姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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30. 姫に王子は助けられた

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 声をかけられた方向に振り返るとカメラを肩からかけた見知らぬ若い男性がいた。誰だろう?

「あの…失礼ですがどちら様ですか?」

 もしかして私が忘れているだけかもしれないから丁寧に対応することにした。

「いや~、驚かせちゃいました?僕、こういう者で~す」

 名刺を手渡された。

「WHOチューバーのUさん方ですか。私に何か?」

 WHOチューバーって動画とかをアップしてお金を稼げるとかいうあれだよね?私はやってもいないし見ることもないけど…。

「そんな警戒しないで下さいよ。姫野選手とデートしてたでしょ?」

 は?この人、私と姫野が一緒にいる時から見ていたんだ。

「あの…私、今は一般人で取材を受ける様なことはありませんよ」

 あまり強く言ってしまうと姫野に迷惑かもしれないから言い方に気を付けた。

「またまた!学生時代はバレーで有名な選手だったじゃないすっか。それに今はバレーのスター姫野選手の婚約者っすよね。一般人と言うには少し有名すぎませんか~」

 ニヤニヤと笑いながら話しかけてくるこの男性が気持ち悪く感じる。私に対して悪意があるのかな。

「昔は昔です。お話がそれだけなら失礼しますね」

 姫野が向かった売店の方向に行こうと立ち上がったが、Uさんが私の手首を掴んで引き止めた。

「ちょっと待って下さいよ~。僕に動画を撮らせてくれればすぐに帰れますから…。その水に濡れた姿…なかなか良いですね…」

 背筋がゾワリとして悪寒が走った。この人気持ち悪い。離れたいのに手首を強い力で掴まれていて離れる事ができない。

 これって、警察に通報しても良いよね。

 …ダメだ。手首を掴まれていて片手しか使えないから鞄から携帯を取り出せない。

 その間にもUさんは私をにカメラを向けている。

 この映像をどうするつもりなんだろう…。まさかネットにアップするつもりなの?

 今の私は大量の水を浴びて服が体に張り付いている状態なんです。色が白ではないから透けてないのがせめてもの救いです。

 だけどワンピースだからな…。

 いつものジーンズとかパンツとかならもっと気にせずに動けるんだけど…。女性らしくするっていろいろと面倒だし大変なんだと改めて実感してます。

 …って、それどころじゃないんでした!

 何とかして止めてもらわないといけないんだった。

「あの…」

 私がもう一度話をしようかとした時だった。

「おい!王子に…なにしてんだ?王子の知り合いじゃないよな」

 大きなタオルを持った姫野がいつの間にか帰ってきました。

 私は姫野に向かって黙って頷いた。

「お!姫野選手が来た~!!ツーショット頂きで~す!」

 カシャッ!

 カメラのシャッター音がしたので撮られたのかと思ったら違っていました。今のは姫野が私の手を掴んでいたUさんの写真を撮ったみたいです。

「は?なにしてんっすか」

 あからさまに機嫌が悪くなったのを隠そうともせず姫野を睨んでいる。

「それはこっちの台詞だ。見ず知らずの奴が人の体に触るなんて警察沙汰だぞ。証拠は撮ったからな。顔もバッチリ撮してやったから安心しろよ」

 慌てたようにUさんが私を掴んでいた手を離した。

「は?僕はただ一緒に動画に映って欲しかったぢけなんですけど~?そんなに怒る事ですか~?姫野選手ってそんな人だったんっすね~。わぁ~、残念っすわ~」

 大袈裟に額に手を当てて天を仰ぐような格好をしている。慌てて手を離したから反省しているのかと思ったら姫野に責任転嫁してくるなんて…許せない。

「周りが見えてないみたいだから言ってやるが、さっきからお前も携帯の動画で撮影されてるぞ。俺が来るまでの一部始終も含めてな!」

「え!?」

 Uさんが周りをキョロキョロと見回して確認している。私も気がついてなかったけど携帯がこちらに向けられているのは確認できた。

「おい!お前ら勝手に撮るなよ!!金取るぞ!!!」

 Uさんがさっきまでの軽い口調から一変してドスの効いた声で周りの人を威嚇し始めた。

「じゃあ、お前もお金を払ってくれるのか?さっきから勝手に王子を撮影してたよな?」

「へ?いや…」

 自業自得ってこういう時に使うんだよね。姫野に言われて態度が変わっています。

 ただ、このままだと収まりそうにもないので…。

「撮影してた動画を今すぐに消してくれるならこれ以上は何も言いませんよ。携帯を貸してくれますか?」

 私はUさんに向けて手を出した。

「いや…自分で…」

 なかなか、しぶといですね。

「そうですか…残念ですね。警察に…」

 私は姫野の顔を見ながら頷いてみせた。たぶん、これでUさんは姫野が警察に連絡すると思ってくれるだろう。姫野も察してくれた様子でアイコンタクトで頷いてくれた。それを見ていたUさんは甲高い声を出しながら携帯を私の手の上に乗せてきた。


「あっ、いや…どうぞ!」

「ありがとうございます」

 姫野と一緒に確認しながら撮影されていた映像とか写真を削除しようと思い近寄るとバスタオルを体に被せられた。

「これ被ってろ。あとは俺がやるから…」

 どうしよう…治まっていたドキドキがまた始まってきちゃったよ。

 こんなので今日1日大丈夫かな…。

 

 


 


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