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27. 言霊
しおりを挟む「竜…困った事になってしまった。」
父さんが頭を抱えてソファーに座り込んだ。
「困った事ですか?」
俺に言うということは俺に関する事だよな。何だろう?例の幽霊の噂についてかな。
「実は…王様がお前に会いたいとおっしゃっているんだ。」
「え!?」
何でそんな事になったんだ?父さんとの話し合いでは報告書には俺の事を書かないって言っていたよね。どこから漏れたの?
「…領民がお前の話をしていたらしい。それがどういう訳だか王様の耳にまで届いてしまってな、私に聞かれたのだ。」
なるほどね…。そう言えば領民の皆さんに口止めするのを忘れていたよ。
「領民の皆さんは僕の事を何て言っているのですか?」
「お前の事を"神様が使わした救世主"だと言っているらしい。」
あ、ダメなやつだね。いかにも胡散臭い感じが漂ってくるかも…それは調べられるわ。
「私も嘘をつくわけにもいかず…。すまない、お前との話ではこんな事にならないようにすると言っていたのに大事になってしまった。」
父さんは俺に頭を下げた。いや、これは父さんは悪くない。俺のミスだよ。
「お父様、頭を上げてください。お父様は悪くありません。僕が領民の皆さんに秘密にしてくれるように言い忘れていたのが悪いのです。」
「竜…。」
「所で、王様はいつ僕に会いたいとおっしゃっているのでしょうか?」
王様に会うまでにはいろいろと考えておかないとね。
「ああ、一週間後にしてもらった。王様は明日でも…と仰ったが説得して延ばしてもらったよ。」
王様はせっかちな人なのかな?父さんが日にちを延ばしてくれて助かったよ。一週間あればいろんなパターンの話が考えられる。
「お父様、いろいろとご負担をおかけして申し訳ありませんでした。日にちを延ばしてもらいありがとうございます。その間にいろいろと考えてみます。」
「そうか…。私も手伝える事があれば言ってくれ。」
父さんは俺に近寄り強く抱きしめた。
「お前の事を隠せなかったが絶対に守るからな。私は何があっても竜の味方だと言うことを忘れないでくれ。」
父さん…。俺は前世で両親に抱きしめられた記憶がない。こんなにも暖かいものなのか…心まで暖まる気がするんだな。
俺は父さんを抱きしめ返した。まだ小さな俺の身体では父さんの様に包み込む感じにはいかないが…。
「お父様…。僕はお父様が大好きです。僕も何があってもお父様の味方ですよ。」
父さんは更に強く俺を抱きしめた。…ちょっと苦しいかも。
「お父様…苦しい…です。」
「え?あ、すまない大丈夫か?」
父さんは慌てて俺を抱きしめるのをやめて顔を見た。目が合った俺達は自然と笑顔になった。幸せってこんな感じなんだな…。俺は父さんの愛を感じていた。
前世では感じたくても感じることができなかったものだ。俺は前世で俺を育ててくれていたじいちゃんを思い出した。
じいちゃんにはいつ会えるのかな…。
俺が立派な龍使いになるのはまだまだ時間がかかりそうだしな…。
俺は父さんの愛情を感じながらもじいちゃんの事を思い出して少し悲しくなってしまった。
父さんに悪いな…。
『そういう時は"すまない"ではなく"ありがとう"と相手に伝えるのだ。』
突然、翡翠が姿を見せた。
『ありがとうと言うのが良いのか?』
『人間は何故か"ありがとう"と言うよりも"すいません"と言う方が多い。言葉の力を考えると"ありがとう"と言う方が良い。』
『言葉の力?』
『知らないのか?』
『お前は本当に…。』
翡翠が溜め息みたいなのをついた。龍が溜め息…呆れられているのか?
『言霊と言うのを聞いた事はないか?』
言霊…前世で聞いた事があるような気がするけどな。はっきりは覚えていないな。
『聞いた事がある様な気がするんですが…。』
『その程度か…。』
『はい。』
『人間が口にする言葉には魂が宿ると言われている。だからなるべく綺麗な言葉を使いなさいと言われた事はないか。』
そう言えば、じいちゃんから言われた事があったな。あれは…じいちゃんと空手の練習をして終わった時だったよな。
あの日は小学校の友達にじいちゃんと2人暮らしなのをからかわれてケンカをして帰った日だった。
「お前はじいちゃんと暮らすのは嫌か?」
じいちゃんは大きな手で俺の頭を撫でてくれていた。
「うううん。僕はじいちゃんが好きだよ。」
俺はじいちゃんに笑顔を見せた。
「そうか…。なら誰に何を言われようと気にするな。誰に何を言われようと竜太とじいちゃんが分かっていれば良い事だから。」
「そうなの?でもアイツらの事は許せないよ。」
じいちゃんの手が俺の手の上に重なった。
「竜太…日本には言霊というものが信じられている。」
「言霊?」
「竜太にはまだ難しいか…。しかし良く聞いてくれよ。口から出る言葉には魂が宿ると言われているんだ。汚い言葉はお前を腐らせる。だからなるべく口から出す言葉は綺麗な言葉にしなさい。憎しみを口にすると憎しみしか生まれてこないぞ。」
「…うんと…悪口を言ったらダメと言うことなの?」
じいちゃんは苦笑いしながら俺の手を強く握った。
「そうだな。今はそれで良い。」
「分かったよ。」
じいちゃんと俺はお互いの顔を見て笑顔になった。懐かしい話だな。
今になってあの時のじいちゃんの教えてくれた事が理解できたよ。
『思い出したみたいだな…。では続けるぞ。』
まだ何かあるのか?
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