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18. 生け贄様はハッピーエンドをご所望です
しおりを挟む「アクア、用意はできたかい?」
「はい、旦那様」
今日は一年に一回の人間界に行く日です。早いもので神様と暮らすようになってから3年が過ぎようとしています。
私は神様から「旦那様と呼んでほしい」と言われたので今は神様の事を旦那様と呼ばせてもらっています。そう呼ぶととても嬉しそうな顔をなさるのが凄く可愛らしいのです。
優しくて可愛らしいところがある旦那様の事が私は大好きです。
因みにあれから一般教養というものを旦那様から教えていただきました。
今は大好きの意味も理解していますよ。
この3年間は、私は本当に何も知らなかったのだと驚きの連続でしたけどね。
「無理は駄目だよ。1人の身体ではないのだから…」
旦那様が私の大きくなったお腹を優しく撫でます。
「「あっ!」」
2人で思わず声をあげてしまったのは、お腹の子供が動いたのがわかったからです。
そう…私は旦那様との子供を身体に宿しています。今日はそれを知らせに人間界に行くようなものです。
でも、こんなことになるとは以前の私では考えられませんでした。
まさか私が子供を産むことになるなんて…想像もしていなかった事です。
ただ生け贄になるためだけに生きていたのに神様の妻になれるなんて。
以前の私は自分の幸せなど本当の意味ではわかっていませんでした。
神様に愛していただき、幸せというものを教えてもらい…やっと理解できたのです。
皆を笑顔にするためには、まず自分が幸せでないとできない。そんな簡単な事ですら理解するまでに長い時間がかかりました。
幸せとは難しいものです。
今の私の幸せは旦那様の笑顔を見る事と、お腹の子供の成長です。
旦那様には「アクアは欲が無さすぎる」と言われていますが。
世の中には神様に「なぜ助けてくれないんだ!」と神殿に初めて来て、いきなり怒る人もいるそうです。
旦那様いわく「私だってよく会いに来てくれる人間にはよくしてあげたいと思うけど、知らない誰かの願いはなぜ叶えないといけないんだって思ってしまうこともある」だそうです。
確かに、言われてみると納得できます。
…が、神様って無条件に願いを叶えてくれると以前の私も思っていたのであまり人の事を言えません。
「アクア、おいで出発するよ~」
遠くから、愛しい旦那様の声が聞こえます。
私は早足で旦那様の元に向かいました。
「危ないからゆっくり歩いて来て良かったのに…」
「いえ、私が旦那様の元に早く来たかったのです」
「アクア…君は今、幸せかい?」
旦那様が私を蕩けそうな笑顔で見つめています。
「はい。生け贄様として生活していた頃が嘘のように、私はとても幸せですわ。ですから皆様にも私の幸せを分けれるなら分けて差し上げたい気持ちです」
私は旦那様の手をとり微笑みます。
「そう…元生け贄様は今でも皆様の幸せを望んでいるんだね。変わらないね私の愛しい奥様は…」
旦那様は私を抱きかかえて人間界に下りる準備を始めます。
「さあ、愛しい奥様の幸せな姿を皆様にも見てもらいに行くよ」
「はい!」
私が旦那様に抱きつくと嬉しそうな顔をして顔中に口づけをしてきます。
これはもう癖ですね。
「これで幸せパワーフル充電だよ。元生け贄様の幸せな姿を見て皆様にも幸せになってもらわないといけないからね!だって愛しい奥様の望みは生け贄様の物語がハッピーエンドで終わること…だからね」
ウィンクをするお茶目な旦那様に心臓がまたドキドキしてしまいます。
旦那様は私の言ったことを覚えていてくださったのですね。
実は「生け贄姫物語」というのが人間界に出ているということが天界に来てからわかり、旦那様に頼んで本を持ってきてもらい読んだのですが…。最後が私が神様に召されて国は助かったという少し悲しい終わりかたなのです。
以前の私なら何とも思わなかったと思うのですが今は違います。この物語を神様と結ばれて天界で幸せになりました…とハッピーエンドで終わらせたいのです。
その為に旦那様と人間界に行くときはラブラブアピールをする作戦を決行中です。
まあ、いつも通りなのですが。
いつか「生け贄姫物語」がハッピーエンドで終わる事を願いながら…。
この物語はこれで完結です。
最後までお読みいただいた皆様ありがとうございました。
お気に入り登録、感想、栞をしてくださった皆様、いつもやる気のモチベーションになっています。
本当にありがとうございました。
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くろいゆきさん
いつもありがとうございます。
アクアを幸せにすることができてホッとしています。
神様の参拝にはいろいろと決まりごとがあるらしいですね。
私も、住所と氏名と感謝の言葉を毎回伝える様にはしています。
神様はどう思っていらっしゃるのか…。
アクアの旦那様のように勝手な時にだけ来て…とおもわれてなかっら良いなと思っています。
くろいゆきさん。
最後まで読んでいただき感想や、労いの言葉までいただいて本当にありがとうございました。
また、違う作品も楽しんでいただけるように頑張りますね!
くろいゆきさん
いつもありがとうございます。
時間の流れは少し違っているので、アクアの言う皆様はアクアの犠牲の上に成り立っている幸せには罪悪感があったと思います。
それは仕方ないですね。
この物語もあと1話で完結です。
今日アップする予定です。
アクアと神様の幸せな世界がどうなっているのか確かめてやってください。
くろいゆきさん
ご指摘ありがとうございます。
すぐに直しておきます。
アクアは御使い様と先生達としか交流がなく、話すのは先生との勉強だけだったので、一般教養がかなり欠けていると思われます。
神様は苦労するでしょうね…。