つきが世界を照らすまで

――頃は明治 絵描きの話をしよう――

明治二十二年、ひとりの少年が東京美術学校に入学するために上京する。

岡倉天心の「光や空気を描く方法はないか」という問いに答えるために考え描かれていく彼の作品は出品するごとに議論を巻き起こす。
伝統的な絵画の手法から一歩飛び出したような絵画技術は、革新的であるゆえに常に酷評に晒された。

それでも一歩先の表現を追い求め、芸術を突き詰める彼の姿勢は終生変わることがない。
その短い人生ゆえに、成熟することがない「不熟の天才」と呼ばれた彼の歩んだ道は決して楽ではなかっただろう。

その人は名を菱田春草(ひしだしゅんそう)という。


表紙絵はあニキ様に描いていただいたものです。
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