お嬢様は新婚につき誘惑はご遠慮します

縁 遊

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15. 知らなかった過去 〈賢人視点〉

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「え?菫が…いなくなった?」

 病院から電話があり出てみると予想もつかなかった事を言われてパニックになった。

「え?いつからですか。あの身体でどこに…。」

 問いただすように電話口の看護師に聞いた。

「本当に申し訳ありません。只今捜索中です。取り急ぎご連絡をと思いまして…。詳しいことは分かり次第連絡をさせていただきます。」

 電話口の看護師もただ平謝りをするだけで欲しい情報はくれない。

「…すぐにそちらに行きます!」

 いてもたってもいられなくなり、電話を切り急いで会社から病院に向かった。

 まだ完全に体力が戻っていないあの身体でどこに行ったというのか。病院に向かう車の中で考えてみた。

 菫ちゃんは皆に心配をかけるのを分かっていて1人で遠くに出ていく人ではない。そこから考えられるのは…最悪の事態だ。

 またストーカーに連れ去られたか、身元を知っている誰かに誘拐されたか…。

 菫ちゃんの実家は大きな会社をいくつも持っているし、嫁いだ先の僕の家も大きな財閥だから狙われても不思議はない。

 普通の誘拐犯なら連絡があってもおかしくないが今まで何も接触がないと言うことは…ストーカーの可能性が高いな。

 はぁ~、なぜこんなに次々にストーカーが現れるんだ?!

 確かに菫ちゃんは魅力的な女性だけど…いくらなんでも狙われすぎだ。

 独身時代にはここまで酷くなかったはずだが…。

 やはり本人が言っていたあの地味活動とかが良かったってことなのか?

 見た目が地味になっているだけでそんなにもちがうものなのか。僕には理解できないけどな。

 僕は地味な格好をしている菫ちゃんを好きになった。何事にも真面目に取り組み、回りの人達にも気配りを忘れない。目立たないけど縁の下の力持ちって言う感じがあって自然に目が追うようになっていたんだよな。

 まぁ、地味な格好をしていない菫ちゃんを初めて見た時は驚いたけどね。


 病院にいる間はスッピンで過ごしていたからきっと目立っていたのかも知れない…。

 だけど病室から出るのは検査の時ぐらいで長い時間外にいることはなかったはずだが…。

 そんな短い時間でストーカーされるような事にはならないよな?

 …となると以前からの知り合いの可能性がある。

 最近気になる人間…と言えば医師の棚澤くらいだな。

 あいつの菫ちゃんを見る目が人とは違うと言うか、医師として見ている感じがしないんだよな。それに僕を見る時の目も…。患者の家族に向ける目ではなく、敵意を感じるような気がしていたんだ。

 僕が菫ちゃんの回りの男を意識しすぎだって家族には笑われたけど、やっぱり納得がいかない。

 もしも…菫ちゃんがいなくなる直前にあいつがいたとしたら疑うべきだよな。

 病院の駐車場に到着した時に電話の着信音が聞こえてきた。

 病院からかと急いで取ると菫ちゃんの従兄弟のルカからだった。

「もしもし…?」

 結婚してから話すようになって連絡先を交換していたが、普段は電話なんてかけてこないのに。

「ちょっと!菫がいなくなったって本当なの?!」

 菫ちゃんの事を誰かから聞いたみたいで慌てた感じの早口で話している。

「誰から聞いたのか知らないけど…居なくなったのは本当だよ。」

 僕は落ち着いた声で対応した。

「本当…なのね。」

 菫ちゃんとは仲が良いから心配をしているのが声だけでもわかる。

「今、病院に到着した所だよ。」

「病院…。そうよ!あいつ!!アイツかも!!!」

 あいつ?

「あいつって誰の事?」

「棚澤医師よ!」

 なぜルカからこの名前が出てくるんだ?

「知っているのか?」

「知っているも何も…。昔、菫の事をしつこく聞かれて困った事があったのよ!私がその当時に勤めていた化粧品店に来て、知らないって言っても何度も何度も菫さんはどこにいったんだ?って聞きに来て困ったのよね。あの時からストーカーなのかしらって疑ってたのよね…。その男が担当医だって聞いて嫌な予感がしてたのよ…。」

 興奮しているルカは早口で捲し立てるように話している。いつもなら聞き流してしまうところだが今の話しは聞き捨てならない。

 昔にそんな事があったのか…。

「その事を菫ちゃんには言ったのか?」

「いいえ。だって気持ち悪いじゃない。菫が気にしてるなら教えたけどそんな感じもなかったから言わなかったわよ。」

 菫ちゃんは知らなかったのか…。知っていたら病院を変えていたな。

「教えてくれてありがとう。棚澤医師を探してみるよ。」

「そうしてちょうだい!私もすぐに行くわ!!」

 電話をきって深呼吸をする。

 僕の考えていた事がどうやら当たっていそうな気がする。

「菫ちゃん…すぐに見つけるからね。」

 僕は車を降りて空を見上げて呟いた。

 さあ、ここからだな…。




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