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17. 満月の夜 ③〈アデル視点〉
しおりを挟む今日は朝から、サファイアの様子がおかしいんだよね。
ソワソワしてるというか、挙動不審というか…。
ザジに会えば元気になるかなと思って言ったけど、タイミングが悪かったね。
ザジは入浴中で会えなかった…。
サファイアの落ち込みかたがスゴイ…。
首もうなだれて悲壮な感じが漂っているよ。
力になれなくてごめんね。
でも、せっかくだからサファイアもお風呂に入れようかな。
ザジの次だし暴れないかも…。
そう思ってお風呂に入れたけど、暴れないどころか何だかなげやりな感じするんだけど…どうしたの?
今日は何をやっても暴れない…慣れたのかな?
いつもはお腹は洗わせないのに、今日はぬいぐるみのように抵抗しない。
やっぱり、おかしい…。
こっそり、サファイアの後を尾行することにした。
毛を乾かして、ブラッシングが終ると、ものすごい早さで部屋に帰ったのを確認。
あっ、何かを口に加えて、またすぐに部屋から出てきたよ。
どこに行くのかな?
庭…?
庭の奥の森みたいになっている所に行ってしまった。
何しに?
僕も急いで気づかれないように、後を追いかける。
さっきから、上を見上げたまま動かない…何を見てるんだろう?
僕も見上げてみた。
「今日は満月だったんだね。」
サファイアは満月を見ていたんだね。
あれ?
あれれ?
急にサファイアの周りが月の光に照らされて、輝きだしたよ。
サファイア、消えてしまうの?
嫌だよ!そんなの!
「サファイア!」
僕は大声をあげてサファイアのいる場所まで走って行った。
一瞬の事だったと思う。
白い光が眩しすぎて、近寄れずに目を閉じた。
光が収まり、目を開けると知らない少女が目の前にいた。
「あなたは誰ですか?」
少女は僕の方を見て言った。
サファイアの毛の色と同じシルバーグレーの長い髪にサファイア色の瞳、肌は透けるように白く、唇はほんのりピンク色をしていて可愛らしい。
質素な白色のワンピースを着ていても、すごい美少女なのがわかる。
耳にはサファイアと同じブルーのピアスをしている。
猫のサファイアが人間になった…?
術が解けたのか?
「サファイア、僕だよ。わからないの?」
ご主人様を忘れたのかい?
「…どうして、私の名前を知っているのですか?」
名前は覚えている?
「私は、サファイア=ナラジアと申します。失礼ながらあなたとはお会いしたことがないと思うのですが…」
人間の時の名前も同じサファイアだったんだ!
「失礼しました。私はアデル=カルダナルと申します。あなた様が知り合いに似ていたものですから…申し訳ありませんでした」
どうやら、猫の時の記憶はないみたいだね…。
「まぁ、その方も私と同じお名前ですのね」
僕はニッコリと笑顔で頷いた。
猫の姿の時のあなたの名前ですよと思いながら…。
「所で…ここは、どこなのでしょうか?」
不思議そうに辺りをキョロキョロと見回している。
その仕草が、可愛い。
「私の屋敷の庭になります。」
「私は何故あなた様のお屋敷の森にいるのでしょうか?」
「僕にもわかりません。ですが、こんな所に居ては風邪をひきますので、屋敷の中に入りませんか?」
「よろしいのですか?」
ハニカミながらの笑顔…。
可愛い。
サファイアは人間になってもやっぱり可愛いね。
僕がエスコートして屋敷の中に連れていった。
暖かいミルクを出した。
猫のサファイアの好物だからね。
それを、フゥ―フゥ―して冷ましながら飲んでる。
人間になっても猫舌なのかな?
可愛い。
どの仕草も可愛い。
でも、今は見とれている場合じゃないね。
色々と聞かないといけない。
「サファイア様はどちらのご出身なのですか?」
「私はスウェン国の出身です。ここはスウェン国ではないのですか?」
「はい。隣国のカルダナル国になります。隣国には何か用事でもあったのですか?」
そこまで聞くとサファイアの表情が変わってきた。
「私は、確か自室のベッドで横になっていて…。急に激しい物音がして兄が私の部屋に入ってきて…そこからがまったく思い出せないのです。どうして、ここにいるのかも…」
サファイアにはお兄さんがいるんですね。
覚えておきます。
「大丈夫ですか?私で、できることならお力になりますよ」
サファイアは僕の言葉を聞いて泣きはじめた。
「ありがとうございます。アデル様は優しいのですね」
聞いていて心地の良い、可愛らしい声だよ。
許されるのならば今すぐに抱きしめたいくらいの儚さもあるよね。
人間のサファイアは触っても怒らないかな?
僕はサファイアの隣に腰掛けて手を握った。
「大丈夫です。思いっきり泣いてスッキリしてください」
サファイアは最初はビクッとしたけど、僕を見て泣きながらだけど笑顔を見せてくれた。
猫のサファイアと違って拒否されないし、儚い感じがまた………!
…かわいい、可愛すぎる!
だけど、これ以上何かすると変態って言われそうだから我慢するよ。
執事のバルダも見ているしね。
バルダ…寝てて良いのに。
泣き疲れたのか、サファイアは僕の肩に頭を預けて寝てしまった…。
グッ……寝顔も可愛すぎるよ!
とりあえず、ベッドに寝かせてあげようと思いお姫様抱っこで寝室へ行った。
バルダが連れて行くといったけど、サファイアは触らせないよ。
部屋について、
サファイアをベッドに寝かせた途端にまた、激しい光がサファイアを包んで…目を開けると、いつもの猫のサファイアになっていた。
残念なような、嬉しいような複雑な気持ちだ。
でも、猫なら抱きしめて寝ても良いよね。
僕はサファイアをギュッと抱きしめておでこにキスをした。
謎解きは得意なんだ。
サファイアは何故術をかけられたのか…。
サファイアの謎解きは僕がするから、謎がとけたらその時は…。
フフッ…。
あぁ…明日のサファイアの反応が楽しみだよ。
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