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第16話「ダンの過去、スオメタルの過去①」

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 いろいろあって……
 なんやかんやで夜もふけた。 
 
 壊れかけた城内の一室を片付け……
 ダンは収納の腕輪から簡易なベッドをふたつだけ取り出し、並べた。

 とりあえずこの部屋を『仮の寝室』とし、スオメタルと共に一夜を過ごすのだ。

 しかし……
 ふたりにくっついている見習い魔法使いタバサの幽霊が再び猛アピール。
 自分を天へ送らずに、長い目で育成すればどれだけ役に立つかを猛烈に強調した。

 雇い主に置き去りにされ、死んだという事情が事情。
 なので、ダンとスオメタルはタバサに同情し、つい話を聞いてしまった。
 結局は、半分以上が自慢話に過ぎなかったのだが……

 やがて、タバサの声が止んだ。
 ダンとスオメタルが見やれば……
 タバサは何と!
 空中に浮いたまま眠っていた。

「何だ、幽霊って眠るんだ? それも器用に寝るんだな」

「これでやっと眠れるでございます」

 ダンが懐中魔導時計を見れば……既に午前3時を超えていた。
 明日も早い。
 あっという間に、朝が来るだろう。

 ふたりは……
 それぞれのベッドへ入る。

 ダンの心に、心と心の会話、念話が響く。
 話しかけて来たのはスオメタルだ。

『マスター、少しお話ししたいでございます』

『構わないぞ。何だい?』

『マスターは王都のカフェで、スオメタルが絶対必要だとおっしゃって頂きました。……それは本当でございますか?』

ダンはこれまで女子に縁のない生活を送って来た。
ちなみに悪役王女アンジェリーヌは数に入っていない。

 話を戻すと、誰かから聞いた事がある。
 女子は言葉の確認や裏付けを取りたがると。

 だから即座に言葉を戻す。

『ああ、当然さ、スオメタル。お前が絶対に必要だ』

 ダンの言葉は、スオメタルの心へ大きく響いたらしい。
 大きな歓びの波動が伝わって来る。

『あっは! 嬉しい~!! スオメタルもマスターが絶対必要でございますっ! 一生、片時も離れないでございますっ! 私とマスターは相思相愛でございますよっ!』

『おいおい、《必要》を勘違いしないでくれよ! 王国でいえば、お前は王の腹心たる宰相みたいなもんだぞ』

『華麗にスルー、何もきっこえませ~んでございますぅ!』

『おいおい』

『マスターが意地悪王女と結婚しなくて良かったでございます! あんなアホ王女など全く不要でごまいますっ! マスターには私スオメタルが、永遠の想い人がしっかり居るのでございまっす!』

『ふうう……永遠の想い人ねぇ……』

 《想い人》というよりは、《とびきり可愛い妹》のような感覚……
 スオメタルはそんな存在かもしれない。
 でも『妹』とは、口が裂けても絶対言えない。

『それと! 勇者のマスターが表向き王国追放という事は、屁理屈を申しますと、マスターがダン・ブレ―ヴ以外となって入国する分には構わないという事でございますねっ! うふふふっ!』

 スオメタルは含みのある言い方をした。
 ダンも同意、「にやっ」と笑う。

『その通り。俺は変身魔法を使い、全くの別人に擬態して行く。それゆえ買い物や用足しに支障はない。これまでと全く一緒だ』

『了解です! ならば、私スオメタルもぜひぜひ! また王都へ連れて行ってくださいませっ! マスターと同じく、別人に擬態致します。私も変身魔法で髪の毛の長さや色、瞳の色も自由に変えられまっす。毎回違う女子になれるでございますから!』

