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第21話「勇者引退後の構想①」

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 スオメタルといろいろ話しながら、ダンは軽く息を吐いた。
 
 今のところ……
 練りに練って実行した勇者引退後の『計画』は順調である。
 
 支障は全くない。
 可愛いスオメタルという頼りになる相棒も得た。
 これまでと違い孤独ではない。
 
 ひょんなことから、新たな仲間も増えた。
 この城で……
 亡霊少女のタバサを拾い、いにしえに生きた半農半士のつわもの軍団スパルトイ達も配下に加わった。

 打ち捨てられ、不死者アンデッドノーライフキングが占拠していたオンボロの城も……
 しばらくすれば、ドヴェルグ職人のラッセ達が修理してくれる。
 何もない周囲も購入した上物を建てれば、少しはましになる。
 
 スパルトイ達の協力もあり、広大な畑も開いた。
 完全な自給自足は難しいかもしれないが、真似事くらいは出来るかもしれない。
 
 しかし予定は未定。
 未来は混とんとしている。
 先行きはどうなるか分からない。
 いろいろと準備しておく事に越したことはない。
 
 未来への期待に満ち、笑顔で話すスオメタルの顔を見ながら……
 ダンは昔の記憶を手繰って行った……
 
 ……物心ついたら、ダンは孤児院で育っていた。
 両親の記憶は全くなかった。
 
 ある日、司祭から、聞かされた。
 お前は孤児院の門前に置き去りにされた『捨て子』だったと。

 その孤児院には9歳まで居た。
 ある司祭とず~っと折り合いが悪く……
 遂に我慢の限界が来て、ある日飛び出してしまった。
 
 とはいっても9歳の孤児。 
 身寄りも知り合いもなく、行くところがなく、仕方なくスラムへ潜り込んだ。
 
 スラムは危険な場所であった。
 たかり、ゆすり、窃盗、暴行、強盗は日常茶飯事。
 殺人も良くあった。
 違法行為をする悪徳商人に騙され、ダンは奴隷として売られそうになった事もある。

 しかしダンは何とか生きていた。
 拾ったゴミを持っていたら……ある日、運よく売れた。
 生活の糧を得るのは、これだと確信した。

 幸い、ダンは手先が器用で物覚えも良かった。
 修理したものを市場の片隅で売ったら、更に高く売れた。
 こうしてダンは『ジャンク屋』となった。

 ジャンク屋は、基本地味で辛い仕事だ。
 ゴミ拾いと蔑まれ、追われたり、犬をけしかけられる事も良くあった。

 そして、ジャンク屋はさほど儲からない。
 寝なし草と呼ばれるダンの生活は相変わらず貧しく、生きるのに精いっぱいで、日々汲々としていた。
 
 しかし、ダンはジャンク屋の仕事が大好きだった。
 捨てられたゴミに自分を映していた。
 
 価値を認められず、打ち捨てられたものを、修復し、更に改良すれば……
 人は再び価値を認めてくれるからだ。
 
 親に捨てられた自分もそうだと信じていた。
 信じたかった。
 
 いつかは人の役に立てる。
 捨て子の自分も、生まれて来た意味が見出せると。
 そして、無価値の物を、価値ある物へ変えるジャンク屋……
 天職ともいえる仕事を全うする事が、自分の生きる意味だと実感していた。
 
 そんな矢先の事だった。

 何と! 何と!
 ……創世神の神託により、ダンは突如『救世の勇者』に認定されてしまった。
 
 王都の貧民街スラム……
 地味なジャンク屋でささやかに生計を立てていた少年のダンは……
 創世神の神託で数千万人の中から勇者に選定され、表向きは周囲から大いに祝福された。
 
 だが……あまり嬉しいとは思わなかった。
 強引に連れ出され、王宮に軟禁され、王女と家臣によるつ、訓練という名のいじめ、罵倒……
 心身ともに、死ぬ寸前まで追い込まれた辛い生活が始まったからだ。
 
 ジャンク屋をやっていた頃は、貧しいながらも楽しかった。
 苦しいけど充実の日々だった。
 勇者は……全く楽しくなかった。
 
 『勇者』になって早くも1か月後に……
 ダンはやめる事を……引退を考えていた。
 その後の生活をどうするのかも……

 まずは神託によって定められた約束ごとのひとつ……
 リオン王国王女アンジェリーヌとの結婚を回避する事を考えた。
 これはダンにとっては、どんな卑怯な手を使っても絶対に避けなければ!
 というくらいの必須事項である。

 平民の上、更に最下層であるダンを見下し、いびり、罵倒の連発、そして無理難題……
 地を這う小虫の如く自分を扱う、トンデモわがまま王女アンジェリーヌが……
 創世神の神託の為、イヤイヤ結婚し、超の付く悪妻になったとしたら……
 「間違いなく人生は破綻する!!」と、ダンは確信していた。
 
 魔王デスヘルガイザーを倒したとしても……
 引き続き、勇者の限界をも超えたレベルでビシバシ鍛えられ……
 罵倒に始まり罵倒に終わる辛く慣れない王宮での暮らし……
 
 このような無間地獄など、考えただけでも嫌だったのだ。
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