上 下
27 / 32

27. 運命の人?

しおりを挟む

「菫ちゃん!」

 緊張していた病室に飛び込んで来たのは賢人さんだった。

「やっぱり…ここにいたのか。」

 私の顔を見て笑顔を見せてくれたと思ったら、すぐに棚澤医師の方を見て睨んでいる様です。

「…お前もやはり来たんだな。いつも俺の邪魔をするんだな。」

 睨まれている棚澤医師は表情も変えることなく賢人さんを見ています。

「次に菫に何かをしたら、今度こそ牢屋に入れてやる。いくらお前に優秀な弁護士がついたとしても前の様にすぐに釈放はされないようにしてやるからな!」

 珍しく賢人さんが声を荒げています。しかし棚澤医師は怯える様子もなくただ黙って聞いています。

「何か誤解をしてないか?」

「誤解?」

 うっすらと口許に笑みを浮かべて棚澤医師が賢人さんに話しかけています。

「最初に僕から彼女を奪ったのはお前の方だ。彼女は僕の運命の人だったのに…。」

 棚澤医師がまた訳のわからないことを言い始めました。

「…は?お前の運命の人だと?!」

 賢人さんは訳がわからないというような顔をしています。

「お前は勘違いをしている様だから教えてやるよ。俺達は君と彼女が出会うずっと前に出会っているんだ。だけどお互いにタイミングが会わなくて密に会うことが出来なかった…。彼女は俺と会えない寂しさをお前で埋めようとしただけなんだよ。可哀想にな。」

 え~と…初めて聞きましたわ。私は棚澤さんに会えなくて寂しいなんて思ったこともありませんが…。どうしてそんな風に思えたのでしょうか。かなりの思い込みが入っているみたいですわね。

 賢人さんも驚いているみたいです。

 私の今までの経験から言えば、こういう方達は何を言っても言葉通りには理解してもらえない事が多いので話し合いは難しいということは知っています。

 私がハッキリと自分の気持ちを言ったとしても「恥ずかしがらなくても良いよ」と言われて終わりになりそうですし…。

「運命と言うなら、僕も菫の運命の人の一人だと思うけどね。知らないのか?運命の人は一人じゃないって言うよ。」

「え?!そうなのですか!?」

 思わず声が出てしまいました。

「菫ちゃんが驚くの?」

 賢人さんが私を見て笑っています。さっきまでの緊張していた空気が和らいだのを感じます。

「運命の人っていうのは人生の中で絶対に出会う人の事なんだ。だから異性とは限らないらしいよ。人生を変えるくらいの影響を与えてくれる人って解釈らしいと何かの本で読んだ事がある。だから、菫が棚澤さんの運命の人というならそうかもしれないけれど…僕にとっても菫は運命の人だ。僕に人を愛する事を教えてくれた大切な大切な…只1人の愛する人だからね。」

 …賢人さん。

 嬉しいやら恥ずかしいやら…よくわかりませんが顔が赤くなって熱を持っているのはわかります。

 私にとっても賢人さんは私に人を愛する事を教えてくれた、私が愛する只1人の運命の人です。

 私達の様子を黙って見ていた棚澤医師は呆然とした雰囲気を醸し出しています。

「…運命の人はそんなにいるわけがない。」

 ボソッと何かを言っています。

「おかしい!なぜ俺にはそんな顔を見せないんだ?俺は君をずっと愛していたのに…。会えなくてもいつかは会えると思って探していたのに…。君も俺に会いたいと思っているだろうと思っていたんだ。」

 ん?私を探していたのですか。

 残念ながら私は病院で棚澤医師に再会するまで思い出すこともありませんでしたよ。でもここでそれを言ってしまうとややこしいことになりそうなので言いませんが…。

 はぁ~、どうして私の回りにはこういう人達が集まってきてしまうのでしょうか。賢人さんとの愛を再確認して弾んでいた気持ちが萎んでしまいました。

「私は幼い頃からずっと人に追いかけられることに恐怖しか感じた事がありませんでした。相手の人に一方的に気持ちを押し付けられて家まで押し掛けられて…。私は一生誰も人を愛する事を出来ないだろうと思って人と距離をおいていましたしね。そんな時に私に初めての気持ちを教えてくれたのが賢人さんでした。最初は同じ会社で働く人でしたが、賢人さんと話すようになり段々と私の気持ちに変化が出てきて…気がついたら好きになっていました。気持ちって人から押し付けられるものではないのだと思います。」

 こんな事を言っても棚澤医師に理解してもらえるかはわかりませんが…。

「俺の気持ちは押し付けだって言うのか…。」

 棚澤医師はその場で膝をついてしまった。

「私が一度でも棚澤さんに会いたいと言いましたか?寂しいと言いましたか?運命の人だと言いましたか?…どれも言っていませんよね。」

 棚澤医師は顔を床に向けたまま床に座り込んだままです。

 私は大きく深呼吸をして話を続けました。

「怪我の治療をしていただいたことには感謝しています。ありがとうございました。」

「菫ちゃん…。」

 賢人さんが私の隣にやってきて肩を抱き寄せました。賢人さんの温もりを感じる事ができて安心します。

「…俺は…おれ…は…。」

 棚澤医師は同じ言葉を小さな声で繰り返しています。

 理解してくれたのかしら…。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。

すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!? 「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」 (こんなの・・・初めてっ・・!) ぐずぐずに溶かされる夜。 焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。 「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」 「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」 何度登りつめても終わらない。 終わるのは・・・私が気を失う時だった。 ーーーーーーーーーー 「・・・赤ちゃん・・?」 「堕ろすよな?」 「私は産みたい。」 「医者として許可はできない・・!」 食い違う想い。    「でも・・・」 ※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。 ※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 それでは、お楽しみください。 【初回完結日2020.05.25】 【修正開始2023.05.08】

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

処理中です...