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14. 悪夢
しおりを挟む「今日は抜糸をしますね。上だけ脱いで背中を見せていただけますか?」
部屋に入ってきた看護師さんが手際よく準備をしている。
いくら病院とはいえ人前で脱ぐのは恥ずかしい…。下着も脱いで下さいと言われているし、上半身は何とか前だけ隠して良いですよと言われた。まあ、私が相当駄々をこねたのですが…。
全然知らないお医者様ならまだ良いのですが知っている人だけに恥ずかしい気持ちもありますし、男性に見られるというのに抵抗があるんです。残念ながらこの病院には今は女医さんがいらっしゃらないらしいので交代してもらうことも出来ず…。タイミング悪く産休を取られているらしい。
「はぁ~。」
「何?大きな溜め息だね。抜糸はすぐに終わるよ。」
明るい声で棚澤医師がやって来ました。
「はい…。」
棚澤医師は言葉通り、素早く抜糸を終わらせてくれました。
「あれ…首の所どうしたの?」
棚澤医師が指摘したのは先日賢人さんが着けた印でした。
いつもは首の開きがないパジャマを着ていたのですが今日は脱ぎ着しやすい首回りが大きく開いているパジャマを着ていたので印を見つけられてしまったみたいです。
「…え!…あの…虫に刺されたみたいで…。」
私は顔を赤くして下を向きながら答えました。バレていませんよね?
「…ふう~ん。」
棚澤医師の目付きが変わりました。先程までは優しくて爽やかな笑顔をしていたのに今は鋭い目付きというか…ジッと賢人さんの残した印を見ています。
「あ!葉山さん、消毒液たりないみたいだから持ってきてくれる?」
葉山さんというのは看護師さんの名前みたいです。看護師さんは慌てて部屋を出ていってしまったので部屋には棚澤医師と私だけになってしまいました。
「これ…消毒しておこうね。」
棚澤医師の指が私につけられた賢人さんの印に触れています。背筋がゾワゾワとしてきます。なんでしょう…これわ。
「…そんな大層な傷ではないです。ほっておけばすぐに消えます。」
私は無理やり笑顔を作って見せた。何故か棚澤医師に今の感情を知られてはいけないと思ったからだ。自分でもなぜそう思ったのかは分からないけど今はそうするのが一番良い様な気がする。
「消える…ね。駄目だよ消毒は必要だ。傷は化膿すると大変なことになるよ。これは特に消毒しておこうね。」
棚澤医師は笑顔を浮かべているが目が笑っていないのが分かる。いったいどうしたのだろう。
「…僕はね後悔しているんだよ。」
急に棚澤医師が私の手の上に自分の手を重ねてきた。
「…後悔しているですか?」
私は重ねられた手から逃れようとゆっくりと自分の手を引き抜こうとしたが棚澤医師の手に捕まれてしまった。
「なぜこの手を離してしまったのか…。なぜ君に連絡先を聞いていなかったのか…。なぜ君と会えなくなった時に見つかるまで探さなかったのか…とかね。」
え?いったい何を言っているの…。
その時看護師さんが部屋に消毒薬を持って帰ってきた。
棚澤医師は掴んでいた私の手を離し、また目が笑っていない作り笑顔を浮かべる。
「はい!消毒しておこうね。」
私はどう対応して良いかわからず黙って頷いた。
賢人さんのつけてくれた印を念入りに消毒される。
消毒の独特な臭いが鼻をつく。傷があるわけでもないのに…。
「あ、少し話をしていくから葉山さんは先に戻って良いよ。」
「分かりました。」
葉山さんはチラッと私の方を見て部屋を出ていってしまいました。私が棚澤医師と知り合いだというのは看護師さん達は知っているからなんでしょうか。2人にしないでほしいのですが…。引き留める理由も思い付きません。
「本当なら僕が君の横にいるはずだったんだ…。だけどあの頃の僕は君が僕の側から居なくなるなんて考えたこともなかったからね。…本当にバカだったよ。」
棚澤医師は私を見つめながらずっと話しています。何だかデジャブを感じます。この視線は私が幼い頃から何度も経験してきたものと同じです。
私を誘拐していた男性達と同じ…。
あの頃も男性に何を言われているのか理解できずにこの男の人は誰だろう?なんて思って見ている間に抱き抱えられて知らない所に連れて行かれたりしていましたが…。
もしかして…これはそのパターンなのでしょうか。
でも…ここは病院だから大丈夫ですよね。
「あれ…?」
急にすごい眠気が襲ってきました。どうして急に…?
「抵抗しなくて良いよ。僕が助けてあげるからね。」
それは…どういう…こ…と…。
私は睡魔に勝てませんでした。
「安心して眠るといいよ…。」
意識を手放す前に聞こえたのは棚澤医師の囁くような声でした。
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