敗北した悪役令嬢ですが、しあわせをつかめるのでしょうか。

藍音

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第二十一話 安堵 ※※※

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仰向けになり、足を広げた自分はまるでカエルのようだ。なぜこんなみっともない格好をさせられるの?
なにがなんだかわからない。
恥ずかしくて、両手で顔を覆った。ケイレブは、そんなルシアナを見ながらくすくす笑っている。

「少しでも痛くないように。それに、お前を傷つけてしまわないようにしているだけだから、耐えてくれ。な?」

ケイレブはルシアナの両手の上から口づけ、首筋や胸にもキスの雨を降らし、同時にゆっくりとルシアナのなかを広げていった。最初は指一本すら入らなかったルシアナのなかも、時間をかけると少しずつケイレブを受け入れるように緩んでいった。

しかも、恥ずかしくてたまらないのに、なぜか、ルシアナの身体は快感を拾い始め、自分でも信じられないような喘ぎ声が上がった。

「いや、いやよ・・・恥ずかしい」

頭の天辺まで血がのぼる。全身が真っ赤になってるに違いない。
ルシアナの恥ずかしそうな反応は、ケイレブを有頂天にさせた。いやいやと首を振りながらも、体を預けきりすっかり力は抜けている。本気で嫌がっているわけではなさそうだ。

「そろそろ、よさそうだな」

ケイレブがそう言って体を離すと、急に寒くなった。
「いやよ」
ルシアナはあわててケイレブの腕を握りしめた。

「お嬢様はいやいやばかりだな。意味は違うみたいだけど。な?」

ケイレブのささやきと同時に、ルシアナの中心部に熱いなにかが押し当てられ、急激に体が押し広げられた。

「あ、あああ・・・」

ゆっくりと慣らされたなかが、めりめりと音を立てるような感覚。
かすれた悲鳴とともに涙がこぼれた。

「ごめんな。もうちょっと、耐えてくれ」

ケイレブの体が上に重なり、背中にしがみつくと、しっとりと汗ばんでいた。

「はっ、はっ、はあああ」

赤ちゃんを産めるのだから?
あああ、想像もできない。
激しい痛みにかすれた悲鳴を上げることしかできない。
だが、そのときに分かった。

(ああ、よかった。あいつらに・・・汚されてなかった)

経験がないのでわからなかった。誰にも相談できず、ずっと苦しんでいた。
でも、今ケイレブに与えられている痛みは、間違いなく、処女を喪失している痛みだ。
痛いのにうれしいなんて、おかしい。ぼろぼろと涙がこぼれ、痛みなのか、安心したせいなのか、自分でもわからない。
泣きじゃくるルシアナをケイレブがのぞき込んだ。ヘイゼルの瞳は欲望で濃く色づいていた。

「ルシアナ、大丈夫か?もうやめるか?」

彼は、そっと汗と涙にまみれたルシアナの頬をなでた。
心配そうな口調とひきつった頬。
ああ、やさしい。
やめてといえば、すぐに体を引いてくれるだろう。でも。

「私・・・あなたの妻になれたのかしら?」

小さな声だったが、ケイレブにはしっかり聞き取れた。

「もうすこしだけ、がまんしてくれ。すまない」

ルシアナの足を抱え、最奥まで腰をすすめると、処女のあかしが破れた感触があった。

「ああ・・・!!」

そのまま、ケイレブが動き出すと不思議な感覚を味わった。
体の奥底から突き動かされるかのような深い快感と、ふたりがひとつになったような喜び。
こんな感覚があるなんて知らなかった。体のどこにこんなスイッチがあったのかわからない。
でも、原始的な、神様の贈り物。

「ケ・・・イレブ」

ゆっくりと律動を繰り返すケイレブの筋肉質な背中にしがみつくと、「ルシアナ」と名を呼び、身を震わせ崩れ落ちた。
(もしかして、今の行為が子種をまく、という行為だったのかしら?)
そうは思ったが、口に出して聞くよりは、互いの体の感触をもっと味わっていたかった。
(私の、旦那様)
ケイレブの背中はびっしょりと汗で濡れている。背中をリネンで拭いてあげたい。
ふと浮かんだ思いに、自分でも驚いた。

