龍神様に頼まれて龍使い見習い始めました

縁 遊

文字の大きさ
上 下
36 / 86

36. 離れる準備

しおりを挟む


「荷物はまとまりましたか?」

「はい、お母様。そんなに持っていくものはないのでこれで充分かと思います。」

 月日が経つのは早いもので、俺が学校に行くために入寮する日がやって来た。

 学校には制服があるので普段着もさほどいらないし、学食もあるので調理道具も持って行かなくても良いし荷物が少なくて助かるよ。

 前世では料理が趣味だったので調理道具に懲りすぎて部屋の中が大変なことになっていたからな…。

 そう言えば…あれ全部捨てられたのかな。結構高かったんだけどな…。まあ、死んだら使えないから仕方がないんだけど。

 ふと、前世の事を思いだしてしまった。

「どうかした?」

 母さんがそんな俺の様子を見ていて心配している。

「何でもありません。少し庭を散歩してきますね。」

家族に心配されるの…慣れないんだよね。


「そう?そうね、暫くは見ることができないものね…。」

 俺は寂しそうに俺を見つめる母さんの横を通り庭に向かった。母さんは何も言わないが本当は俺と離れるのが寂しいらしい。

 これは母さんの白龍が教えてくれた。



『お前が居なくなるのが寂しいらしい。心が落ち込んでいる。何とかしてちょうだい。』

 いや、何とかしろと言われてもな…。俺が学校に行かないという選択肢はないぞ。

『そんな事は分かっているわ。息子として母孝行しなさいと言っているの!』

 なるほど。だけど母孝行って、具体的に何をすれば良いの?俺は前世でも母親がいた記憶が無いから何もしたことがないんだけど?

『そうであったな…。忘れていた。そうね…お花を送って感謝の気持ちを手紙にするとかはどう?』

 そんな恥ずかしい事をするの?

『恥ずかしくない!簡単でしょ!』

 まあ、俺は今は子供だから無邪気に笑顔で「ありがとう。」と言えば喜んで貰えるだろうけど…。


 …という話し合いの結果、俺は庭師に頼んで花束を用意して貰うことになったんだ。

 さりげなく庭に出てきたつもりだけど母さんにはバレていないよね?

「坊っちゃん。お待ちしておりました。」

 にこやかに庭園で待っていてくれたのは庭師の森野じいちゃんだ。父さんが子供の頃から家に勤めているらしい。

「お待たせ、森野じいちゃん。」

「いえいえ、坊っちゃんに会うためなら何時間でも待ちますよ。」

 森野じいちゃんは俺の前世のじいちゃんと性格は違うんだけど顔が似ているんだよな。だから昔からよく庭にやって来てじいちゃんに遊んでもらっていたんだ。

 森野じいちゃんとも暫くは会えないんだな…。

「ほら、坊っちゃんそんな寂しそうなお顔をしてはいけませんよ。今からお母様にお渡しするお花を選ぶのでしょう?」

「そうだった!ありがとう森野じいちゃん。」

 俺はじいちゃんからハサミを受け取り、花を見て歩いた。母さんが好きな花を聞きながらそれを切って花束にした。

「これでどうかな?」

 一応、色味も考えながら作った花束が完成した。

「綺麗です。きっとお母様もお喜びになられますよ。」

 森野じいちゃんが、大きくて温かい手で俺の手を包み込む様に花束を手渡してくれた。

 俺は花束を受け取った後、森野じいちゃんに抱きついた。

「坊っちゃん…どうされましたか。」

 じいちゃんは驚いたみたいだな。

「じいちゃん、今までありがとう。僕が帰ってくるまで元気でいてね。」

 俺は…じいちゃん子だったんだな。今更ながら分かったよ。家族との別れも辛いけど、森野じいちゃんとの別れも同じくらい辛い。

 じいちゃんは大きな手で俺の頭を優しく撫でてくれた。

「はい、ここで待っておりますよ。坊っちゃんも体に気を付けてくださいね。」

「ありがとう…。」

 俺はじいちゃんからそっと離れた。庭から離れるのが辛くて何回も後ろを振り返りじいちゃんに手を振った。

 家に入ると気持ちを切り替える為に大きく深呼吸をした。

 今度は母さんに花束を渡さないといけないからね。

『お前って意外と泣き虫だよな…。』

 翡翠は相変わらず口が悪い。

『感情豊かだと言って欲しいね。』

『良い言い方だな(笑)』

 バカにして笑ってるな。

『翡翠って本当に性格悪いから気を付けた方が良いよ。』

『はあ?それはお前にも言えることだな。』

 何で俺?

『知らないのか?龍は自分と似た性格の奴を選ぶ事が多いんだ。だから俺のパートナーのお前は同じ様な性格だと思うぞ。』

 …ショックなんですけど!俺…人から見たら翡翠みたいな感じなのか?!

『失礼な奴だな。そんなにショックを受けるのか?』

 確かに甘やかされて育てられた自覚はある。あるけど、自分で律しながら生活をしてきたつもりだったんだけど…。

『ムカつくから暫くは姿を見せない。じゃあな!』

 俺がいろいろとうちひしがれている間に翡翠は姿を消していた。言うだけ言ったらすぐに消えるなんて…。俺のこの気持ちをどうしてくれるんだ!

「あら?竜ちゃんどうしたの。庭はもう見てきたの?」

 母さんが前から歩いてきた。チャンスだ!落ち込んでいる場合ではないよね。

「母さんにこれ!今まで育てていただきありがとうございました。」

 俺は言葉と共に花束を母さんに渡した。

「まあ…。」

 母さんは言葉がでないくらい喜んでくれたらしい。涙を流しながら俺のプレゼントした花束を見ている。

「竜ちゃん、ありがとう。」

 母さんは俺の頬にキスをして、頭を撫でてくれた。幸せってこんなにじんわりとするのかな…。

 それを父さんに見られていて後が大変だったのはまた今度…。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

いつだって二番目。こんな自分とさよならします!

椿蛍
恋愛
小説『二番目の姫』の中に転生した私。 ヒロインは第二王女として生まれ、いつも脇役の二番目にされてしまう運命にある。 ヒロインは婚約者から嫌われ、両親からは差別され、周囲も冷たい。 嫉妬したヒロインは暴走し、ラストは『お姉様……。私を救ってくれてありがとう』ガクッ……で終わるお話だ。  そんなヒロインはちょっとね……って、私が転生したのは二番目の姫!? 小説どおり、私はいつも『二番目』扱い。 いつも第一王女の姉が優先される日々。 そして、待ち受ける死。 ――この運命、私は変えられるの? ※表紙イラストは作成者様からお借りしてます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...