運命なんて信じません

縁 遊

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1. 最悪な日

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「葵ちゃん、すまん!お金を持ち逃げされた。会社をたたむしか方法がないんだ。」

 休日だったのに会社に呼び出しされて、勤め先の社長から言われた言葉がこれ…。

 私…葉山 葵(はやま あおい)はどうして良いかわからずに社長の話をただ黙って聞いていた。

 慌てて家から出てきたのでボサボサの長い髪の毛を後ろで1つに束ねて、化粧も薄化粧程度しか出来ていない。マスクで隠れるから良いかと思っていたところもあったしね。でもマスクしていて良かったよ。口が大きく開いたのを誤魔化せた。

 この会社は大学を卒業してから働いていた。従業員は社長を含めて5人という小さなデザイン会社の事務所。そこで私は事務の仕事をしていました。その会社の社長が朝から私に頭を下げている。

 いつもは笑顔が絶えない人で真面目な顔は取引先とのやり取りでしか見せない人なのに…今日は見たことが無いくらい真剣な顔をしてる。

 あっ!そうか、そういうことね。

 私は今日の日付けを思い出した。

 今日は4月1日、エイプリルフールでした。

 なるほど…社長は私を騙そうとしている訳か。

 ここは騙されたふりをしてあげようかな。

「え!そんな…。」

 私は白々しくも驚いて見せた。

「本当にすまない!どうやら営業の勝栗(かちぐり)君がお金を持って消えてしまったみたいなんだ…。あのお金は今日の支払いにどうしてもいるお金だったんだが…。もう銀行から借りることもできないし、君には申し訳ないが会社を続けていけるだけの資金が無くなってしまった。」

 勝栗さん…そういえば姿が見えない。話を合わせる為に何処かに隠れているのかな?

 それに他の社員の姿も見えない。

 私1人を騙す為にしては少し大掛かりすぎませんか?

「あの社長…そろそろエイプリルフールのお芝居は止めませんか?他の皆さんもいつまでも隠れていると疲れると思いますが…。」

 社長が驚いた表情をしたのが見ていてわかった。

 嘘がすぐにバレるとは思っていなかったのかな。

「嘘ならどれだけ良かったか…。」
 
 社長の顔は真剣だった。

「え…?」

 あれ?いつもの社長ならここで「バレたか~。ハハハッ!」って笑っているとこじゃない?

 …もしかして。

「そうか…今日はエイプリルフールだったな。残念だけど今、言ったことは嘘ではなくて本当なんだよ。」

 社長は頭を搔きながら苦笑いしていた。その様子を見て私の頭の中が真っ白になっていく。

「…え!」

 いやいや、昨日まで普通でしたよね。それが突然倒産!?ない、無いでしょ!

「葵ちゃんには悪いけどお給料も少し待ってほしい。連絡は取れるようにしておいてくれ。用意ができたら連絡するから。」

 再び社長が私に向かって深く頭を下げた。

 社長には今まで良くしていただいていたから何も言えない。

 その後、社長から今後の事を少し聞いて、私は呆然とした状態のまま会社を出た。

 どうしよう。お給料をあてにして彼氏とマンションの話をしていたところなのに…。

 あの時はっきりしなかったら決めなかったけど今となっては決めなくて良かったわ。

 だけど、彼氏にはすぐに連絡しないといけないかもしれないわね。

 今日は休日出勤で仕事って言っていたな。メールしてみようかな。何て書こう…。

 私は考えがまとまらないまま歩いていが、無意識にいつも彼氏と利用しているカフェの前まで来ていた。

 するとお店の扉が開いて人が出てきた。

 女性が男性の腕に絡み付くようにベッタリと引っ付いているのが見える。

 付き合いたての2人なのか?

 あれ?男性が着ているスーツに見覚えが…。

 これって私が去年の彼氏の誕生日にプレゼントしたオーダースーツと同じだ!

 まさか同じ色、デザインを選んでいる人がいるなんて…と思いどんな人が着ているの気になって顔を見た。


「「え!?」」


 男性と私は顔を見て思わず声が出てしまった。驚いたのは向こうも同じだったようだ…。

 まるで時間が止まったかの様に2人とも身体が動かない。

 すると男性と一緒にいた女性が不思議そうに私達を見ながら話しかけてきた。

「え?なお君の知り合い?あっ!わかった~。前に言っていたお姉さんとか?!初めまして、私~、萌(もえ)って言います。なお君とお付き合いさせてもらっていま~す。フフッ、お姉さんとお会いできて嬉しいです。」

 私は嬉しくないです!

 萌という女性は彼氏に絡めていた腕はそのままで、もう片方の手を顔にあてて恥ずかし様な仕草をしている。あれだよね…最近よく聞く"あざと女子"って感じだよね。綺麗にお手入れされた艶やかな栗色の髪の毛に、お肌は色白でつやつやでほんのりピンク色の頬。マスクで顔の半分は隠れているがパッチリ二重と長い睫毛は隠せていない。若い…よね。

 私なんて長い黒髪を後ろで1つにまとめているだけのバサバサ髪に目尻が気になるお年頃になってきたのに…。

 しかし…彼女ね。じゃあ、私は何なんだ!?

 しかもアイツにお姉さんがいるなんて初めて聞きましたけど。

「あっ…いや。その…えっと~。」

 彼氏はアタフタとして話すこともしどろもどろしている。

 そりゃそうよね。

 一緒に住むマンションを探す仲の私と新しい彼女が会ってしまったんだから。

 さっきまでは会社が倒産してこれからどうしようかと不安な気持ちでいっぱいだったけど今は違う感情がフツフツと湧いてます。

「へぇ~、なお君ねぇ~。知らなかったわ~。」

 私は声のトーンを押さえながら男…彼氏だと思っていた男を睨み付けた。

「もう!なお君がきちんと萌の話をお姉さんにしてくれていないからですよね。ヒドイよ~。」

 新しい彼女は空気が読めないタイプみたいで冷えきったこの空気の中1人だけピンク色の空気を醸し出しながら話をしている。隣にいる彼氏の顔に冷や汗が吹き出しているのが見えていないのかな?

「本当に酷いよね…。」

 思わず本音が漏れた。

「そうですよね!お姉さんもわかってくれます~。」

 新しい彼女は私が気持ちをわかってくれたと勘違いしたみたい。

 私は貴方の言っている意味とは違うんだけどね。

 大学生から付き合って5年以上過ぎようとしていた。社会人になってお金が貯まったら結婚しようと話をしていたのは去年の話だよね…。

 最近、仕事が忙しいと言っていたのは仕事ではなくて新しい彼女ができて忙しかったのか。

 そうか…。

 私の中で何かがプツリと切れた。

「あっ!なおくん、もうこんな時間だよ。早く仕事に戻らないと怒られちゃう。」

 ふーん、休日出勤は本当だったんだ。しかも今の会話で女性が同じ会社で働いているということが推察できた。

「なお君!私も話があるから今日、仕事が終わったら連絡してね。」

 私の中で元彼氏となった人に無理やりに笑顔を作って話しかけた。なお君なんて呼んだ事がなかったので凄い驚いた顔をしていたな。まぁ、わざわざ言わなくても今日の夜は会う予定だったんだけどね…。

「…。」

 無言かよ!

 逃げるように2人は私の目の前から去っていった。

 何なの!一体!?



 会社は倒産、結婚まで考えていた彼氏の浮気現場に遭遇!?


今日は私の27回目の誕生日なんだけど~!!!

 
 



 

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