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38. 皇帝龍
しおりを挟む『消えた…って死んだの?』
龍って寿命あるの?何万年と生きるみたいな話をしてなかった?
『死んだわけではなく、消えたんだ。』
死んでいないのに消えた?
『失踪したって事なのか?』
『ああ、ある日突然居なくなったんだ。』
翡翠は俺の方を見ずにずっと龍の絵を見て話している。知り合いなのか?
『居なくなったって…じゃあ、ついていた人間はどうなったの?共に消えたのか?』
『…殺されたらしい。』
『え…。何で…。』
こんな凄い龍がついていたくらいの人間なんだから悪い人ではないと思うけど、違うのか。
『なぜ殺されたのか分からないんだ。アイツは罠に嵌まったと言っていたけどな…。』
人間は時に私欲で罪もない人間を貶めることをしたりするからな。誰かの陰謀に嵌められたのかもしれない。
『アイツが消えた事で他の龍達も次々とこの国から消えたんだ。』
この国に龍が少ない理由はそれなのか?!
『それまでは沢山居たってこと?』
『そうだ。この国の人間も夢や希望を持つ者が多かった。しかし今は…。』
最後は濁すのか…。言いたいことは何となくだが理解できる。
真留さん達に出会った時に感じたんだけど、この国の人達は日々の生活に疲れていて夢や希望を抱いていない人間が多い。言い換えれば暮らすのに精一杯ということかな。
真留さんの場合は虐げられた生活を長い間していたせいかなと考えていたけど、どうやらこの国全体がそんな感じなんだね。
前世の俺もそうだったかな…。ブラック企業で働いて毎日クタクタで仕事しかしない生活をしていたからな。夢や希望なんて考えた事がなかったかも。
あの時の俺と同じ様な人間が溢れているのか…。
駄目だ!それでは俺とじいちゃんが会えるのがいつになるか分からないじゃないか!
そうだよ、俺はこの国の人達の意識を変えて龍を増やすために異世界転生したんだ。
その為に学校にも来たんだから、早くじいちゃんに会える様に頑張らないとな。
「新入生かな?」
俺が皇帝龍の絵の前で翡翠と話していると後ろから誰かに声をかけられた。振り返ると銀色の髪の毛にブルーの瞳をした美少年が立っていた。
「はい。一年生の八岐 竜と言います。よろしくお願いします。」
最初は挨拶が肝心だと前世でじいちゃんに教わっていた俺は反射的に大きな声で挨拶をしていた。
「元気が良いね。僕は2年生の一条 義経(いちじょう よしつね)だよ。こちらこそよろしくね。良かったら部屋まで案内するよ。」
俺も人の事を言えないと思うが、一条 義経…凄い名前だな。見た目は女性的なのに名前は男性的というミスマッチな感じがする。
でも、良い人だな。
「良いんですか。ありがとうございます。」
「じゃあ、僕についてきてね。」
「はい。」
俺は一条先輩の後について行った。歩きながら教えてもらったんだが学年によって階数が違うらしい。因みに一年生は一階らしい。学年が上がると階数も上に上がるらしい。
「この学校は他の学校と比べて人数は少ないからね。すぐにみんなの顔が覚えられると思うよ。」
「そんなに少ないんですか?」
この世界には前の世界の様に小学校とかがない。分かりやすく例えるなら専門学校みたいなものしかないんだ。だけどその種類が多いんだよ。
予想はしていたけど、やはり少ないんだな…。
「そうだね。他の学校は全校生徒数が300だけどここは半分くらいかな。まあ、通う年数も少ないからね。」
そうなんだよ。この世界の学校は年数もバラバラなのに驚いたんだよね。俺の通う神官の学校は3年なんだけど、三つ子の姉さんの通う学校なんかは5年も通うらしい。
本当にこの国のシステムは分かりにくい。
「さあ着いたよ。八岐くんの部屋はここだよ。」
なぜ俺の部屋が分かるのか不思議だと思っていたけど、簡単な事だった。ドアにネームプレートがつけられていたからね。名前さえ分かれば案内できるということが。
「ありがとうございました。」
俺は一条先輩に頭を下げてお礼を言った。
「どういたしまして。じゃあね。」
部屋に入るとベッドと机と椅子だけが置いてあるシンプルな部屋だった。広さは10畳くらいかな。
一人部屋なのは嬉しいな。
俺はベッドの上に寝転がった。
「ふう~、やっとここまで来たんだな。」
それにしても翡翠から聞いた皇帝龍の話が気になるな。
死んだわけではないのならいつかこの国に帰って来てくれるのだろうか…。
だけど共に成長してきた人間が殺された事でこの国の人間に対して良い印象は無いよな。何年くらい一緒に過ごしていたんだろう。
俺と翡翠はまだ出会ったばかりだけど、それでもいなくなると思うと寂しいからな…。何十年と一緒に過ごしていたのならもっと辛いだろうな。
学校にいる間に殺された皇帝龍の相棒の人間についても調べてみよう。この国からなぜ龍が離れていったのかが分かるだろう。
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