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第9話「再び魔境へ」

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 しばらくして、カフェを出たふたりは、大手を振って王都の正門を出た。
 
 やはり、王都市民の誰もが、ダンを救世の勇者とは気付かない。

 解放感に満ちあふれたダンはスオメタルを連れ、街道を歩いて行く。……
 そしてひと目がなくなると、ふたりはさっと街道から目立たない雑木林へ入った。
 
 周囲に誰も居ない事を再度確かめたダンは、即座に転移魔法を発動、
 リオン王国を、スオメタルと共にさっさと後にしたのである。

 と、いう事で、さてさて!
 ダンとスオメタルのふたりが今、歩いている周囲の景色は王都アンペラール近郊ではない。
 彼を追放したリオン王国国王セザールと約束した通り、
 人々が『魔境』と呼ぶ、この大陸の1/4を占める、広大な未開の地に隣接した土地だ。

 魔境は多種の樹々から構成される森林が大部分を占め、次いで草原、更に水量豊かな湖、川があるのは勿論、急流を伴う渓谷、巨大な岩だらけの原野、灼熱の砂漠など様々な地形がある。

 人間が殆ど住まないこの自然環境厳しい魔境には……
 当然ながら人間の王国はひとつも存在しない。
 
 また肉食、草食ともども普通の獣が数多生息するのは勿論のこと……
 強靭な竜の一族、夥しい大中小の魔獣に、魔物、果ては邪悪な亡霊、不死者アンデッドまでが跋扈ばっこする呪われた地でもある。

 前述した通り、倒した魔王デスヘルガイザーが住んでいた城もこの魔境にはあった。
 しかし、ダンが新たに住まう地からは遠く離れていた。

 今回ダンが『流刑地』として国王セザールから与えられた土地はこの魔境に隣接していた。
 つまり魔境と全く変わらない地である。

 一時は、リオン王国が領有権を主張した。
 だが、領主として任官した某貴族が、魔王軍侵攻の恐怖に耐えきれず、夜逃げして現在も行方知れずという『曰く付き物件』なのである。
 
 と、ここでダンは自分へ接近する何者かの気配をキャッチした。
 まあ、ここは自然満ち溢れる魔境。
 数多の生物が息づいている。
 犬も歩けば何とやらで、
 ……何者かとは魔族か魔物、良くて中型以上の獣であろう。
  
 相手との距離は約数百メートル……
 
 既に索敵の魔法が発動中。
 ダンの心の中にあった、『アンノウン』という表記がはっきりと切り替わった。
 スオメタルも同じく気付いたようである。

『マスター、ご注意を! 接近する魔族が3体おります』

『ん? この気配は人狼……ワーウルフか? えっとスオメタルの言う通り、3体だな』

『御意でございます』

 人狼とは……
 魔族であり、狼の姿をした獣人の一種だ。
 完全な狼、または半狼半人の姿に変身する能力を有している。
 
 通常の狼を眷属とし、魔境に迷い込んだ人間は勿論、
 たまに人里へ出て、人間を襲い喰らう。
 つまり人間を喰う捕食者である。

 通常の人間では身体能力に差があり過ぎ、 
 あっという間にかみ殺され、喰われてしまうのが常だ。

 一方、人狼どもも、ダンとスオメタルの気配に気づいているのだろう。
 獲物として捕らえる意思を持っているに違いない。
 
 どんどん近付いて来る。
 やがて……
 ダン、スオメタルと人狼ども3体は正面から向き合った。

 出会った人狼どもは……
 半狼半人の姿であった。
 半人と言っても衣服などはつけていない。
 牙と爪、筋肉を誇示し、威嚇いかくして来る。

 しかし、ビンタ300発とこぶし1発で魔王を倒したダンとスオメタルにとって、
 人狼3体など、単なる雑魚である。
 ふたりは当たり前だが、慌てず騒がず平然としていた。

 自分達を恐れないダン達を見て、
 人狼どもは再度唸り、う~っと威嚇する。

 人狼は人間語は話せないという。
 しかしダンは、念話により人狼の心を読む事が出来る。
 こちらの意思も、しっかりと伝えられる。

『おい、お前等……今日はやめないか、戦うの。追放され……いや! 解放された記念日なんだ』

 《!!!!》

『なあ、おまえらは初見だから、特別に見逃してやる。とっとと巣に、帰れよ、頼むからさ……』

 人狼どもは念話で意思を伝えて来たダンに、びっくり。
 一瞬だけ躊躇ちゅうちょした。
 しかし彼等の本能が、食欲が僅かな恐怖に勝った。

 飢えた人狼どもはダンの忠告を無視し、襲いかかって来たのだ。

 があああああああっ!
 ごおおおおおおお~!
 ごあああああああっ!

「ふっ」

 ダンは3体の人狼どもの攻撃を軽々と躱し、ほんの軽く頭部に触れた。

 ぎゃっ!
 がっ!
 がう!

 ダンの手が触れたと同時に、
 人狼どもは短い悲鳴をあげ、地に崩れ落ちた。
 「ぴくぴく」けいれんし、全く動けない。
 
 ダンの特技のひとつ、吸収魔法により、
 人狼どもは行動力の根幹たる魔力を9割以上失ったのだ。

『お見事でございます、マスター。これぐらいのやからは、次回以降、私が対応致しますよ』

『了解!』

 スオメタルに言葉を戻したダンは、倒れ伏した人狼達へ向き直った。

『おい、お前ら! 今回に限り大サービスだぞ……魔力を95%抜くだけで勘弁してやる。魔力が回復すれば動けるようになる。その前に他の奴に襲われたら不運だとあきらめろ』

『…………』

『今度刃向かったら……容赦なくぶっ飛ばす』

 ダンは最後にそう言うと……
 倒れたままの人狼を放置し、スオメタルと共に再び歩き出そうとした、その時。

 ぱちぱちぱちぱち……

 どこからともなくリズミカルな拍手の音が起こり……
 辺りには、瞬時に大きな魔力が満ちたのである。
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