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33. 姫は王子に告白する
しおりを挟む姫野に急に抱きしめられて、私の全てがフリーズしています。一体何がおきたのか?
「…姫野?」
姫野は私を抱きしめて顔を私の肩口に埋めています。だから、顔が見えないんです。何も言わない姫野の表情が気になって仕方ありません。
「…ごめん。本当にごめん」
何を謝ってるのかな。もしかしてイルカショーで濡れたことを謝っているの?そんなこと気にしなくて良いのに。
「濡れた事なら楽しかったから気にしてないよ」
私は姫野の背中をポンポンと叩きながら言った。
「…違う。その事じゃなくて…」
違うのか。じゃあ、何に対して謝っているんだろう?その続きを知りたいのに姫野から言葉の続きが出てこない。聞いても良いのかな。
「え…と、じゃあ何を謝っているのか聞いても良い?」
「………それは…」
姫野が言いにくそうにしているけど、そんなに言いにくいことなんか今日あったかな。
「知らなかったんだ…つい最近まで本当の事を…」
ポツリ、ポツリと姫野が言葉を選んで話しているのが何となくわかった。
「何を知らなかったの?」
私に謝らないといけないけど、姫野が最近まで知らなかった事…って、もしかして…。
嫌な予感がしてきた。そういえば傷のある足を見ていたんだった。
「お前が…バレーを…辞めた…理由」
やっぱりその事なんだ!
「俺の…ファンが…お前を…突き飛ばしたんだろう?何で俺に文句の一つも言いに来なかったんだ!?」
やっと顔を見せた姫野の目尻に光るものが見えた。
こうなるだろうと思ったから言わなかったんだよ。…とは言えない。
あの時、確かに姫野に伝えるべきだと周りから言われたけど…言わなかったのは姫野が真面目で精神的に脆いところがあるのを知っていたから。
あの時、姫野はプロからスカウトされていて頑張っている時期だった。それなのに、この事を知ったら直接関係してなくても姫野は気にしてバレーに集中できなくなる可能性があるかもしれないと思ったら言えなかった。だから他の人にも口止めしていたのに…何で今頃になって知ったんだろう。
もしかして…最近、姫野の様子が違うのは私への罪悪感を感じていたからなの…。
そう考えると胸の奥がギュッと誰かに捕まれたように痛く感じた。
でも…私に今出きることをしないと…。
「どうして言う必要があるの?姫野は直接指示したわけでもないし、現場にもいなかったんだよ。あの時、私は自分の判断でファンの人達の方に行ったんだから姫野が謝る事なんか一つもないよ」
私は笑顔を作って姫野を見つめた。
「…なんだよ…それ…。何でそんな顔…見せるんだ…」
姫野は目から溢れる涙を拭くこともなく、私をじっと見ている。
「お前の…夢は…プロバレー選手…になること…だったよな」
確かにあの時はそうだったかもしれない。あの怪我の後はいろいろ考えたし、落ち込んだり泣いたりもした。けど…。
「あの時はね。今は、立派な靴職人になることだよ」
今はもう吹っ切れている。もし、プロバレー選手になっていたとしても長く続ける事ができたかわからない。故障や体力的なもので早期リタイアで次の職を探さないといけないこともある。それが少し早かっただけだと今は考えられるようになったんだよね。
やっと…って感じだけどね。
「しかし…お前の…最初の夢を奪ったのは…」
この続きを姫野に言わせたくないな。
「姫野じゃないよ。そこは事実。勘違いしないでね」
姫野が責任を感じることなんて1ミリもないんだよ。それで責任を取るなんて言われたら…悲しすぎるかも…。
「お前は本当に…それで良いのか?」
「うん。良くなかったらとっくに姫野に言ってるよ」
姫野が無言でまだ私を見つめている。
さすがにこの距離でずっと見つめられていると恥ずかしくなってきた。
「やっぱり王子は王子様だな…」
どういう事?
「俺はそんな王子の事が…ずっと好きだった」
…今、何て言った!?
私の事がずっと好きだった!?
「…姫野が私の事を好き?」
「ああ…。だが、お前が怪我をした原因を知って、俺にはお前に好きだと言う資格がないと思っていたんだ。だからこんな手の込んだ芝居を考えて…」
手の込んだ芝居?
姫野がブツブツと横を向いて何かを言い始めたけど…。
ダメだ…。姫野が私を好きだと聞いてからドキドキとフワフワとそれから…それから…いろんなものが混ざって何も考えられないよ!
だけど、これだけは言っておいた方が良いと思うんだよね。
「…私も姫野の事が好きだよ」
横を向いていた姫野の顔が凄いスピードで私の方に向き直した。
「え?い、今…何て言った」
二度も言わすのか…。顔の温度が上がって、真っ赤になっているのを見てわからない?
「…私も好きだよって言った」
姫野が目を見開いて一瞬フリーズした後で急に私を抱きしめて上に持ち上げた。
「夢じゃないよな?王子の感触…あるな…夢じゃない」
私の身体を触って確かめるのはどうなんだろうかと言いたいけど、抱きしめてもらえてるのは嬉しいので何も言わない。
私を抱き上げてクルリと一回転した姫野のバスローブの紐がハラリと床に落ちた。
「ちょっ!姫野!!前!はだけてる!!」
裸にバスローブを羽織っていたらしい姫野の裸体が丸見えになっている。
「うわぁ…」
「また、うわぁって…」
「「フフッ…」」
二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
結局…私達の告白はロマンチックとはいかなかったけど、私達らしかった…かも。
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