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第5話「婚約破棄!!追放!!」

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 ここは……
 リオン王国王都アンペラール、王宮の大広間である。

 約1年前……
 この異世界の『世界宗教』創世神教……
 主たる創世神に仕える巫女からの神託により、
 『救世の勇者』と認定されたひとりの若者が見出された。

 勇者の自覚など全く無かった若者は、
 テンプル騎士団により王宮へ連れて来られた。
 
 その後、若者は、1年間の『とてつもなく厳しい訓練』を経て、
 勇者として完全に覚醒、見事に魔王を倒した。
 
 結果、勇者たる若者が、国王セザール・コデルリエに、
 魔王を倒した勇者として、華々しく謁見していたのである。

 セザールの厳かな声が大広間に響く。

「全属性魔法使用者たる、偉大なる創世の勇者ダン・ブレ―ヴよ! 良くぞ、悪しき魔王デスヘルガイザー及び魔王軍を倒した!」

「は!」

 国王の口上に対し、勇者ダンは短く応えた。
 セザールは頷くと、軽く鼻を鳴らし、口上を続ける。

「悪は滅び、これで世界は平和となった! この平和はそなたが奮闘ふんとうした賜物たまものである!」

「は!」

「そなたには創世神様の勇者法に基づき、最高の栄誉として、婚約した我が美貌びぼう愛娘まなむすめアンジェリーヌをめとらせ、特例として王族公爵の爵位と肥沃な領地、莫大な報奨金も与えよう」

「はは~っ」

 魔王を倒した『救世の勇者』が王様に労われ、素晴らしい褒美を授かる。

 ここまでは……良くある光景である。
 倒した魔王も「いかにも悪」という名前だし、
 誰もが「うんうん、まあこんなものだ」と納得し、頷いているだろう。

 しかし!
 ここで様相がガラリと変わった。

 セザールの表情が不機嫌そうに変わり、
 とんでもない言葉が発せられたのである。

「とは思っていたが……熟考の結果、予定を大幅に変更とするっ! 勇者ダン、お前を我が王国から追放する。数年前に放棄された魔境へ接する旧領へ赴くが良い! 理由は、お前自身が良~く分かっていよう」

 大功ある勇者を追放!?
 理由は勇者が知っているぅ!?
 
 ざわめく大広間。

 しかし勇者――
 ダンは顔色を全く変えず平然と、

「はは~っ」

 と深く頭を下げた。

 ダンへ、セザールの衝撃的な口上が更に続く。

「追放の理由は、ダンよ! 余とお前の内々の話という事で、事情は一切を非公開とする!」

 追放の理由を一切を非公開!?
 非公開って何?
 納得出来ないっ!

 そんな声なき抗議の波動が、謁見の間に満ちて行く……

 しかしセザールは、まるでダンを鞭打つように容赦なく口上を述べて行く。

「ダンよ、しかと聞け! 我が愛娘、王女アンジェリーヌとの婚約は破棄するっ!! 結婚も当然ご破算だぁっ! 王族爵位の授与、報奨金も一切支払いなしとするぞ!」

「はは~っ」

 王女アンジェリーヌとの婚約は破棄!!
 結婚も、当然ご破算!

 この時、ダンは誰にも気づかれないよう、舌を「ぺろっ」と出していた。
 そして絶対に聞こえないように口の中で「やったぁ!」と快哉を叫んでいた。

 ざわざわ……

 一方、どよめきは……
 具体的に疑問とセザールへの非難となって行く。

「えええっ? 王様、勇者を追い出すなんて酷い!」
「ダンは世界を脅かす魔王を倒した大功労者なのに、褒美がゼロなんてどうしてっ!」
「万が一、魔王が再出現したら、勇者不在で、どうする気?」

 そんな非難を耳にしながら、思わずダンは舌打ちをしそうになる。
 声には出せないが、はっきりと言いたい。

 こら!
 くそ家臣ども!
 バカの脳筋騎士団長も、プライドだけの薄っぺら王宮魔法使いも、
 厚顔無恥の老害侍従長も!
 その他もろもろ全ての腰ぎんちゃく、コバンザメどもがっ!

 散々、クズだの、ゴミ拾いだの、最低野郎だの、俺をバカにしやがって!
 いざという時に、居なくなったら困るだと!
 ふざけんなよ!

 微妙な雰囲気の中、セザールは念を押す。

「良いか、勇者ダン、念の為、聞こう。我が王国からの追放を了承するな? 創世神様の名においての約束だぞ!」

「はい、お約束致します! 今後は互いにお構いなしの完全無関係という事で、お約束、創世神様に誓って、確かに承りました。俺はこの国を出て、未開の地、魔境にて生涯を終えたいと思います」

「うむ! 余と家族、家臣一同、王国の全ての民も創世神様に誓って、お前と約束しよう! ここで余が署名した書類も渡す! 念の為、先に授けた我が国ゆかりの勇者専用の武器防具一式も返却し、身ひとつで出て行くが良い!」

「はい、喜んで! すっぱり! ご返却致します! これからは勇者ではなく、ひとりの平凡な人間として地道に生きて行きたいと思いま~す」

「何で~っ! 一旦授けた武器防具を返せなんて酷い!」
「王様、せこい! どうして~っ!」
「よりによって、勇者をあんな辺境の地へ追放なんてどうかしてる! まるで幽閉じゃないか!」

 と、ここでダンが声を張り上げる。

「皆様! この処置は私ダン・シリウスが自ら望んだモノ! 神託の規約もちゃんと順守しております! どうか王を責めないでくださいませ!」

 四方へそれぞれ深く礼をした勇者――
 否!
 既に勇者ではない少年ダン・シリウスは、きびすを返し、
 「すたすた」と全く未練なく大広間を出て行ったのである。
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