運命なんて信じません

縁 遊

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39. 帰らないで… 

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 知らない人達が私を追いつめるように迫ってくる。息がつまる様な感じがして上手く声をだせない。

 誰か…!

「おい!何をしているんだ!彼女から離れろ!」

 この声は…。

「あ…うら…い…ち…さん。」

「嫌な胸騒ぎがして電話したんだけど出なかったから…。」

 あ!電話を家に置いてきたから…。

 急いで来てくれたのか息があがっているのがわかります。

「お!本人じゃないか?!」

「ちょうど良かった。お話を聞かせてくださいよ。」

「円城寺さんと彼女の二股をしていたんですよね?」

 占一さんが男性達から庇うように私の前に立ってくれています。私は占一さんの背中に隠れる様に寄り添います。背中の温度で心が少し落ち着きました。

「円城寺さんとは何もありません。婚約者は彼女だけですから。これ以上は何もお話をすることはありません。それに今後このように彼女に取材をするようなら然るべき手段をとらせていただきますから。」

 占一さんの背中側にいるので顔は見ることはできませんが声から怒っているのはわかりました。

「チッ!」

 舌打ちが聞こえた後、男性達が何か話ながらその場を立ち去っていきます。

「ごめん…。大丈夫?」

 私の方に身体を向き直し、私の頬に両手で触れながら心配そうに顔を覗き込んでいます。

「は…はい。」

「取り敢えず家まで送るよ。」

 私は黙って頷きます。

 心の中では助けてもらった安堵感と会えて嬉しいという感情が混ざって…今、口を開くと泣きそうです。

 私の肩を優しく抱き止めて寄り添うように自宅まで2人で歩きました。

 家の前に着いて鍵を開けようとするのですが…上手くできず。

「鍵貸して。僕が開けてもよいかな?」

 私はまた黙って頷きます。

 占一さんが鍵を開けてくれて中に入ります。

「もう、大丈夫かな?しっかり鍵をかけてね。」

 玄関で靴を脱ぎ私が部屋にあがるのを確認した占一さんが帰ろうとして私に背中を向けました。

「…やだ!」

 帰ろうとする占一さんの背中に抱きついて…泣いてしまいました。

「葵ちゃん…泣いてる?」

 泣いてる顔を見られるのが嫌で私は占一さんの背中にギュッと抱きついたままです。

「顔が見たいんだけど…手を離すことはできる?」

 抱きついていた腕の力を緩めました。すると、すぐに占一さんが私を力強く抱きしめてくれました。

「怖かったんだね…。もう大丈夫だよ。顔を見せてくれる?」

 私は抱きついたまま顔を上にあげます。

 優しく微笑む占一さんの顔が見えてまた心が緩みました。

「触れても良い?」

 占一さんが私の額に瞼にキスを落としていきます。次は頬…鼻…。

 そして…唇。

「僕が中に入っても大丈夫?」

 間近で見つめあいながら瞼を閉じて合図を送ります。

「ありがとう。じゃあ…。」

 話し終わると私をお姫様抱っこして部屋の中にと進みます。私は彼の首にしがみついて身体を密着させます。

 人肌が落ち着く…ってわかる気がする。このまま…今日は離れたくない。

「帰っちゃ…嫌です。」

 私が小さく呟くと占一さんは少し驚いた顔をした後、笑顔になり…またキスをしてくれます。

 そして…占一さんはその日…帰ることはありませんでした。





 





 
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