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35. 真留の話 〈真留視点〉+余談
しおりを挟む「ふぅ~、やっと片付いたな。」
真留が新居に荷物を運んで一息ついていると娘の咲里が近寄って来た。
「竜くんは…?」
あどけない表情で聞いてくる可愛い娘に本当の事を言うべきか悩んだ。しかし、いつまでも嘘をつくわけにはいかないので本当の事を話そうと決意した。
「…竜くんは自分の家に帰ったよ。暫くは会えないかな…。」
「そうなんだ…。」
咲里の悲しそうな顔は見たくなかったが仕方ない。彼はここにずっといるべき人間ではない。
八岐 竜という子供のお陰でこの村は…俺達は助けられた。あの子が来なければ今も地下で生活をしていただろう。
もう一度、太陽の下で生活できる日が来るなんてな…。
ありがたい。
真留は幸福を噛み締めていた。
しかし、不思議な子だったな…。
見かけは8歳の綺麗な子供にしか見えない。だけど話をすると大人と話をしている様な錯覚に陥ってしまう。たまに、ボーと空を見上げている時が一番子供らしく見える不思議な子。
身分が高いのに偉そうな所がなく、俺達にも敬語を使わなくて良いと言うし、自分で何でもしようとする。他にあんな人は見たことがない。
まあ、ここの領主が悪すぎたせいなのかもしれないがな…。
今回も事情聴取が終わりこっちに帰って来る時に一緒についてきていた。疑問に思って聞いてみたら俺達に協力して欲しい事があるからだと言われて話を聞いて驚いた。
俺達の農地が開拓されるまでは時間がかかるだろうから、それまでの仕事を与えてくれるというじゃないか。
何でそこまで俺達に親切なんだ?
確かに皆と話をした時も、あの土地ではどんなに頑張ってもすぐには作物は育たないから生活できないだろし、どうやって食べていくかと悩んでいたんだ。
それを聞いていたかのように、世話してくれるなんて…やはりあの子は神様の使わした天使なのか?
しかも、仕事は農地の開拓が終わってからの少しの時間だけで良いらしいし、それなのにもらえるお金はすごい大金だ。こんなうまい話があるのだろうか…。
やはり、天使なのか?
俺達にとっては有難い話だが、1つだけ疑問なのは絶対にその仕事について村以外の人には話してはいけないと言われた事だった。
なぜなんだ?ただ穴の中の石ころを掘り出すだけの仕事なんか他にいくらでもあると思うんだが…。
天使様の考えなら言うことを聞くしかないのだが。
天使様は俺達に仕事の説明をした後、何かあれば領主の屋敷にいる中条さんに話をすれば助けてくれるからと教えてくれ、帰っていった。
本来なら村人全員で御礼をしないといけないのに、それもしなくて良いと言われた。
そう言えば…咲里からもらった宝物だけで充分だって言っていたな。咲里の宝物?何だろうか?
「なあ、咲里の宝物ってなんだ?」
咲里は笑顔を見せるが首を横に振るだけで答えない。
「なあ、父さんには教えてくれよ。」
「竜くんとの秘密なの。約束したからダメよ。」
天使様と約束した?ますます気になるじゃないか!
いや、しかしあまりにしつこいと娘に嫌われてしまうな…。そのうち分かるだろう。
しかし、後日村人全員で話し合って天使様の石像を建てることにした。開拓中の農地の守り神的な存在として農地からよく見える場所に石像を建てた。
俺達は毎日その石像に手を合わせる。
「天使様、今日も1日幸せに過ごせます様に…。」
天使様の石像はただ笑って見守ってくれている。
「より!今日も頑張るぞー!」
俺達は新しい領主様達の為に…天使様の為に頑張るぞ!
その頃…竜は…。
「ハクション!!」
「竜、どうした。風邪でもひいたのか?」
「分かりませんが、急に寒気が…。」
自分の事を天使様と呼ばれているなんて想像もしていない竜でした。
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