お嬢様は新婚につき誘惑はご遠慮します

縁 遊

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18. 後悔先に立たず

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 あれから何時間が経ったのだろう…。日が暮れてきたのが窓から見えるわ。

「綺麗な夕陽ね…。」

 のんびり景色を楽しめる状況ではないけど今の事を考えると不安に襲われそうで思考を止めてしまいたくなっている。

 どうなるのかしら…。

 扉から出ることも窓から出ることも出来ない。

 防音されているみたいだから大きな声を出しても近所の人が気がつくこともないだろうし…。

 賢人さん…今何をしているのかしら。

 私がいないことに気がついて探してくれているのかな。だけど棚澤医師の事に気がついてくれないとここには来られないのよね。

 前にルカが棚澤医師の話をした時におかしな反応をしていたけど…もしかしてこういう人だと分かっていたのかしら?

 考え事をしながら扉に目線を移したとき、鍵が動くのが見えた。

 誰か…入ってくる?

 どうしよう…。

 寝ているふりをした方が良いかしら…。

 急いで布団を被り目を閉じた。

 部屋の鍵があき、扉を開ける音がした。部屋の中に誰かが入ってきたのは間違いない。

「まだ、寝ているのか…。」

 聞こえてきた声にやはり聞き覚えがある。

 棚澤医師だ。

 ギシッとベッドが軋む音が聞こえてきた。どうやら棚澤医師がベッドに腰をかけたようです。

「眠り姫は寝ていても美しいな…。」

 私の頭を優しく撫でている。背筋がゾワリと寒くなる。身体が動こうとするのを必死に抑えた。気がつかれてないわよね…。

「運命の2人だから離れていても会えるとは思っていたが…まさか無理やり結婚させられているとは思わなかったよ。ごめんね、助けてあげられなくて…。でも大丈夫だよ。これからはずっと一緒にいられるからね。何も心配いらないよ…。」

 さっきから何を言っているのだろう…。

 運命の人?

 無理やり結婚させられた?

 誰が?

 棚澤医師とは昔に少し話をしていただけで好きだと言ったこともなければ言われた覚えもないのだけど?

 どこがどうなってそう思うのかしら。

 私の頭の中はパニックになっている。

 この人は昔からこんな事を考えていたのね。

 その時ふと思い出した。

 そう言えば…昔ルカに「棚澤さんと連絡をとりたいか?」って聞かれた事があったわね。

 あの時すぐに名前と顔が一致しなくて誰だった?ってルカに言ったら「もういいわ。分かった。」って呆れられた感じになったのよ。はっきり思い出したわ。

 あの時にきっと何かがあったのね。もっときちんとルカと話をしていれば良かったわ。後悔先に立たずって本当ね。

 ピンポーン!ピンポーン!!

「誰だ?邪魔をしてくれるな。」

 棚澤医師がベッドから離れて部屋を出ていく。片目をうっすらと開けて見ていると部屋の扉は油断しているのか開けたままになっている。

 チャンスかも…。

 私はゆっくりと身体を起こして足音をたてずに慎重に歩いた。

「はい。」

 棚澤医師はインターホンにでたみたいです。

 インターホンがある所から部屋の出入り口は見えないので私は痛む身体に気合いを入れて部屋から出た。広いリビングのどこに身を隠そうと隅まで見渡す。

 リビングにも物が少ない。

 隠れる所がないわ…。

 インターホンに出ている棚澤医師の声が途切れた。

 駄目!こっちに来るわ…。

 どうしよう…。

 


 


 
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