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34. お父様の思い 〈竜の父視点〉
しおりを挟む「お帰りなさい。竜が貴方の帰りを待っていたわよ。客間でお客様と一緒に待っているわ。早く行ってあげてくださいね。」
家に帰ると妻がプレッシャーをかけてきた。笑顔だが竜を待たせるなと言っているのが分かる。
私も仕事で疲れているのだが…。
可愛い竜の為なら仕方がないか。
客間に行くと竜と問題の領地にいた領民の姿があった。客とはこの人達のことか…。
竜は私の顔を見ると嬉しそうに話しかけてきてくれた。内容は全然可愛くない話だったが…。
「竜…今度は何をするつもりなんだ?」
また私の仕事が増えるのは間違いないな。
「あの領地は結局、どうなるのか決まりましたか?」
「ああ、あの領地は売りに出される事になった。借金の額が大きすぎて少しでも国の負担を減らそうということになったからな。」
あのバカ領主…金遣いが荒すぎて貯蓄も少なく今回の事件での補償金などを払える状況ではなかったのだ。挙げ句…あの王妃…国のお金から出せば済む事だなどと言ったものだから…。後始末が大変だったのだ。
今回の騒動が落ち着いたら王妃には制裁を下すということで皆に納得してはもらえたが…いつまで持つかな。
「ではお父様、お願いしていた通りに入札してくださいね。」
「分かっている。手筈(てはず)は整えているから大丈夫だ。」
まったく可愛らしい顔をして我が子ながら恐ろしい子供だと思うぞ。あの事件の時から先を読んでここまでの対策をたてていたんだからな。
あの時、竜は私に「この領地に幽霊がいると噂を流して下さい。」とお願いしてきた。最初はどうしてそんな噂を流す必要があるのかと思ったがその後の話で気がついた。「その後この土地を買い取っていただけますか?」竜は考え込む事なくスラスラと計画を私に話しだしたのだ。
結果は今の通り…。
竜の思い描いていた通りになっていると思って良いだろう。
王様は竜を神官の学校に行かせるとおっしゃっていたが…勿体ない。今からでも官僚の学校に変更した方が国にとって有益だと思うのだが。この話を王様にするわけにもいかないしな…。
「お父様!聞いていますか?」
「え?ああ…何だ。」
竜が私に話しかけていたみたいだ。
「ですから、あちらの領地の準備は整っていますか?とお聞きしたのです。」
「それは心配ない。中条が全てやってくれている。報告も受けているから安心しろ。」
中条は今や私の家の執事となっている。あの屋敷で働いていたもの達は全員声をかけて私の家の使用人として雇い直した。今は皆、私の手足となり働いてくれているので助かっている。
「中条さんなら大丈夫ですね。じゃあ、領民の皆さんの住まいの手配はどうなりましたか?」
「それも完成している。急ぎの工場だったのであまり大きくはないが住むには充分な家だ。数も100軒くらい建てたらしいぞ。」
これも竜の計画の1つ。領民は事情聴取が終わると領地に帰りたがるだろうから家を地上に建てて欲しいとお願いされていたのだ。
結局これも竜の読みが当たった。
我が息子…天才すぎて怖い。
「良かった。真留さん帰れますよ。咲里ちゃん達も安心してね。」
「ありがとう竜くん。」
咲里という少女が顔を赤らめて竜にお礼を言っている。竜…罪作りだな。顔も私に似てイケメンだからな。女の子達もほっておかないだろうな。
「で、お父様、領民の皆さんの仕事の事ですが…。」
「もう話をしたのか?」
「いえ、あれは実際に目で見てもらい説明した方が良いかと思いまして、まだ言っていません。」
「そうか…。ん?実際に見る…。誰が行くんだ?」
実際に領地に行く時間なんて私には無いぞ。
「僕です。僕が行きますよ。お父様はお仕事が忙しいでしょうからね。」
良かった~とホッと胸を撫で下ろしたが…。
「竜は1人で行くつもりなのか?」
いくら賢いと言ってもまだ8歳の子供を1人で行かせるのは心配だ。
「大丈夫ですよ。真留さん達と一緒に行きますし、向こうには中条さんがいるから心配ないです。それにもうすぐ寮に入って全部を自分でするようになるのですから練習です。」
「竜…。」
忘れていた。そうだ神官の学校は全寮制で侍女達も連れて行けないのだった。
「そうだったな。では何かあったらすぐに連絡するんだぞ。」
「はい、お父様。」
天使の笑顔だな。この笑顔が見られるのも後少しなのかと思うと寂しいな。
次の日、竜は真留一家と一緒に例の領地に向けて出発していった。
竜…まだ子供のはずなのにすっかり大人になってしまったかのような寂しさが込み上げてくる。
帰って来たら思い切り甘やかそうと心に決めた日だった。
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