姫は王子を溺愛したい

縁 遊

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25. 王子は恋の複雑さを考える

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「お前、俺の話を…ちゃんと…ヒック…聞いているのか?」

 会社が終わって杉ノ原先輩と居酒屋に来たのですが…。

「先輩、飲みすぎですよ。酔ってるじゃないですか」

 やはりストレスが溜まっていたのか凄いスピードでお酒が胃に流し込まれていき、呂律が回らなくなってきている。

 たしか…話を聞くと言ったはずなんだけど…。先輩は話をほとんどしていない。

「…先輩は表に出さなかったけどやはり辛かったんですね」

 こういう時は先輩の気持ちに共感する事が大事だよね。

「…わかってる…じゃないか。まさか…ヒック…長い…付き合いの…終わりが…ヒック…あんな…あんな…ゴン!」

 そこまで話すと杉ノ原先輩はテーブルに顔を押し付けてしまった。凄い音がしたけど大丈夫なのかな?

「せ、先輩大丈夫ですか!」

 話の最後の所も気になるし、顔もどうなっているか気になる。

 もしかして…泣いてるのかな。私に見られたくないから顔を上げないとか?

「…お前は変わらないな」

「は?」

 顔は上げないままなのに、声のトーンが急に変化したので驚いた。

「お前はそのままいろよ…」

 先輩…本当は酔ってないのかな?

「え…と、わかりました」

 ガタッ!

 先輩が急に立ち上がった。

「薫…」

 先輩の目線の先を追うと、綺麗な女性が立っていた。

「琉斗(りゅうと)…」

 女性は驚いた様な顔をしながら名前を呟いた。

 艶々な手入れの行き届いた黒髪ロングヘアーを肩先まで伸ばした、黒目がちなパッチリ二重の瞳に白い肌…しかもグラマラスで凄い美人さんなんてすけど!

 誰!?

 あれ?確か…杉ノ原先輩の名前が琉斗だったような気がするんですけど…。もしかしてこの美人女性が先輩の別れた彼女さん!?

 嘘でしょ!?

「どうしてここに?薫の会社や家からも遠いだろ…」

 どうやら、本当に元カノらしい感じだよ。

 先輩が言っていることを考えたらこの女性の家も働き先も知っているということだよね。それってただの知り合いではなさそうだよね。

 でも…確かに先輩が聞いたことは不思議に思って当然かも。だって今来ている居酒屋さんはチェーン店なのでどこにでもあるから、わざわざ遠くまでくる必要がないと考えるのが普通だよね。

「実は琉斗に話があって来たの。ここによく飲みにくるって前に言ってたのを思い出して…」

 元カノさんは行動派なんですね!

 でも…なぜ先輩の自宅ではなく行きつけの居酒屋を選んだのかは謎です。

 家の方が二人で話をしやすいと思うんだけど…。

「ごめんなさいね。席にお邪魔しても良いかしら?」

 元カノさんは私に話しかけてきた。

 気まずいけど嫌ですとは言えない状況に戸惑う。

「…はい」

 私が返事をすると元カノさんは私の横に座ってきた。

 先輩の隣の席に座らないんですね。

 肝心の先輩は酔いが覚めた様子で、ゆっくりと席に着いた。

 私は帰っても良いですか?というか帰った方がよいですよね!?

 とても居づらいんですけど。

「王子さんには申し訳ないんだけど、誰かがいないとこの人と話にならないのよ。巻き込んでしまってごめんなさいね」

 元カノさんが私に頭を下げてきた。

 二人だけだと話が出来ないから今を狙ったということかな。…というか、私の名前なんで知ってるんだろう?

「あの…なぜ私の名前を知っているんですか?」

「それは杉ノ原から聞いていたのと、バレーが好きで何度も雑誌を見ていたからかしら」

「そうなんですね」

 何だか照れ臭いな。…って、それどころじゃなかった!

 慌てて先輩を見たらいつの間にか頼んだ水を飲んでいる最中だった。

 ドンッ!

 勢いよく飲み終えたグラスをテーブルに置いた先輩は気持ちの整理がついたのか元カノさんの方を見ている。

「今更…話すことなんてもう無いだろ。しかも王子を巻き込んでまで…」

 一応、先輩も気にしてくれていたんだ。

「だって、自宅に行っても家に入れてくれないし電話にも出てくれないのに、どうやって話が出きるの?」

「……」

 先輩が黙っているということは元カノさんが言っていることは本当なんだろうな。

 先輩も言い出したら聞かない頑固な所があるからね。元カノさんも大変そうですね。

「私ね…両親と話をしてきたのよ。お見合いは断ってきた」

「な!それだとお前のとこの会社の合併話が無くなるんじゃ…」

 …う~ん。今は空気になれるように頑張って気配を消していますが話が気になって仕方がありません!

 会社の合併って…元カノさんの御両親は会社を経営されている…ということなのでしょうか?

「そもそも、今の時代にお見合いで仕事の縁を繋ぐなんて古いのよ。私は好きな人と結婚できないなら家を出るって言ってきたのよ」

 私は空気になりきれず横にいる元カノさんを見てしまった。元カノさんも私に気がついたみたいで目線が合った。

 美人さんに微笑まれて思わず見とれてしまう。

 覚悟を決めた女性の格好よさも感じる。

「お前は…」

 先輩は元カノさんの話を聞いて頭を抱えている。

「宿無しなのに、まさかここでサヨナラはしないわよね琉斗?」

 元カノさん…強い。

「仕方ないから今日は泊めてやる…」

「ありがとう琉斗」

 どうやら素直じゃない先輩の恋はまだ終わらないみたいだ。

 居酒屋を出て二人は同じタクシーに乗り込み帰っていった。

 タクシーを見送りながら考えていたけど…恋って本当に複雑すぎませんか?

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