お嬢様は新婚につき誘惑はご遠慮します

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10. 偶然の再会

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 眩しい…。

 重たい目蓋がやっと上がった。

 賢人さんの涙を感じて早く目を覚まして確認しないといけないと思い神様に目を覚まさせてほしいとお願いしましたが…時間がかかってしまいました。

 私は、いったいどれくらいの時間を眠っていたのでしょうか。

「…ここ…は?」

 目を開けると見慣れた寝室の風景ではなかったので驚いてしまいました。真っ白な壁に無機質な感じのする部屋…。病院かしら…。

 私の側にいたはずの賢人さんの姿も見えない。あれは夢だったのかしら。

 身体を動かそうとしたが、自分の身体が鉛のように重たく感じて動かせない。それに動かそうとすると痛みがあることに気がつきました。

 背中にズキズキとした痛みがあります。

 私はあの時…賢人さんが切られると思ってストーカーに背中を向けた。あの時に切られたのね。私の記憶はそこから途切れている。

 あの後、この病院に運ばれたのかしら?

 賢人さん…いないのね。

 寂しさを感じながらまた目を閉じた。

 不意に私の頬にあたたかい温度を感じて目を開けた。

「え…菫ちゃん…。」

 そこには驚いた顔をした賢人さんの姿があった。賢人さんは飲み物を買いに部屋を出ていたのか、片手に飲み物を持っていましたが、私と目が合った瞬間に落としてしまいました。

「…けん…と…さん。」

 私は賢人さんに笑顔を見せたくて動きにくい顔の筋肉を必死に動かした。

「菫ちゃん!」

 賢人さんがベッドで寝ている私に覆い被さるように抱きついてきました。

「良かった…。目を開けてくれて…本当に良かった。」

 気のせいか賢人さんが泣いている様な気がします。抱きつかれて顔が見えないのでわかりませんが…。

 抱きついていた賢人さんが私から身体を離します。体温が無くなるのがこんなに寂しいと思うなんて、私は今まで知りませんでした。

 賢人さんはまた私の顔を優しく触ります。

「本当に…本当に…目覚めてくれてありがとう。」

 賢人さんがこんなに泣いている姿を初めて見たかもしれません。いつも優しい笑顔を見せてくれて…夜は意地悪な顔もしますが、基本的に私に辛そうな顔は見せない様にしているみたいだったのに…。

「ごめん…なさい。しん…ぱいかけ…ました。」

「いや、菫ちゃんが謝る必要はないよ。僕のほうが謝らないといけないんだから…。」

 賢人さんが謝る?なぜ?

「ちがう…。」

 賢人さんは悪くない。私の考えが甘かったからこんな事になったんだもの。巻き込まれたのは賢人さんですわ。

「わるいの…わたし…。」

 頑張って手を伸ばそうとした時部屋の扉を誰かがノックした。

「…はい。」

 賢人さんが涙を拭いて表情を引き締めた。

「失礼します。検温の時間です。」

 入って来たのは看護師さんだった。

「あら?奥様が目を覚まされたのですね。今、医師を呼びますね。」

 看護師さんは携帯電話の様なもので誰かに連絡をとっている。すぐに電話をきると賢人さんとは反対側の私の横にに回り込み体温などを計り始めた。

「ご気分は悪くないですか?」

 笑顔で私の目をしっかり見ながら話してくる。

「…はい。」

 体温が計測されたことされた頃にお医者様が部屋にやって来ました。

 …私は医者の顔を見て驚きました。少しタレ目の丸い瞳に口元のホクロ…見覚えがある顔だったのです。

「…あ…。」

「お久しぶりですね菫さん。まさかこんな形でまたお会いすることになるとは思いませんでしたよ。」

 やはり、お医者様は私の知っている人でした。

「え…先生は妻と顔見知りなのですか?」

 賢人さんが驚いています。他の人には私と顔見知りだと言ってないのですね。

「はい。ですが友人とかではないですよ。少しお話をしたことがあるくらいの知り合いです。」

 お医者様は優しい笑顔を浮かべ、私のカルテを見ながら話しています。

 カルテを閉じると看護師さんに何か指示を出しています。看護師さんは部屋を出ていきます。

「申し訳ありませんがご家族の方は少しお部屋の外でお待ちいただけますか?」

 お医者様は私の手首を触りながら賢人さんに部屋から出ていくように話しています。まだ賢人さんと話の途中だったのですが…。

「ここに居ては駄目ですか?」

 賢人さんもすんなり出ていく気持ちは無いみたいです。

「少しの間ですので外でお待ちください。」

 お医者様は許可しません。賢人さんは残念そうにしながらも部屋を出て行きました。部屋には、お医者様と私の2人だけになってしまいました。

「結婚したんですね…。」

 お医者様…いえ、棚澤 瑛斗(たなさわ えいと)さんは独身時代に知り合った人です。

 知り合った…というか助けてもらった恩人と言うべきなのかもしれません。

 それは海外の学校を卒業して日本に帰国したばかりの頃でした。久しぶりの日本だったのでいろんな所に出掛けていたのです。その時に男性に絡まれて困っていた所を助けてくれたのが棚澤さんでした。

 それから不思議なことに偶然会うことが多くなってお話をする事が多くなっていたのですが、棚澤しんの実習が始まるとの事で忙しくなるから暫くは会うことはないだろうと言われて、私も仕事することになり1人暮らしを始めたのでそれっきりになっていたのです。

 まさかこんな形でお会いすることになるなんて…。変な胸騒ぎがするのはなぜでしょうか。
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