17 / 43
17. 王子再び驚く
しおりを挟む物心ついた頃から私はとても可愛がられていた。
伯爵家の次女として生まれ優しいお父様お母様に可愛がられ、周囲の使用人も温かく接してくれた。
5つ歳上のお姉様もとても優しく、いつも一緒に遊んでくれて幸せだった。
私にとって世界が優しいのは当たり前のことで、誰もにとってもそうだと思っていた。
その日までは。
『お姉様今日もお勉強?』
『ええ、ミリアレナ』
その日もお姉様の部屋に行くと教本を抱えたお姉様が授業の準備をしていた。
『遊んでくれないの?』
『ごめんなさい、今日はダメなの』
その日は後でねとは言ってくれなかった。
どうしてもお姉様と遊びたかった私はヤダとわがままを言った。メイドが別のことをして遊びましょうと促すのに駄々をこねて首を振る。
『イヤ、お姉様と一緒がいいの!』
困った顔を浮かべるお姉様にお願い!と言い募る。
『何の騒ぎだ』
外に声が聞こえたのか通りがかったお父様が入ってくる。
メイドが事情を説明するとお父様の表情が変わった。
『遊んでやればいいだろう。
妹の願いを無碍にするとはなんて冷たい奴だ』
『ですがお父様、今日の教師の方はわざわざ遠方から招いて時間を取っていただいているのです』
ですから今日は……、と続けるお姉様の言葉を遮り怒りの形相を浮かべる。
『だからなんだ!
また改めて呼べばいいだろう!
なぜ妹に優しくできない、自分の都合ばかり優先しようとして。
利己的なのもいい加減にしろ!』
大きな怒鳴り声でお姉様に迫るお父様。
そんな大きな声を聞いたことのなかった私は怖くなって後退る。
どうしてそんなに怒るのかわからず、潤んだ目で豹変したお父様を見つめた。
『お父様、怖い……』
そう訴えると一転して笑顔に変わる。
その変化が余計に恐ろしく感じる。けれど私を見つめる目はいつもと同じ優しいお父様のものだった。
『とにかくもう少し妹に優しくしてやりなさい』
『……承知しました』
悲しそうに眉を寄せ手を握りしめるお姉様。
私のせいだ。私がわがままを言ったから。
いいな、と念を押してお父様は部屋を出て行った。
静かになった部屋でどうしようと思っているとすっと息を吸う音が聞こえた。深呼吸をしたお姉様が微笑んで私を見つめる。
『何をして遊びたかったの、ミリアレナ?』
優しい声で聞いてくれるお姉様に胸がずきんと痛んだ。
『……やっぱりいい』
『ミリアレナ?』
お姉様と遊びたいけど、それをしちゃいけないんだと思った。
お姉様を困らせたくない。
『遊ばなくていい』
『ミリアレナ……』
困った顔で名前を呼ぶお姉様に別のお願いをしてみる。
『でも、お勉強が終わったら一緒にケーキ食べてくれる?』
これなら良いって言ってくれるかなと思いながらお姉様を窺う。
『いいわ、終わったら一緒にお茶にしましょう』
にっこりと微笑んでそう言ってくれた。
うれしくって満面の笑みを浮かべる。
『でも夕食の前だから小さいケーキね。
ミリアレナが好きな小さくて可愛いケーキよ』
ふふっと笑うお姉様につられてミリアレナも笑顔になる。
手のひらよりも小さいケーキは料理長の特製だ。
きゅっと絞ったクリームも乗せたフルーツも全部小さくてとっても可愛い。
お茶の時間ならいくつも食べていいけど今日は夕食前だからひとつだけ。
そう約束してお姉様の部屋から出た。
自分の部屋に戻って一人で遊ぶ。お姉様が怒ってなくて良かった。お勉強は大事、お姉様の部屋にあるたくさんの本を思い浮かべて頷く。
お人形やおもちゃでいっぱいの私の部屋と違ってお姉様の部屋には本やお勉強するための物がいっぱいある。
だからお姉様はお勉強が好き。
好きなことをしちゃダメって言われるのが嫌なのはミリアレナにもわかった。
それからはお勉強のときは邪魔しないように側で見てるか近づかないようにした。
お姉様に嫌われたくなかったし、お父様が怒るのも怖い。
一度お姉様が勉強している横で一緒に聞いていたらお父様にすごいと褒められた。
難しくてよくわからないところもいっぱいあったけど、褒められたのは嬉しい。
お姉様はもっとすごいのよと自慢したらお父様はミリアレナよりたくさん勉強しているんだから当たり前だって。本当にすごいのに。
私の頭を撫でて褒めてくれたお父様はお姉様の先生と少しだけ話をして出て行く。
お姉様の頭は撫でてくれてない。
出て行くお父様を見つめるお姉様を見てたら、なんだか苦しくて不安になる。
けれど私を向いたお姉様は笑顔に戻っていて、優しく頭を撫でてくれて。
二人で授業に戻ったときには不安はどこかに行っていた。
些細なこと、けれど確かな違和感は幾度も繰り返し不和を起こしていた。
それが見える形で問題になったのはお姉様の10歳の誕生日パーティでのことだった。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる