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8. 姫サイド その1
しおりを挟む「え?姫様いたの…。嘘…」
試合が終わりいつものように帰ろうと試合会場の出入口まで来た時、女性達の争う声が聞こえてきた。
その中に俺が見知った顔が何人かいたので気になって近づいたら思いもよらない話が聞こえてきた。
俺のファンだと言っていつも付きまとってくる女性の内の一人が慌てて自分の口を押さえた。
今…こいつ何て言った?
俺の頭の中でさっきの記憶を巻き戻す。
「やっとあの目障りな王子がいなくなったのに今度は何よ!」
…と俺のファンだと言っている女性が言ってたよな。俺は王子って名前に反応して耳を澄ましたんだ。
「王子様がバレーを止めなくちゃいけなくなったのはあんた達のせいなのに!なんでそんな事が言えんのよ!!あんた達には罪悪感ってものが無いの!?また同じ様なことをするつもりなの!いい加減止めなさいよ!」
その言葉を聞いて俺は我慢できずに女性達の集団に割り込んだんだった。
王子がバレーを止めなくちゃいけなくなった原因に俺のファンが関係している?どういうことだ。
「今の話を詳しく聞かせてもらいたんだけど?」
女性達はさっきまでの騒がしさが嘘のように押し黙ってしまった。
「王子はたしかにケガが原因でバレーができなくなったと聞いていたが…そのケガにここにいる誰かが関わっているのか?」
俺は苛立つ感情を抑えながら女性達に話しかけた。
沈黙がしばらく続いたが、黙っていても仕方がないと思ったのか、さっき俺のファンに怒っていた女性が話し始めた。
「あの…私は王子様の昔からのファンだったんです。だから姫様のファンの人達とも顔見知りなんですが、この人達はファンの中でも反王子派と言われる人達で事あるごとに王子に嫌がらせをしていたんです。それを知った私達王子様ファンがこの人達とケンカになって…それを見た王子様が私達を止めようとしたところをこの人が王子様を突き飛ばして…それでバランスを崩した王子様は階段から落ちてケガをしたんです。それで王子様は…」
話してくれた女性は泣いてしまってそれ以上は話せなくなってしまった。
ショックだった。
どれも初めて聞いた話だったからだ。
王子に俺のファンが嫌がらせをしていた?
しかも俺のファンが王子を突き飛ばしてケガをさせた?
それが原因でバレーを…夢を諦めなくてはならなくなったのか…。
間接的とは言え俺が原因なのか…。
王子は、なぜ俺に何も言わなかったんだ。
女性が話し終わるとまたその場が静かになって女性の泣き声だけが聞こえていた。
「この話しに君達は覚えはあるのかな?」
見覚えのある女性達を見回す。
「………」
どうやら答える気は無いらしい。
「あるのか無いのか聞いているんだけど、俺の声が聞こえてないのかな?」
俺は作り笑顔を見せてもう一度問いかけた。
女性達の肩がビクッと動いた。怒りを抑えているつもりだが漏れだしている様子だな。
「…だって目障りだったから軽く後ろに体を押しただけなのよ。悪気はなかったんだし、ケガも治っているんだし。それに何年も前の話だから時効よね。だから姫様…そんな怖い顔しないで…」
さっきの王子の悪口を言っていた女性が、俺の体に触れて甘えた声で上目遣いで俺に話してくる。
プチっと何かが切れる音がした。
はんっ、なんだこいつ!気持ち悪くて吐きそうだな!
「悪気がなければケガをさせても許されるのか?じゃあ、今、俺に触れている君のこの腕を掴んで骨折をさせても良いってことになるわけだ」
俺の腕をつかんでいる手をつかみあげ軽く力を入れた。
「痛い!」
俺はすぐにその女性の手を離した。
こんな女に触れていたくない。
「王子の…痛みは今の何倍もあったと思う。大好きだったバレーまで辞めないといけなくなったんだぞ!?王子に傷害罪で訴えられなかっただけでもありがたいと思った方が良いんじゃないか?少なくとも俺は王子みたいに甘くない。応援してくれるのはありがたいと思うが、お前達の顔は二度と見たくないから帰ってくれ」
俺は言い終わるとすぐに迎えの車に乗った。今日は珍しく姉が近くにいるから迎えに行くと言われて姉が車で迎えに来てくれていたのだが…今日は助かった。もし、自分で車を運転して帰っていたらまともに帰れていたか自信が無い。
「ちょっと、どうしたのよ?何か顔が怖いんですけど。何があったの?」
さすが姉さん。すぐに俺の変化に気がついた。俺はさっきの話を姉にした。
「なにその女!それは最悪ね。その女…許せない!私の可愛い王子ちゃんを痛い目に会わせるなんて!何倍にもして返してやる!!!」
姉は王子の事が大好きなので相当腹を立てているみたいだ。気のせいか車のスピードも速くなっている。大丈夫か?
「それにしても…王子ちゃんも良い子すぎるわ。あんたに文句ぐらいいっても良かったのにね」
俺もそう思う。
アイツは昔から人が良すぎるんだ。
昔、コンビで取材を受けていた時も俺が話さないもんだから俺の分まで話してくれていた。「ありがとう」って言いたかったけど当時の俺はそれさえも恥ずかしくて言えなかった。
俺は何度も王子に助けられたんだ…。
それなのに…。
俺は、何事にも一生懸命でキラキラと輝いているアイツを見るのが好きだった。一番近くで見るために辛い練習も頑張っていたのに…アイツは何も言わずに俺から離れていった。
さすがに女子高には入学できないからな。
バレーの試合の日には会場でアイツの姿をさがし、ずっと見ていたのに…なぜ気がつかなかったんだよ俺…。
ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん…。
ごめんな王子。
俺はうつ向いて自分のズボンを強く握りしめた。
ズボンにポタポタと水滴の跡がつく。
謝っても謝り足りないよな。王子の大切な夢を奪ってしまったんだから。
いったい俺はお前にどうやったら償えるのだろうか。
「なあ、姉さん…俺はどうやってアイツに償えば良いのかな?」
俺一人では何も思い付かない。
「…そうね。優にしかできないことがあるんだけど私の計画の話を聞く?」
姉は軽く俺の肩を叩いた。
今夜は眠れそうにもないからちょうど良い。姉の計画とやらを聞かせてもらおう。
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