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2. 嬉しがるお客様
しおりを挟む「いらっしゃいませ。ようこそ異世界転生案内所へ。」
どうやら本日のお客様は日本人の男性のようですね。
「あの…気がついたらこの家の前にいたのですが…ここはどこなんですか?日本ですか?」
やはり日本人のようですね。黒髪に黒い瞳。日本語をお話になっています。年齢は…20歳。名前は黒崎 悠斗(くろさき ゆうと)さんですね。
え?
なぜ分かるのか?ですか。
私には相手の名前や年齢等が見える能力があるのです。ある程度近づかないと分からないのですが、便利な能力です。
「ここは日本ではありませんよ。」
黒崎様がガッカリしたのが分かります。どうやら神様から何も説明されずに連れて来られたみたいですね。どの神様ですかね…。後でしっかり指導しなければいけないみたいですね。
「ここは異世界転生案内所というところです。貴方達でいう天界というところにあります。」
「天界…。え!?俺って死んだの?」
あ~あ、お可哀想に。神様から説明をされていないせいでパニックになっているじゃないですか。
「詳しいことはまだ分かりませんが貴方は異世界転生できるチャンスを与えられたと言うことは確かです。」
パニックになって動き回っていた黒崎様の動きがピタッと止まりました。
「…異世界転生。」
「はい、ここはその為の場所ですので。貴方は神様に異世界転生するようにとここに連れて来られたのですよ。」
黒崎様が下を向いてブツブツと何かを言っていますが小さな声すぎて何を言っているのか詳しく聞き取る事が出来ませんね。
「マジか!異世界転生キター!!」
急に顔を上げたと思ったら拳を高く突き上げて喜んでいる様子です。
そう言えば…日本では異世界転生の物語がノベルや漫画でブームになっているんでしたね。そのおかげで日本人の皆さんは比較的抵抗なく私の話を聞いて下さるので助かっているんですよ。
「え?!俺って勇者とかチートな能力を持って転生できるの?」
ここに来た時とは別人の様な表情です。そんなに嬉しいのでしょうか。
「そうですね。それはこれからお話をさせて頂きながら決めていきたいと思います。どうぞこちらにお座り下さい。」
私は黒崎様にカウンターの前の椅子に座るようにお願いしました。黒崎様はすぐに椅子に座って下さいました。早く話がしたいといった感じですね。
「まずは黒崎様のご希望からお聞きしたいと思います。」
「希望?え?!何でも言って良いの?」
本当に嬉しそうですね。
「全てを叶えられるかは分かりませんが出来るだけご希望に近いものにしたいとは思っております。」
「じゃあ…まずは勇者になりたい。それから誰にも負けない強さと精神力、体力も欲しいな。もちろん顔はイケメンでお願いします。美女にもてるチートな能力もあると嬉しい。あとは…。」
黒崎様は欲望に素直ですね。日本人の方は争いを避けて安全な国で平和に暮らしたいと願う人が多いのですが、黒崎様は違うみたいです。取り敢えず確認は必要ですかね。
「黒崎様は戦う事はは怖くないのですか?勇者になりますと強い魔物等と戦うのが当たり前になりますが…。」
それまでキラキラとした感じで希望を述べていた黒崎様の表情が変化しました。
「俺はさ…今までずっと病気のせいで病院の入退院を繰り返していたんだ。楽しみは調子の良い時にするゲームのみ。自分が勇者になったつもりでやっていたんだ。現実の俺は誰かの世話にならないと生きていけない奴だったからな。せめてゲームの中では誰かの役に立ってみたかったんだ。それが現実に叶うかも知れないんだからならないという選択肢はないでしょ。」
「そうだったのですね。」
今のお姿は確かに痩せていて、お世辞にも逞しいとは言えません。人は無い物ねだりというか反対のものに憧れを持ちますからね。
「では、職業は勇者にしましょう。能力は高めに設定しておきますが訓練しないと落ちますので気をつけて下さいね。」
「それって訓練次第で強くなれると言うこと?」
「はい。努力する人にはその分、能力アップできる仕組みがありますので。頑張ってくださいね。」
「分かりました。」
後は…美女にもてる能力ですね。
「美女にもてる能力ですが…。」
「うん!あるのそんな能力!」
興奮して立ち上がり顔が近づいています。鼻息が荒いですね。
「今から行く国では強い男性がもてますので心配は無いかと思います。お顔は変える事が出来ますけど…どんな風にされますか?」
「え!俺が決めて良いの?じゃあ、今から行く国でもてる顔にしてください。」
黒崎様はぶれませんね。
「分かりました。ではこんな感じでどうですか?」
私は映像で作り上げた顔を黒崎様に見せた。
「凄いイケメン!これ!これが良いです!!これでやっと俺にも彼女が出来る!!!」
そうか…。今までは女性とのお付き合いもなかったんですね。だからこだわっていらっしゃったのか。
「後は…お金や住まいには困らない様にしてありますのでご心配はいりません。安心して転生してください。」
黒崎様が驚いた顔をした。なぜでしょうか?
「…そうか。お金がいるよな。俺は今まで働いた事がなかったから抜けていたのか…。教えてもらってありがとうございます。」
いろいろと制限された生活をされていたんですね。今回はやりたい事を思う存分できると良いですね。
「他に何か聞きたいことはありますか?」
「いや、無いです。」
「では、最後になりますが何かお困りごとがありましたら教会に行ってお祈りをしてください。そうすれば神様と連絡が取れます。それに私も数ヶ月後くらいに様子を伺いにお邪魔させていただきますので何かありましたらその時にでも言って下さいね。それからこれは異世界転生マニュアル本です。」
黒崎様は頷きながら聞いてくれています。
「楽しみです。」
「それは良かったです。ではこちらの扉を開けて外に出てください。扉を閉めるとこの扉は消えます。それからは黒崎様…いえ、ユート・クロード様の人生の始まりです。」
「ユート・クロードが新しい名前なんですね…。新しい名前も貰ったし出発します!」
「はい。それではクロード様、良い転生人生をお過ごし下さい。」
クロード様は笑顔で扉を開けて出て行った。
「ご利用ありがとうございました。」
私は扉に向かって礼をする。これが私の仕事のルーティンだ。
さあ、次のお客様はどんな人だろうか?
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