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第30話「人狼君、再び③」

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『ごらぁ!! いつまでびびっとる! しゃきっとせんか! 早く尾行の理由をゲロせいっ! クソ狼ぃ!』

 ドスの効いたスオメタルの脅しに屈し……
 人狼は「ぽつぽつ」と話し始めた。

 スオメタルの言う通り、人狼は念話が使えた。
 人語も話す事が出来た。

『完全にびびって、固まってる……スオメタル、俺が尋問代わろう』

『御意……でございます』
 
 ダンは、相変わらず超ケンカ腰のスオメタルに代わり、尾行の理由も含め、
 詳しい事情を聞く事にした。

『お前がさっき言った、兄者に言われて俺達を尾行したってのはどういう意味だ?』

 ダンが尋ねると、人狼は唸りながら答える。

『ううう~、……こ、こ、こ、言葉通りだぁ! お、お、お前達に言った事は本当に本当なんだっ! お、お、俺は! あ、兄者達に決着をつけて来いと命じられたんだぁ!!』

『ふ~ん、決着ねぇ……魔族は誇り高い奴が多い。だから、一方的にやられたままだと、一生周囲からバカにされる。メンツの為にケリを付けろ、俺を殺せって事かい?』

『そ、そ、そうだっ! わ、我等われら! じ、人狼の一族は! ほ、他の何者にも侮られてはいかんのだっ! と、特に! 餌如き人間にはな!』

『人間が餌か……まあ、この世界の食物連鎖を考えると、そうなっちまうだろうなあ』

『ふ、ふん! ひ弱な人間の中で、唯一我らが怖れるのは、救世の勇者と呼ばれた特異個体のみだっ! ま、魔王デスヘルガイザー様を倒した怖ろしい奴だっ!!』

 救世の勇者……
 魔王デスヘルガイザーを倒した……

 おおっと!
 いきなりダンの話が出た。
 
 しかし、ダンは本人とは報せず、とぼけた。
 スオメタルへもアイコンタクトで合図して、内緒にした。
 『ふたりの正体』を黙っているよう伝えたのだ。

 そしらぬ顔で、ダンは人狼へ尋ねる。
 人狼もダンと話す事が慣れて来たらしく……
 あまり噛まないで喋れるようになっていた。

『ほう、救世の勇者ねぇ……俺は会った事がないし、良く知らんのだが……そいつは、魔族から見れば、特異個体の人間なのか?』

『そうだっ! あいつはとんでもない特異個体だ! 忠実なる女従士と共に、取り巻く魔王様の大軍団を蹴散らし、返す剣で魔王様を、あっさり瞬殺したらしいじゃないか!』 

『へぇ、そうなのか? 魔王を瞬殺ねぇ……』

『ああ、そうだ! 奴は凄く強い! 噂では魔王様を倒すのに、ほんの1分しか、かからなかったそうだぞ! 多分ホントだろうぜ!』

 人狼の言葉を聞き、ついダンが反応した。

『瞬殺とか、ほんの1分って……さすがにそれはない。魔王を倒すのに少なくとも10分くらいはかかった。話がとんでもなくでかくなってる。噂って怖いや』 

 思わず出たダンの独り言。
 1分はありえないとしても……
 魔王を倒すのに10分しかかからなかった。
 ……どちらにしろ、とんでもなく凄まじい強さである。

 しかしダンの言葉に反応し、人狼はいきり立った。

『何! さすがにそれはないだと! お前は俺の話を否定するのか! 正直に言ってるのに!』

『いや、すまん。お前の話を信じてるから、続けてくれ』

『ふん! 茶々を入れるな、人間! でだ、話を戻すと、その救世の勇者と女従士も、今は人間の街に居らず、行方不明だと魔族達の間で噂になってる! この魔境は空白地帯、領地切り取り次第だ。我が人狼族にとって好機到来なんだ!』

