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32. 王子は姫に抱きしめられる
しおりを挟むどうしてこうなったのか…。
現在の私の状況を報告させてもらうと、ホテルの一室でシャワーを浴びて、スッキリした状態です。
今からランチに行く予定で水族館を後にしたはずだったんだけど…。
あの後、海の見えるホテルのレストランで食事をすると言うことを姫野から聞いて喜んだのだけど、イルカショーで水を浴びて二人とも少しヨレヨレになっていたことが気になるよねって二人で話をして…そしたら、いつの間にか姫野がホテルの一室を予約してたんだよね。
因みに姫野は今は部屋にいません。私達の服を買いに行ってくれているんです。
その事に少しモヤモヤするのはなぜなんでしょうか?
こういうことに慣れているのかな?
手際が良いというか…良すぎるというか…。
今までの彼女達で慣れているのかな。今来ているホテルとかも何度も利用してるとか…。
だって女性の服を買いに行くって…お店の場所とかもわかっているということだよね。
ダメだ…考え出したら止まらなくなってきた。
姫野がモテるのは前から知っている。今更何が気になるのよ私…。
小学生の時からすでにモテていた姫野。あの時すでに地域にファンクラブがあったんだよね。確か…"姫を見守る侍女会"だったかな?変な名前だなと思ったので間違ってないと思う。
子供から大人まで年齢層が幅広く、どこに行くにも必ず誰かがいたんだよね。
姫野に近寄る女性は危険人物リストに名前を書かれてマークされるという…熱心な活動をしていたんだけど私はそのリストに載ることは無かったみたいでよく話しかけられていたな。
皆さん私の事を姫野を姫様と呼んでいたせいか王子様と呼んでくれていたんですよね。
「王子様、今日の姫様のご機嫌はどうでしたか?」
「今日は鼻をよく触っているから機嫌が悪いみたいですよ」
「そんな癖があるんですね。会員に知らせておきます。あっ、それから最近姫様にしつこく付きまとっている女性がいるみたいなので絡まれないように気を付けてくださいね」
「わかりました。気を付けます」
その後、気を付けると言っておきながら、その女性に「姫野に近寄るな!」と絡まれていたところを皆様に助けていただいたこともあったな…。
あれ?よく考えたらあれだけ鉄壁な守りがあって姫野に彼女なんてできたのかな。
何だかモヤモヤが薄くなっていくのを感じます。
私のこの気持ち…誰に対する嫉妬?
やっぱり…これって理解できていなかっただけで私はずっと前から姫野の事が好きだったんだよね。
何十年もかけてやっと理解できる…って私って本当に鈍感過ぎだな。
他の人には触れられるとドキドキしないのに姫野に触れられてドキドキするのも、何気ない笑顔にときめくのも…全部、ぜ~んぶ姫野の事が好きだからなんだよね。
私ってバカだな…。
今さら気がついても遅いよ。
今の私は姫野に本当の婚約者が見つかるまでの偽物の婚約者。
姫野の近くで姫野が他の女性に恋をして婚約して付き合うまでを見ていないといけない。それなのに…恋心なんて物に気がついて何の得になるのよ。…地獄だよね。
確かに好きな人には幸せになってほしい。だけどそれは私の知らないところでだよ。目の前で見せられたら…きっと私の心が苦しい。苦しくて耐えられないかもしれない。
想像しただけでもそう思える。
だけど、一度引き受けた偽物の婚約者役を今さら断るのも変な感じだし…。
どうしよう。
こんな気持ちのまま続けられるのかな…。
ガチャガチャ。
ホテルの部屋の扉が開く音がした。姫野が帰って来たみたい。まだ気持ちの整理がついてないのに…。
「なっ!お前…何でそんな格好でいるんだ?」
そういえばバスローブを羽織っただけの姿だったよ。後で着替えようと思ってたんだけど…。着ていた洋服をハンガーにかけてドライヤーで乾かそうと思っていたのだけど、姫野の事を考えてボーとしてたんだ。
顔を私から背けた姫野が手に持っている紙袋をこちらに差し出している。
「これ、値札とかは切ってもらってすぐに着られるようにしてもらってるから着てくれ。趣味じゃなかったらごめん」
「ありがとう…」
「俺は今からシャワーするからその間に着替えて…」
「わかった」
姫野がすぐにバスルームに入っていった。
私は紙袋から姫野が買ってきてくれた洋服を取り出す。
「可愛い…」
淡い水色のロングワンピースに白いカーディガンの組み合わせだ。すぐに着替えて鏡の前に立ってみた。
「朝とは別人だね…」
あんなに頑張ったお化粧もすっかりとれてスッピン(眉だけは描いた)だし、髪の毛もいつも通りに戻ってしまった。
「童話のシンデレラの気持ちが理解できる日がくるなんて思ってなかったな…」
12時を過ぎたシンデレラは今の私と同じように魔法が解けた自分を見てガッカリしたんじゃないかな。素敵なドレスを着て、素敵な王子様とダンスを踊って夢のような時間を過ごした後の現実か…。
鏡の前で現実を見て時間が止まる。
そこにシャワールームから姫野が声をかけてきた。
「もう着替えはすんだか?」
「うん。終わったよ」
姫野がシャワールームから出てきて私の姿を見た。
「良かった…。似合ってるな」
褒めてくれた姫野の目線が私の足で止まっていることに気がついた。
しまった!まだストッキングをはいていなかった。傷が見えてる。
「その傷…」
「あっ…この傷は昔のだから…」
気にしないでって言おうとしたのに、姫野に抱きしめられて続きが言えなかった。
私はなぜ姫野に抱きしめられているんだろう…。
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