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7. 賢人さん…ごめんなさい

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 あの正体不明の人が自宅に来てから数週間が経ちました。あれからあの人は姿を見せていません。少しホッとしています。

 だけど賢人さんの過保護ぶりが前にも増して酷くなっています。私の事を思って心配してくれているのはありがたいのですが、買い物にも自由に行けなくなってしまいました。

 外に出るには賢人さんと一緒でないとダメらしいです。家を出ると賢人さんは私と手を繋ぎ離してくれません。ご近所の皆様には仲の良い夫婦だと思われているみたいですけどね。

 賢人さん曰く「犯人に見せつけてやる」だそうです。賢人さんの中では犯人はストーカーだと確信しているらしいですわ。そのストーカーを悔しがらせてあげようねって言ってました。

 賢人さんって独占欲が強かったのですね。

 独身の頃は気がつきませんでした。

「あら?お醤油がもうないわ…。」

 すぐ近くに小さなスーパーがあるので買いに行こうかしら。1つ買うだけなら時間はかからないし大丈夫よね。

 念のため賢人さんにメールはしました。していないと後で何を言われるかわかりません。

 私は薄化粧をして外出する準備をして近くのスーパーに向かった。

 何事もなくスーパーで醤油を買い家に帰ろうと歩いていたら後ろから声をかけられた。

 人通りの少ない抜け道だから少し驚いてしまいました。

「すいません、この紙に書かれている場所を知っていますか?」

 振り返ると男性が笑顔で白い紙を持って立っていた。

 お店でも探しているのかしら?こんな抜け道に迷い来んでしまうと分からなくなりますよね。私は何も考えずに男性が持っている紙を見た。

「え…。」

 その紙に書かれていたのは私の自宅マンションの住所だった。

「…僕はずっと貴女の事を見ていました。それは結婚してしまう前からです。貴女は間違えただけですよね。本当は僕と出会って僕と結婚するはずだったのに、あの男に強引に迫られて仕方なく結婚したんだよね。かわいそうに…家に閉じ込められて。僕が貴女を救ってあげます。」

 男は私の手を急に掴んだ。

「…!!!」

 私の声にならない悲鳴があがる。

 気持ちも悪い、怖い、気分も悪いし、久しぶりに蕁麻疹が出ている。

 吐きそうになり頭も回らない。口元に手を当てて我慢する。手を振り払いたいが力が出ません…。

 どうしよう…どうしよう…。

「感激しているんだね。大丈夫だよ、すぐにあんしんできる所に連れて行ってあげるからね。」

 男は強引に手を引っ張り始めた。

 必死に抵抗しているつもりですが男性の力にはかないません。

「…やめて…ください。」

 吐きそうになりながら何とか言葉をはいた。

「遠慮しなくて良いよ。菫…。」

 ゾワゾワと背筋に悪寒が走った。賢人さん以外の男性から名前を呼ばれる事がこんなにも気持ちが悪いなんて知らなかったわ。気を失いそう…。

「さあ、すぐそこに車を停めているからもう少し頑張って。」

 この男は私の何を見ているのだろうか?どう見ても今の私は拒否しているようにしか見えないと思うのですが…。喜んでいるように見えているのかしら?

 今更ながら1人で買い物に出掛けた事を後悔しています。

 賢人さんの言うことを聞いておくべきでしたわ。ごめんなさい…賢人さん。

 目の前に黒いワゴン車が見えた。もしかしてあれがこの人の車かしら…。あれに乗せられたら私は…。

 男は車のキーを出し扉を開けた。

 もう…ダメだわ。賢人さん…ごめんなさい。

「何してるんだ!!!」

 聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。

 振り返るとそこにいたのは賢人さんだった。

「チッ!」

 男が舌打ちをしたのが聞こえた。同時に私を引っ張る力が強くなる。

「痛い…。」

 思わず声がでた。

「菫ちゃんの手を離せ!」

 走ってきた賢人さんが私の手を掴んでいる男の手を離そうと掴んでいる。

「お前が俺達の邪魔をしているんだ!菫は小さい頃から俺が見守っていたのに…。お前が…お前が菫をさらったんだ!お前こそが邪魔なんだ!」

 男は大声で叫んだ後、ポケットから小さなナイフを取り出した。

「危ない、賢人さん!!!」

 男は賢人さんをめがけてナイフを振り下ろそうとしている。

 嫌!私のせいで賢人さんが…。

 私は無意識のうちに賢人さんを抱き締めるようにして男に背を向けた。

 その瞬間…私は意識を手離した。

 最後に賢人さんの声を聞きながら…。

「菫!すみれ!!!」

 賢人さん…ごめんなさい。

 
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