『そりゃ、そうだ。そんな大チャンス逃すなんて大馬鹿だよな?』

『おお人間! お前の言う通りだ! 魔王様亡き今……兄者達を含め、我等一族がこの地を制する! 覇権を握る! いずれは全世界を人狼族が支配するのだっ!』

『そりゃ、凄い! 人狼が全世界を支配するなんて壮大だ。夢があって良いなあ』

『夢ではない! 現実にする! 必ずする! だから矮小な人間如きに舐められたままではいかん! 人狼は他の奴らから魔王の資格なしと蔑《さげす》まれるからだ!』

『成る程なあ……この魔境を治めていた魔王が死んだから、魔族達が跡目を巡って争ってるってわけだ。だんだん事情が分かって来た』

 いろいろと状況は見えて来た。
 ダンは「うんうん」と頷く。
 
 しかし……人狼は相当の鈍感である。
 ここまで話せば、いい加減ダンの正体に気付いても良さそうなのだが……
 考えが及んでいないようである。

『そうだ! 偉大なる魔王様の跡を、我等人狼族が受け継ぐのだ!』

『人狼族が魔王か……そもそも魔王を目指すお前の兄者達ってどんな奴だ? お前と同じ人狼だろうが、同じくらいの能力か、それともずっと上か?』

『そんな事、答えられん!』

『まあ、良いや。ちなみにお前の兄貴って、俺が会った事あるか?』

『お、お前! もう忘れたのか! お前が俺達3兄弟を活動不能にした時、一緒に居たふたりだろうがっ!』

『へぇ、お前と一緒に居たあいつら二体か』

『そうだっ!』

『あいつら……自分達だって俺にやられたくせして、仕返しの為、末っ子のお前ひとりを寄越したんだ。随分、酷い兄者どもだな?』

 ダンが苦笑すると、人狼はいきり立った。

『お、お前! あ、兄者達を侮辱するなっ! 違う! お前みたいなひ弱な人間など、俺ひとりで充分だからだぁ!!』 

『ひ弱? 昨日、あっさりと俺ひとりに兄弟3人全員やられた癖に?』

『つ、つい! ゆ、油断してたからだぁ! それにお前、まともに戦ってないだろ!』

『まあ、確かに……お前らの魔力抜いて、動けなくしただけだからなぁ』

 腕組みをしたダンは「うんうん」と頷いた。

 昨日はパワハラ&わがまま王女アンジェリーヌから解放された念願の記念日……
 だから戦いたくなかった。
 ただそれだけの理由である。

『だろ! ひ弱なお前に! そこの超暴力銀髪女みたいな大技は使えん!』

 人狼はつい口が滑った。
 超暴力銀髪女……
 酷い悪口を言われ、スオメタルの顔付きは、冷徹な悪鬼のように変貌した。

『何ですってぇ! 誰が超暴力銀髪女でございますかっ! 凝りてないようなら、容赦なく魂ごと粉砕しますでございますよっ! クソ狼は、速攻、あの世へ行きたいでございますかっ!!』

『ひえええっ!』

 スオメタルのあまりの剣幕に、
 思わずダンの背後にこそこそ隠れる人狼。

 ダンはまたも苦笑しながら……

『おい、もしかして大技って……遠当ての魔法か? だったら俺にも使えるぞ。失われた古代魔法だけど、スオメタルに習ったもの』

 ダンがそう言うと、スオメタルは淡々と補足する。
 いつのまにか……悪鬼からいつものスオメタルへと戻っていた。

『はい、マスターは超優秀でございます! 私が教えた旧き世界の魔法全てを、たった3日で習得しましたゆえ』

『たった3日? さっきの魔法を!? な、う、嘘だろ!』

 信じられない!
 という人狼へ、スオメタルが抗議する。
 
『本当でございます。それから人の話をちゃんと聞いて頂けますか? しっかりとおぼえてください、さっきの、だけではございませぬ! 私の習得した旧き世界の魔法を数百でございます!』

『な!?』

『しかとおぼえておきやがれぃ、ワン公! 想い人のマスターとは魔法を教え合った仲、愛し愛されながら学び合った、ふか~い恋仲だって言ってんだよぉっ!』

 「えっへん」と胸を張るスオメタル。
 
 ございます!
 が一切消えた。
 そして何と、べらんめえ口調のノロケ話まで出た。
 
 恐怖と驚愕の連続だった人狼は、呆れ果て、
 もうついてはいけないが、恐る恐る聞いてみる。

『お、お前等、ふ、ふたりが? ま、ま、魔法を教え合った恋仲?』

『はい、その通り! 論より証拠でございます』

『は? 論より証拠?』

『はい! お前に見せてあげるでございますよ』

 スオメタルはそう言うとダンへ向き直る。

『マスター、とりあえず私とマスターの恋はさておき、魔法の発動のみで結構でございます。遠当ての魔法、宜しくお願い致します』

『了解! ほいっと! でございます』

 ダンも無造作に右手を挙げると、いきなり魔法を発動した。

 どっがががががががががが~~ん!!

 すると!
 スオメタルと同様、固く練られた魔力がダンから放たれ、
 轟音、地響きとともに、大岩が粉みじんに砕け散った。
 
 ちなみに、砕かれたのはスオメタルが砕いた隣に在った、
 同じように白っぽい大岩だ。

『ひ、ひええええ~~っ!!』

 歴史は繰り返された。

 ぎゃうん! ぎゃうん! と
 再びしっぽを丸め悲鳴をあげる人狼。

 とんでもない……
 とんでもない、ふたりにかかわってしまった……

 ダンとスオメタルを尾行して来た人狼は……
 心の底から大いに後悔したのである。
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