せられる魔力の気配をたどり、追尾するでございます』

『了解!』

 やはりダンとスオメタルの息はツーと言えばカー。
 「ぴたり」と合っている。
 
 びゅん!
 凄まじい風を切る音が起こった。

 と、同時にダンとスオメタルの姿は、かき消すようになくなっていたのである。
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