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26. 消えていた記憶
しおりを挟む「棚澤…さん?」
そうだ思い出しました。会社に入社する前に会っていた医大生の男性です。
久しぶりにお会いしたのでお顔を忘れていましたが…道端でお会いするならまだ分かりますが、なぜここに?
「あの…なぜここに?」
棚澤さんは何も答えず私に近寄ってきます。私はなぜだか分かりませんが全身が金縛りにでもかかったかのように動かなくなってしまいました。
なんでしょうかこの気持ち悪さわ…。
「記憶が一部失われているって看護師から聞いたけど…どうやら本当なんだね。」
え?記憶が一部失われている…ですか。そんなことは聞いていませんが。
「やはり運命で結ばれた者は神様が手を貸してくださるんだね。」
運命で結ばれた者?なんの事でしょうか?
ゆっくりと私に歩み寄る棚澤さんは私の記憶していた爽やかな男性とは別人の様子です。こういう男性を私は沢山見てきました…。
私は身の危険を感じてナースコールを押そうと手を伸ばしました。
「駄目だよ。僕達の邪魔をする人を呼ぶなんて…意地悪だな。」
その手は素早く棚澤さんに押さえられてしまいました。
「痛いです、手を離してください。」
私の手首を掴んでいた棚澤さんはすぐには離そうとせず、手を掴んだまま私の事を見つめています。
「どうして僕の気持ちは君に届かない?ねぇ…あの男より僕の方が先に君と出会ったよね。それなのに僕が君を少しかまってあげることが出来なかったから居なくなったのかな?でもあの時は医者になるための実習で仕方がなかったんだ。将来を考えたら少し我慢してくれても良かったんじゃないかと思うんだけど。…どうして君は待っていてくれなかったの?ねぇ…どうして?」
棚澤さんの瞳に狂気を感じます。
掴まれている手に更に強い力を感じます。
「…手を離してください。」
棚澤さんの言っていることには何も言わないほうが良いと判断して再度同じことを言いました。
「僕の言ったことを無視するつもりかな?」
更に強く力を加えその掴んだ手を棚澤さんの方に引っ張られました。
「きゃっ!」
私は驚いて思わず声をあげてしまいます。
「君は…本当に分かってない。」
棚澤さんは手首を掴んでいない方の手を私の頬に当ててきました。その瞬間、私の全身を寒気が襲います。
「フッ…見事な時麻疹だね。」
鼻で嘲笑うかのように言うと頬だけではなく袖をまくり腕まで触っています。
気持ち悪さで吐き気まで出てきました。
…なんでしょう。この感じは前にも感じた事があるような気がします。
いつだったかしら?これは…。
自慢ではありませんが、何度もストーカーや誘拐をされてきた経験がありますからね。昔のそれと似ているのかしら?
何だか違う気がします。
これは…。
思い出そうとすると頭の中が霧がかかったみたいになります。モザイクのかかった不鮮明な映像を見せられている様な感じです。
これは…。
ストーカー?
賢人さんを守ろうとして…。
棚澤医師?
…!!!
モザイクが一つずつ鮮明になりすべての画像が鮮やかに見えます。
そうだわ!思い出しました!!
私は棚澤医師に監禁されていたんでした!
そこに賢人さんが助けに来てくれて…。
そこからが思い出せません…。
「急に大人しくなってどうしたのかな?」
棚澤医師の声を聞いて我に返りました。
「離してください!!!」
私は思い切り大きな声を出しました。誰かに気がついてもらえないかと思ったからです。今の私の体力ではここから逃げ出せそうにありませんからね。
「しっ!静かにしないと駄目だよ。」
棚澤医師が私の口を塞ぎながら言って来ました。
「大人しくしていないとまた睡眠薬を飲んでもらうことになるよ。」
睡眠薬?またって言葉を使うということは前に使った事があるということですよね。
…いつ?
急に頭の中に色々な映像が流れ込んできた。
そうだわ…。
完全に記憶が繋がりました!
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