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29. お城に行ってみた
しおりを挟む日が経つのは早いものであっという間に王様と会う日になっていた。
「お父様…大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」
お城に向かう馬車の中、父さんの顔色は真っ青だった。分かるよ…僕の事が心配なんだよね。もし王様に会って僕が危険人物だと判断されると僕の命の保証はないし、家もどうなるか分からないもんね。
家を出る時なんか母さんが泣きながら俺を抱きしめた後、姉さん達にも抱きしめられた。お嫁に行った姉さん達まで来ていたからね…。それだけ心配されているんだよね。
父さんは家族から何か言われてきたんだろうな…。
僕は父さんの向かい側に座っていたが、父さんの横に移動した。
「お父様心配しないで下さい。…と言ってもだめなんでしょうけど(笑)今日の為にいろいろ準備をしてきたではありませんか。大丈夫です。」
父さんの緊張で冷たくなっている手の上に僕の手を重ねて笑顔を見せた。
「竜…。」
父さんは僕を強く抱きしめた。
「そうだな。本来なら私がお前を励まさないといけないのに私が励まされるなんて…父親失格だな。」
「お父様…そんな事はありません。僕はお父様と一緒にいられるだけで安心できます。」
父さんは俺の顔を見つめて再び俺を強く抱きしめた。
「竜…やっぱり天使だ。神様、私からこの天使を奪わないで下さい。」
父さんがブツブツと小声で何かを言いながら天を仰いでいる。他人が見たら危ない人だと思われるからやめた方が良いよ。
父さんとこんな会話をしているうちにお城に到着してしまった。
「ここが…。凄い大きいですね。」
馬車の窓から見上げたお城はとてつもなく大きく見えた。だけど…。
「姫路城みたい…。」
驚きのあまり、思わず口に出てしまった。
だって、俺の異世界のお城のイメージは洋風なお城だったから驚いたんだよ。今、目の前に見えているのは前世で見たことがある姫路城そっくりだ。壁は真っ白で眩しいくらいだし屋根は瓦屋根なんだよ。
やっぱりこの世界は少し日本風なんだなと改めて実感したよ。
城の中に案内されてまた驚いた。
床も日本風なら畳とかなのかと思っていたら、全て板張りだった。だけど扉や窓の所には見覚えのある物があった。襖と障子…?全部ではなく所々に襖と障子の様な物があった。いや、不思議すぎる空間なんだけど!
俺は珍しすぎて周りをキョロキョロと見回しながら進んで行った。
このお城、面白い!
俺は今から王様に会う緊張感などすっかり忘れてワクワクしながらお城の中を見ながら歩いた。
異世界だけど親しみがあって、懐かしさもありすっかりお城に夢中になっていた。
「竜…やけに楽しそうだな。」
父さんが小声で話しかけてきた。父さんにすればいつものお城なんだろうけど俺にとっては初めてのお城だからね。
「お城の中を見れて嬉しいです。」
多分、いつもの俺と違う顔をしていたみたいで父さんが少し驚いた顔をしている。
「そうか…お前もそんな子供らしい所がまだあったのだな。」
……?父さんの発言に引っ掛かりを覚えたけど反論するのは止めておこう。
中身は大人だからね。普段は子供らしくしていたつもりだったけど見抜かれていたのかな?
「お城の造りや調度品が素敵ですね。」
「竜はジャポ風に興味があるのだな。」
ジャポ風?って日本風って事かな。俺は確認のためにお気に入りの品物に指差しして聞いた。
「あれと、それと、あっちの品物が好きです。あれらがジャポ風ですか?」
螺鈿細工のようなものが施してある物、有田焼の様な大きな壺、漆塗りの様な調度品を指差してみたんだけど…。
「そうだな。あれらは全てジャポ風と呼ばれる品物だ。」
へえ~!!そんなのがあったんだ。俺の家はどちらかと言えば洋風な造りで調度品もそうだったから、この世界は全て洋風な感じだと勘違いしてたよ。
今思えば…あれは母さんの趣味だな。
「着きました。こちらでお待ちください。」
不意に男の人の声が聞こえてきた。
そうだ、俺達は王様に会いに来たんだった。すっかり忘れていたよ。
案内されたのは大きな扉の前だった。
ここで待つの?部屋の中には通されないの?
俺は少し疑問に思いながらも周りをキョロキョロと見回しながら待っていた。
横を見ると、また父さんの顔色が悪くなっている。俺は父さんと手を繋いで笑顔を見せた。
「大丈夫だよ、お父様。何とかなるから。」
あ…こういうのが子供らしくないのか?子供ならもっと不安げにオドオドとしていた方が良かったのかもしれないな。
今更気がついても遅いけどね。
そして、その時がやってきた。
「八岐様、ご子息様ご到着です!扉を開けます。」
目の前の大きな扉がひらかれた。
きっと何とかなるよね…。
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