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68. ヴァン様の思い出
しおりを挟むあれは間違い…私のボールだ。
遠い昔の記憶が鮮やかに脳裏に写し出される。
「ヴァン様、今日も月が綺麗ですわね」
銀色の髪が月光を浴びて何とも言えない美しい色に輝いている。同じ色をした瞳も輝きを増しているように見えるな。私の愛しい婚約者…。
「エリー、そんなに窓から身を乗り出しては危険だよ」
今にも窓から落ちてしまいそうな気がして見ているこちらの方がドキドキする。
「もう、ヴァン様は心配症ね。これくらい大丈夫ですわ」
見かけは大人しそうな美少女なのに中身はお転婆で、回りの大人達がいつも苦労させられているのをエリーは知っているのかな。
「私にあまり心配をさせないでほしいものだね」
エリーに近づき後ろから抱きしめた。
「フフッ…。刺激があった方がヴァン様が若返るのではありませんか?」
顔だけを私に向けながら悪戯に微笑んでいる。月光が彼女にスポットライトをあてているようだ。
「お転婆エリーに付き合わされていたら寿命が短くなる気がしてるよ」
「まあ、それは大変ですわ」
2人で見つめあって笑う…。何気ないこの時間が好きだった。
マリーも同じヴァンパイア一族で年は少し離れていたが、一族の集まりで顔を合わせた途端に…お互い一目惚れだった。
それからすぐに婚約して、もうすぐ結婚式を迎えようとしていた時…マリーが倒れた。
「ごめんねヴァン様…。ヴァン様を1人にしちゃうみたい…」
マリーは悲しそうな笑顔を私に見せたが、涙は見せなかった。
その後、彼女から衝撃の事実を知らされた。
彼女は難病に罹患しており完治する見込みはなく余命宣告をされてしまったと…。
幸せの絶頂から地獄に落とされたと思った。涙はもうでないと思うくらい人生で一番泣いた。
「私の代わりに、このボールを大事にしてほしい」
そう言って渡されたのは彼女のブラディーボール。それは綺麗なレインボーカラーをしていた。
「珍しいでしょ…。一族でもこの色は見たことがないと言われているのよ」
自慢げに笑う彼女の頬はやつれてきていた。以前の彼女よりもかなり痩せてきている。お別れの時間が迫っていることを嫌でも理解した。
それから数日後、マリーは天に召された。
そして、不思議な事にマリーからもらったレインボーカラーのボールは私の手に残らなかった。
マリーが地上からいなくなった時に消滅してしまったのだ…。
マリー…。
君の生まれ変わりなのか?
…何百年という時を経てレインボーカラーのボールに出会う事なんてあるなんて思っていなかったよ。
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