ケイレブが唸り声をあげ、ルシアナの中から自分をずるりと引き抜き、べっとりとした血がシーツにこぼれ落ちた。

「処女の証だ。よく頑張ったな、奥様」

ルシアナは涙をためた大きな瞳でケイレブを見つめ、くしゃりと顔をゆがめた。

「わたし・・・あいつらに汚されてなかった。汚されてなかったの・・・」
「そうだ。そう言っただろ?信じてなかったのか?」

ルシアナは首をふるふると横に振った。

「そうじゃない。そうじゃないけど・・・でも・・・良かったぁ・・・」

どうしようもないほど、涙が止まらない。
誰だかわからない男たちに汚されてしまったと思い続け、令嬢としての未来を絶たれたと思っていた。
泣きじゃくるルシアナをケイレブは包むように抱きしめ、背中をなでつづけた。

”妹は、王太子と毎日のように会っていたから・・・まあ、あんただってわかるだろ?あの顔にあの体だ。手を出さなかったら男じゃないよ。あんただって、妹と・・・だろ?やり捨てたって文句は言われないのに、まさか、結婚までしてくれるとはなあ?”

ケイレブは、ゆうべのオーブリーのいやらしい笑いを思い出した。
ルシアナが退出したあと、親族として祝いを述べたいと近づいてきた。
何杯もワインを注がれ、義理の兄だと思えばむげに断ることもできなかった。

”しかし、王太子はうまくやったよな?散々、妹に手を出しておいて、結局は聖女様をモノにしたんだから・・・妹もはらめば王太子妃になれたのにな”

ケイレブを殴り殺さなかったのは、単にルシアナの親族だったからだ。
だが、なぜ実の妹をおとしめるようなことを・・・妹を案じている兄の言葉としてはありえない。
あいつの言葉は毒だ。
席をけるようにして退出したところ、ルシアナが親族の男と廊下で密会していた。しかも、自分を売り渡したような言葉に腹が立った。

「嘘ばかりだ」

思わず心の声が漏れると、ルシアナが首をかしげた。

「うそ・・・?」
「お前のことじゃない。少し落ち着いたら体を拭いてやろうか?それとも、湯を使うか?」
「ふふふ、こんな夜中になにを仰ってるんですか」
「お前のためなら、湯ぐらい用意させるさ」
「ありがとうございます。でも、まだみんな寝てるから・・・こうしてあなたにくっついているだけで、なんだか幸せな気分・・・」
「ルシアナ」ケイレブはルシアナの頬にそっとキスを落とした。
「今、湯をもらってくる。このまま寝ていろ」
ルシアナは青紫の瞳でケイレブをじっとみて、うれしそうに小さく笑った。
「私、処女で良かった。本当に、良かった」
「そうだな」ケイレブはルシアナの髪をなでた。どれほど、今まで悩んできたんだろう。恐ろしいほどの苦悩があったにちがいない。貴族の令嬢が純潔を失ったら、まともな結婚はできなくなる。冷静に考えれば、王太子となにかあったわけがあるはずもないのに。思慮を欠いていた自分をなぐりつけてやりたい。
だが、ルシアナは王太子の「お手つき」だと、まことしやかにささやかれていたことも事実だった。

・・・なぜ、ルシアナの兄は妹をおとしめるようなことを?
ルシアナは自分で思っているほど価値がないわけではない。
本人が知らないだけで、その美しさと知性を欲しがる男はいくらでもいた。
だが、婚姻の夜、実の兄に王太子との情事を打ち明けられ、冷静さを失う男は自分だけではないはずだ。その場で婚姻を解消してもおかしくない。

妙だ。

従者に湯を持ってくるように言いつけ、ベッドに戻るとルシアナはぐっすりと眠っていた。

(美しい、俺の妻)

ケイレブはルシアナの髪をなで、そっとくちづけた。
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