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5. アフターケア

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 本当に緑豊かな素敵な国ですね。この国でアデール様はお元気にされているのでしょうか。

 聖女様ですけど教会ではなくこの辺りにお住まいがあるはずなのですが…。

「あれ?スピちゃ~ん!久しぶり~!!」

 この声はアデール様ですね。スピちゃんと呼ぶのはアデール様だけですから間違いないでしょう。

 声のする方を向くと、やはりアデール様がいらっしゃいました。ですが、聖女と言うよりも侍女の様な格好をされています。シンプルな濃紺のロングワンピースに白いエプロン…似合っていらっしゃいますが…。

「どう?似合うでしょ。」

 アデール様は私の目の前でクルッと回って見せてくれました。

「とても良くお似合いですよ。ですが…それは聖女様の格好なのですか?」

 もしかしたらどこかでバグが出て設定がおかしくなっている可能性もありますからね。異世界転生案内所の職員として調べないといけません。

「しー!私が聖女ってのはまだ内緒なの。」

 珍しくアデール様が慌てて私の口を抑えにやってきました。

 なるほど…。まだ聖女としては働いていらっしゃらないということですね。では、今のその格好は飯テロに関係する姿ということですね。

「今は食堂で働いてるの。」

「調理をされているのですか?」

「そう。私の作るご飯は人気なのよ。良かったらスピちゃんも食べて行ってよ。」

 アデール様が楽しそうで良かったです。

「ナナ!何してるんだ。」

 後ろの建物…おそらくアデール様が働いている食堂から背の高い若い男性が出てきました。緑色の髪に青い瞳のなかなかのイケメンですよ。

「ロデア。」

 名前はロデアさんですか。どうやら食堂の関係者みたいですね。

「その人は誰?」

 この人はどうやら私が男性だと思っているみたいですね。アデール様の事をお好きな雰囲気を出されていますね。

「私の友達だよ。久しぶりに会ったから話をしていたの。まだ、食堂を開ける時間には間に合うから良いでしょ?」

 アデール様はロデアさんの好意に気がついて無いのでしょうか。

「…まあ、そうだけど。」

 好きな人から言われたら駄目だとは言えませんよね。

「あ!そうだ、良かったら食堂の中で話しませんか?私の料理を食べて欲しい。」

 基本的に私は食事をしなくても生きていけるのですが…せっかくのお誘いですし食べていきましょうかね。

「分かりました。お邪魔させていただきます。」

「やったー!」

 アデール様は私の手をとり店へと引っ張っています。その手をジーと見つめているロデアさんの視線には気がついていないようです。アデール様は恋愛にはまだ興味がないのでしょうか?

「ほら、ここに座って待ってて。すぐに作って来るからね。」

 アデール様は私を椅子に座らせるとすぐに厨房に消えていきました。

 残された私とロデアさんは気まずい雰囲気なのですが…そこは気にしていただけなかったのですね。

「あの…ナナとはどういった友人なんですか?」

 どういった…とは難しい質問ですね。

 正確に言えば友人でもなく、異世界転生案内所の職員とお客様の関係です。ですが、そのまま伝える訳にはいきません。

「そうですね…アデール様とは私の職場で知り合った友人です。」

「職場ですか?」

 納得がいっていないご様子ですね。

「たまたま町を歩いていたらアデール様に声をかけられただけの友人ですよ。」

「ナナを探して来たのではなく?」

 あ~、会いたくて来たのかもしれないと思っていらっしゃるんですね。

「違います。」

 本当は探して会いに来たのですけどね。こう言わないとロデアさんは落ち着かないでしょうから。

「…そうなんですね。」

 ようやく信じてもらえたみたいですね。

「お待たせ~。さあ、食べて食べて。」

 アデール様が山盛りにおかずののったお皿を持って帰ってきました。

「何?どうしたの?」

 私とロデアさんの微妙な雰囲気にやっと気がついたみたいですね。

「いや、何でもないよ。どういう知り合いなのかと思って話を聞いていたけだ。」

「ロデアって愛想がないから怖い感じがしますけど根は悪い奴ではないので許してやってください。」

 アデール様がロデアさんの背中をバシバシと叩きながら私に謝っている。

「何も怖い思いはしていませんよ。」

「そう?なら良かった。じゃあ、冷めないうちにはやく食べて。」

 ロデアさんとアデール様は小さい声で何かを言い合っている。仲が良さそうですね。

 私はアデール様が作ってくれた料理を口にした。

「美味しい。」

「良かった~!」

 言い合っていたアデール様が私の言葉を聞いて笑顔になった。

「本当にお料理が得意だったのですね。」

「やっぱり疑ってた?」

「いえ、そんなことはありません…。」

「フフッ…。嘘だ~。」

 本当に美味しいです。懐かしい味と言うのでしょうか。もう何百年も人間の食べるものを口にしていませんでしたので、そう思ってしまうのかもしれませんが…。

 私は全てを食べきった。

「ご馳走様でした。」

「また、食べに来てよ。」

 横にいるロデアさんには睨まれていますが、それだけアデール様の事をお好きだと言うことですね。アデール様も幸せになれそうで安心しました。

 異世界転生のドアを開けた時の様にアデール様は手を思い切り振りながら私を見送ってくれました。

 アデール様、どうか素敵な異世界転生生活をお楽しみ下さいね。
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