『ああ、全然構わないぞ。一緒に別人になり切って、今日……いや、もう昨日か。昨日みたいに王都で堂々と買物しよう』

『と、なれば! 昨日のように私とマスターとラブラブ♡、うきうきデート! でございますねっ!』

『いや、ラブラブ♡、うきうきデートじゃないだろ、単なる買い物とお茶だって』

『全く何も、きっこえませ~ん! 華麗にスルー。でもでも! 遂にマスターも勇者稼業から完全解放されましたでございますね~』

『ああ、やっとだ』

『うふふ! マスターは勇者というよりも、便利屋というか、雑用係というか、はっきり言って王女の専属奴隷でございましたからね~』

『全くだ! 魔王は倒したから、勇者としての義務はしっかりと果たした。だから今度は人生を思いっきり謳歌する権利の主張だ』

『義務を果たしたのだから当然の権利でございます! 全くの御意でございます!』

『ああ! これで俺は、全てのしがらみから解放され、ようやく自由にのびのびと生きていけるぜ!』

『愛し愛され、想い人の私も居ますしね~、幸せ倍増、夢倍増!!』

『おう! って……想い人はちょっと違うけど、今後とも宜しくな!』

『はい! 私はマスターに対し、本当に本当に! 超が付く大感謝をしているのでございますっ!!』

『おいおい、良せよ。今更』

『とんでもないっ! 私はいつも大きな大きな感謝の気持ちを胸にしておりますゆえ!! 助けて貰ったご恩は絶対に絶対に忘れませんっ!!!』

 スオメタルに言われ、ダンの目が遠くなる。
 記憶を手繰たぐっているらしい。

『……あの時は、ついジャンク屋やってた時の癖が出た』

『は~い! 王都で、むしろを敷いて廃品を売っていた前職の癖ですよねっ! あの時だけは、マスターの性癖に感謝でございます!』

『あの時だけはって……』

『言葉通りでございます。私を拾って頂いた事だけは、大いなる偉業でございます!』

『大いなる偉業か、お、おう、そうだな……その通りだ』

『御意でございます』

『う、うん。さっきも言ったが……捨て子だった俺はガキの頃から、自分ひとりで生きて来た』

『はい、マスターは生まれながらに孤児であったと聞き及んでおります』

『ああ、孤児院の司祭に聞いたら、生まれてまもなく捨てられていたらしいよ。だから、孤児院を出てから、生きて行く為にいろいろ仕事をしたが……行き着いたのが、ジャンク屋。まあその日暮らしな貧乏ジャンク屋だった』

『はい、収入ゼロの日も多々あったと』

『ああ、そうさ。でもジャンク屋が大好きだったから、くず鉄やら、まだ使えるゴミやら何でも拾い、そのまま売れるモノは売り、修理して売れるモノはコツコツ直して売っていたんだ』

『それで私を見つけて……売ればお金になると思って拾ったと!』

『ああ、そうだ。最初はな……単なる自動人形オートマタだと思ったからな』

『最初は?』

『おうよ! こりゃ儲けたと思い、古代遺跡で、打ち捨てられていた自動人形のお前を拾って修理した』

『仰る通りでございます』

『でも……修理していくうちに、お前の素性が徐々に分かった』

『はい、マスターいろいろ頑張るのが、私の心へ伝わって来たでございます』

『ああ、ほぼチンプンカンプンだったからな。いろいろ駆けずり回った。勉強もした。それで何とかなった。結果、完全に理解した。お前の魂は人間だと』

『マスター……』

『人形の修理じゃない! 俺はお前の身体を治したんだ。医者か、治癒魔法を使う司祭のようにな』

『でも……マスターは、治した私を売らなかったでございます……自動人形の私を……』

『当たり前だ! 今言っただろ! お前は人間だぞ、人間なんだ! 自動人形は仮初かりそめの姿じゃないか!』

『確かに……今の身体は、スオメタル本来の生身の身体ではございませぬ』

『おうよ! 俺はゴミ拾いのジャンク屋だが、薄汚いクソ奴隷商人なんかじゃねぇ! 人間を売れるわけがないっ!』

 何と!
 銀髪美少女スオメタルは生身の人間ではなかった。

 旧時代の自動人形オートマタ、

 それも人間の魂を宿した自動人形……だったのである。
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