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3. 神様登場
しおりを挟む森の奥深くにある石の塔よりもまだ奥にある湖に連れて来られました。ここに神様がいらっしゃるのでしょうか?
確かにこの湖は虹色に輝く不思議な水の色をしています。神様がいらっしゃると言われても納得する神秘的な美しさです。
それにしても…お供はいつもの御使いの人達なのですが…今日は人数が多いみたいです。こんなに人数がいたのですね。同じ仮面をつけ、同じ洋服を着ていて、おまけに身長も同じくらいだったので知りませんでした。
「では…私達はこれで失礼します。生け贄様はここで神様が来られるのをお待ちください」
御使いの人達が私を湖のほとりに置いて、来た道を引き返していきます。
やはりここが神様の住まう所なのですね。
やっと…やっと皆様のお役にたてる日がやって来たのですね。
私は産まれてきてからずっと神様に身を捧げる為だけに生きているのだと教えられてきました。
神様とはどんな人なのだろうか?
神様はどんな踊りがお好きかしら?
神様はどんな歌がお好きかしら?
神様はお会いしたらすぐに私を食べてしまわれるのかしら…。
ずっとそんな事を考えていました。
御使いの人達の姿が見えなくなった頃、湖が虹色に光を放ちだし周りが見えなくなりました。
「約束を破らずによく来たな…人間の娘よ…」
不思議なお声です。まるでピアノの演奏を聞いているかのような心地の良い澄んだ声色とでもいうのでしょうか…。聞き入ってしまいます。
私は光が収まるのを待ち、声のする方向に顔を向けました。
そこにいらっしゃったのは…神々しいという言葉がピッタリのそれはそれは美しい方でした。光輝く白銀の長い髪が湖の虹色に反射して何とも言えない素敵な色を作り出しています。私と同じ髪の色なのに…格が違うとはこういうことですのね。それに、スラッとした身体から伸びる手足は長く、着衣はシンプルな白色のワンピースの様なものなのですが、この方が着ているからかとても素敵に見えます。瞳の色は鮮やかな緑色…この森の木々の緑の色みたいに見えます。見とれてしまいますわ…。
…あっ!
そうでした、神様に声をかけられたのにまだ返事をしていません。私は慌てて返事をしました。
「声をかけてくださったのにお姿に見とれてしまい、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は神様に捧げる生け贄として育てられてきました。覚悟は決まっております。私の命は神様の物…お好きな様にしてくださいませ…」
暫くの沈黙の後、神様がまた私に話しかけてくださいました。
「娘…名前は?」
「名前はありません。しいて言うなら…周りの人達からは"生け贄様"と呼ばれておりました」
神様は少し眉を動かすだけでした。
何かお気に召さなかったのでしょうか。心配です。
「今からお前はアクアと名乗るが良い」
「アクア…私の名前…」
名前…憧れていたけど手に入らなかったもの。
しかも、神様に名前を頂いた…。
胸の辺りが熱くなります。
「嬉しい…。神様、素敵な名前をありがとうございます」
私は神様に笑顔でお礼を述べた。
すると神様は私から顔を反らしてしまわれました。
また何かしてしまったのかしら…。
私ってばダメね…。
「アクア、こちらに来い。私の神殿へ連れていく」
神様は私の方へ手を差し出し、抱きかかえてくださいました。
これは物語の挿し絵で見たことがあります!お姫様抱っこ…というやつですね。
これ、憧れていたのです!また一つ夢が叶いましたわ!
これで思い残すことはありません。
神様の神殿に行けば私はきっと…身を捧げ、命を天へとお返しすることになるでしょう。
神様に美味しく召し上がっていただく為に入浴も来る前に澄ませましたし、痩せ細ってもいませんので食べ頃かと思います。
美味しいと思っていただけたら本望ですわ。
さあ、いざ神様の住まう神殿へ!
立派に生け贄として役目を果たしてみせますわ!
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