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2. バイバイ、初彼
しおりを挟む見慣れたモノトーンのシックな部屋に流れる無音の時間。
本当なら今日はここでプロポーズされるのかと思っていたのにな…。
今、私は昼間に出会った私の中では元カレになった人の部屋に来ている。最初は元カレの部屋に行くのも嫌だと思ってカフェとかで話をするつもりだったが、よく考えたらお気に入りのカップを元カレの部屋に置いたままだということに気がついたので荷物を持って帰るついでに話しも部屋ですることになったんです。
だけど…。
「はぁ~、黙っていたらわからないよね。時間もったいないから私が思っていることを話すね。」
元カレは無言を貫くつもりみたいで何も話しません。
私が新しい彼女の事を聞いても何も答えない。
「私の事を姉だと彼女に嘘をついていたんだよね。いつから私は貴方の姉になったの?彼女だと思っていたのは私だけだったって事だよね。」
「いや…そうじゃ…。」
元カレは下を向いていた顔をやっと上げて私の顔を見た。私は中途半端に話を終えるな!と言いたいのをぐっと堪えて元カレが話すのを待った。
「彼女…は去年の新入社員で…俺が教育係になったんだ。…まだ付き合うとか告白もちゃんとはしていない。」
ふ~ん。ちゃんとはまだしていないね。
それにしてはおかしくない?彼女はお付き合いをさせてもらっています。って私にハッキリ言ったよ?
「まだってことはちゃんと言って付き合うつもりだったってことだよね。」
「いや…。」
言い当てられて何も言えないのか目を泳がせてまた無音の時間になってしまった。
ただの先輩をなお君って呼ぶか?少なくとも彼女は付き合っていると思っているだろ!っていうか絶対に付き合ってるだろ!!
「もう良いや…。」
私は座っていたソファーから立ち上がりお気に入りのコップを取りにキッチンに向かった。
キッチンには私の買ってきた調味料が並んでいて、それを見ると色んな感情が混ざって我慢できなくなってきた。
慣れた手付きで引き出しからごみ袋を出してそこに私が買ってきた調味料や食器、調理器具などすべてを入れていった。勿論、洗面台にある歯ブラシも捨てた。…持って帰るつもりだったお気に入りのコップも捨てた。
この家に色々と持って来ていたんだね…。
ごみ袋1つが一杯になっていた。私の5年間って…こんなごみ袋1つで捨てられるのか…。
何だか胸に込み上げるものがある。
後ろで1つに束ねていた髪の毛がほどけて顔に触れた時に不意に彼女を思い出した。
そう言えば彼女…綺麗な髪の毛だったな。私は結婚資金を貯める為にと美容院に行く回数を減らしていたから艶やかな髪の毛とは言えない状態だし…。肌も最低限の事しかしていないし…。艶がある肌ではない…。顔も典型的な日本人顔の一重だし…。
「やっぱり男性は若くて綺麗な人が良いのかな…。目がパッチリとしていて、可愛い感じの…古いかもしれないけど守ってあげたい感じっていうやつ。アイツに出会った時は私も若かったよね…。あの時は守ってあげたいと思ってもらえたのかな…。」
気がつくとごみ袋の上に涙が落ちていた。
「絶対に泣かないと決めてたのに…。」
私は涙を拭いて上を向いた。
後ろで束ねていた髪の毛をほどき、結び直した。
気合いを入れろ私!
ごみ袋を持ったまま元カレのいる部屋に行った。
「ねぇ、去年の誕生日にあげたスーツ出して。それから気に入ってくれていた3年前のプレゼントであげた財布とかネクタイとか…取り敢えずは私がプレゼントしたものは全部持ってきて!」
私はごみ袋を元カレの目の前にドカッと音がなるようにわざと乱暴に置いた。そして腕を組んで元カレの前で仁王立ちした。
「え…何で?」
元カレは訳がわからないという感じの顔をしてきた。
「何でって…。私があげた物だと彼女にバレても良いの?私を思い出させる物は今、ここで捨ててしまった方が良い!速く持ってきて!!」
「え…でもスーツも財布も気に入っているんだけど…。」
そりゃ~、長い付き合いでアンタの好みは知りつくしていましたからね。
「彼女に言うよ!」
元カレの顔色が変化した。流石に彼女には言われたく無いらしい。
すぐに私が今までプレゼントしてきた物品の数々が目の前に置かれた。
畜生…結構私は元カレに貢いでいるじゃないか。
キッチンに戻りもう一枚ごみ袋を取ってきて過去のプレゼントを全部中に入れた。
「これ2つとも捨てて置いてね。あっ!指輪も入れておくわ。」
私は左手の薬指にしていた指輪もごみ袋に捨てた。
「じゃあ、今までありがとう。さようなら。」
立つ鳥跡を濁さず!元カレの部屋にあった私の痕跡は全て消した。私の中の元カレとの想い出も消去した。
バイバイ私の初彼よ!!
あ~、スッキリしたわ。って元カレとはスッキリしたけど…何か忘れてるような?
何だったかな?
あっ、そうだよ!
私は無職になったんだった~!!
明日からどうしよう~?!!!
応援ありがとうございます!
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