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17. 棚澤医師の思い 〈棚澤医師視点〉
しおりを挟む「いったいどこに消えたんだ?」
皆、イラついているな。
「棚澤くん、本当に知らないのか?!」
お偉いさんまで出てきている。そりゃそうか…。日本では有名な財閥の娘が病院から失踪したとなればこの病院の評判は落ちるからな。セレブからの信頼というものは失くなればこの病院が売りにしている特別室が使われなくなってしまうよね。
そろそろかな…。
「院長…これを受け取ってください。」
俺は院長の前に辞表を差し出した。院長は驚いた顔をしているな。
「な…、棚澤くん何もここまでしなくても大丈夫だ。君は我が病院のエースなんだから。」
自覚はしている。沢山の奥様方が指名してくれるからね。だけど俺にとってはどうでも良い…彼女以外に好かれても嬉しくないからね。
「いえ、今回の件は私の責任ですから…。私が目を離した隙に消えてしまって責任を感じています。ですからこの病院にはいられません。」
実際は俺が病院から連れ出したんだけどね。防犯カメラにも映らないルートを調べて車に乗せて…今は彼女との新居にいてもらっている。
「しかし…。」
院長は迷っているみたいだが、引き留められてもここに残る気持ちはないから無駄だよ。
「僕の我儘かもしれませんが…ここにいるとどうしても申し訳ない気持ちが生まれて仕事が手につきません。今まで良くしていただいたのに勝手を言って本当に申し訳ありません。」
俺は院長に頭を深々と下げて見せた。
本当は愛する人が家で待っていると思うと速く家に帰りたくて仕事が手につかないだけだけとね。誰にも邪魔されないうちにここから速く去りたいんだ。
特に…アイツには会いたくない。
考えただけでも気分が悪い。俺の大事な彼女に無理やり醜い跡をつけるようなアイツ…アイツの顔など見たくない。
「棚澤くん、本気なのか?考え直してくれないか。給料も上げるし、待遇も考える。どうだろうか?」
彼女と一緒にいるためにお金は必要だが今は充分あるから必要ない。せっかく彼女と一緒に過ごせる様になったのに、彼女との時間が減るなんて…何を言われても無駄だよ。
「申し訳ありませんが僕の気持ちは変わりません。本当に申し訳ありませんがこれで失礼します。」
俺は院長達の前から立ち去った。
荷物はもう纏めてある。いつでもすぐに彼女の元に帰れるように…。
あぁ…車椅子から抱き抱えた時の彼女の温もりがまだ手に残っているようだ。早く帰って彼女をこの腕で抱きしめたい。彼女もきっとそれを望んでいるはずだ。
俺が居なくなって無理やりアイツと結婚させられたんだろう。醜い独占欲の塊みたいなアイツなんかと無理やり結婚させられて、あげくにケガまでさせられて…可哀相に…。
これからは俺が誰にも触れさせず君を守ってあげるよ。今すぐに君の元に帰るからね…。
愛車に乗り込み彼女の元へと急ぐ。
愛しい愛しい…可愛い菫。
待っててね、もうすぐ帰るよ。
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