姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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37. 王子と姫は本当の婚約者になれた

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 姫野が度々無言になりながらも何かを言いたそうにしていますが、そんなに言いにくいことなのかな?と今は思いながら姫野の言葉の続きを考えています。

 まさか…付き合ってすぐに別れるとかはないよね。

「やっぱり遠距離恋愛は自信がないから別れよう…」って言わないよね…。

 どちらかと言えば…「遠距離恋愛になるけど俺を待っていてくれる?」って言う逆パターンを私としては期待したいです。

 姫野…早く続きを言って下さい。お願いします!と念を込めて姫野を見た。

 目があったと思ったら、姫野が目の前に置かれていた水をごくごくっと一気に飲みほしコップを勢いよくテーブルに置いた。

「王子…いや光!俺と結婚して一緒に海外に行って欲しい」

 そう言い終わると姫野は私に向かって頭を下げて片方の手を出した。

 私の予想はどちらもハズレだった。

 これってプロポーズだよね…。

 しかも…光って名前を呼びながら…。

 この出された姫野の手を掴めばプロポーズを受けるということになるのかな。

 …嬉しいんだけど決心がつかない。

 正直…何度も考えたよ。だけど海外で暮らせる自信もないし今の仕事も続けたいと思っていたし…どうしよう。

 結婚したくない訳ではないんだよ。だけど、今すぐ!っていうのは…。

 私がすぐに手を掴まなかったので姫野が下げていた顔を少し上げてチラリと私の方を見て、また頭を下げた。

 …姫野と別れるという選択肢はない。

 そう思うと自然に手が伸びていた。

 緊張しているせいか冷たくなっている姫野の手に触れる。

 指先が少し触れた時点で勢いよく下を向いていた顔が上がってきた。

「オッケーってこと…だよな?」

 嬉しそうな笑顔の姫野。…どう説明をするべきかな。

「そうなんだけど…」

「え…そうなんだけど?」

 たぶん「うん」て答えを聞けると思っていた感じの姫野が不思議そうに見ている。

「プロポーズしてくれたのは素直に嬉しい。ありがとう。だけど…今すぐに結婚は…難しいかな。このまま婚約者で暫くいるのはダメかな?」

 まさかの答えだったのか姫野がまた固まってしまっている。

 どうしよう…。今すぐに結婚しないなら別れるとか言わないよね。それは嫌だよ。

「姫野と絶対に別れたくないし、結婚はしたいんだよ。ただ、今の仕事をもう少し続けたいと思って…」

 どう伝えたら良いか分からなくなってきて最後の方は声が小さくなってしまった。

「…良かった。俺との結婚は嫌じゃないんだな」

 姫野がホッとした表情をした。

「光が仕事を続けたいならそうすれば良いと思う。俺にそれを無理やり辞めさせる権利はないと思うし…。それに俺も結婚を今すぐしないからといって別れる気はないよ」


 だけど…良かった…。「別れる気はない」という姫野の気持ちを聞けて嬉しい。けどそうなると遠距離恋愛になるんだよね。これはこれで複雑だよ。

 問題はすぐには解決しないんだね。


「お待たせしました。ホットコーヒーです」

 ちょうど話が終わったタイミングで店員さんがコーヒーを持ってきてくれた。

 コーヒーを置いて店員さんがいなくなって後、姫野が立ち上がり、私の横に席を移動してきた。

「どうしたの?」

 いつもは対面で座るのに…。

「これ…」

 姫野が自分の手のひらに小さな箱をのせて私の前に出して蓋を開けた。

「前の指輪は偽物の婚約者という嘘をついて渡したから…。今度は本当に本当の婚約指輪を選んできたんだ。俺が…光の左手の薬指にはめても良いか?」

「うん。嬉しい…」

 私は左手を姫野に向けて出した。

 姫野は私の手を優しくとり箱の中から出した指輪をゆっくりと私の薬指にはめた。

 宝石には詳しく無いけどダイヤがついているのはわかる。それと水色と紫色の宝石がはめ込まれている可愛らしいデザインの指輪だ。

「この色って…」

「気がついたか?俺達の昔のカラーをイメージしてみたんだ」

 二人で雑誌の写真を撮影する時にあったイメージカラーの水色と紫色。懐かしい…。

「俺はあの頃からずっと光が好きだった。だけど素直じゃない俺はそれを見せなかったし言わなかった。だけど…光は何も言わなくてもずっと俺の隣にいるんだと思ってたんだ。光がバレーを辞めるまで俺はずっとそう思っていた…」

 私の手を姫野が優しく包みこむように両手で覆った。温かい…。

「姫野…」

「だけど…光は俺の隣から何も言わずに居なくなって…。しかもその原因に自分が関係していると知って…どう接したら良いかわからなくなってしまったんだ。だから…偽の婚約者なんて話を持ち出したんだ。騙してごめん」

 姫野の顔があまりにも悲しそうな笑顔になっているのを見て、なんだか胸が締め付けられる様な感じがした。

 私はそっと姫野の手の上に自分の手を重ねた。

「姫野…ううん…優、何度も言うけど私の引退の原因は優じゃないよ。罪悪感なんて持たなくて良いんだよ。黙って側から居なくなってごめん。嘘までつかせて苦しかったよね本当にごめんね…」

 姫野が私の手の上に自分の手を重ね直して動かしながら左手を見えるようにしたと思ったら、また前の時と同じように薬指にはめた指輪にキスをした。

「ちょっ…」

 だけど今回はそれだけで終わりじゃなかった。指輪の後は手の甲…それから…。

「…ここ…カフェだよ。人…人目が…」

「カーテンで見えない…」

 優の綺麗な顔が近づいてきて額、鼻の頭、頬…。ここまでが私の限界です。目を閉じてしまいました。

 唇に姫野の温度を感じます。

 不思議だけど幸せな温かさ…。

 今日…本当の婚約者になれた気がした瞬間でした。

 
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