学校の七不思議って、全部知ったらどうなるの?

藍音

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15 体育倉庫の奥にいたのは

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扉を開けたのは、カノンだった。

「あっつーい」そう言いながら体育館の外に出ようとしたカノンの背中から、クラスメートの声が飛んできた。
「その扉開けたらダメなんだよ」
「あーっ!」体育館の中から聞こえてきた声と同時に、ボールがふたつコロコロと転がりでてきた。
「こらー、開けたひと!ボール取ってきて!」

「はーい」カノンが軽く肩をすくめると、ボールをひとつひろって体育館に戻っていった。
もうひとつのボールはコロコロと勢いをまして、体育倉庫に吸いこまれていった。

(行っちゃだめ)

どこかで声がする。それなのに、私の足は止まってくれない。
ひきよせられるように体育倉庫のまえに立つと、私の手は木製のとびらにふれ、ぎいいっとさびた蝶つがいが不吉な音をたてた。
扉の奥は真っ暗。あちこちに目を泳がせてみても、ボールはどこにも見えない。
こんなところ、入っちゃだめ。
わかっているのに、どうしてもひきよせられる。
でも、こわい。

だれかがぐいっと背中を押した。「あっ」と思ったけど、転ばないように足をふみだすと、そこはもう体育倉庫の中だった。
あいかわらずほこりくさい。
目の高さにある明かり取りの窓のからは薄ぼんやりと光が入り、窓枠には死んだハエが足を上にしたまま、ほこりをかぶっていた。
うちすてられた体育用具や厚いほこりはこの間と同じ。でも、なにか違うような気もする。
胸のおくがぶるぶるとふるえた。
薄暗い体育倉庫のなか、おびえながらなにかに誘われるように奥まで進むと、この間は見落としたのか、外に出られるようなとびらがあった。

指先でそっととびらを押すと、音もなくとびらが開いた。
とびらの向こうから明かりはもれていない。
さっきまで昼間のように薄ぼんやりとした明かりが入っていたはずなのに。

とびらから出ると、そこは夜の学校だった。
月の明かりのなか、校庭を照らす照明が、大昔の恐竜みたいにそびえたっている。
だれもいないその空間は、なぜか昼間よりももっとはてしないほど広くおもえる。
夜の学校って、なんでこんなにさびしそうで、そして不気味なんだろう。

私はひかりにすいよせられる蛾のように、ぼんやりと明かりに近づいていった。

「しくしくしくしく・・・」

誰かの泣き声が聞こえる。どうして?だってだれもいないのに・・・

「しくしくしくしく・・・なぜ・・・なにゆえ・・・」

どこから声が聞こえてくるの?
かぼそい声は、校舎の近くから聞こえてくるみたい。だれもいないのに?

「しくしくしくしく・・・めくれない・・・」

めくれない?なにが?
声に近寄っていくけど、誰もいない。
なんで?誰が泣いてるの?どうしたの?声をかけたいけど、どこにも人がいない。
ぽつん。頭の上から水滴が落ちてきた。
ぽつん・・・ぽつん・・・
え?雨?
そう思って見上げると、頭の上にいたのは・・・いえ、あったのは・・・銅像だった。

(銅像から、水滴?)

この銅像は、どこの学校にでもいる、薪を背負って本を呼んでいる少年。たしか・・・きんじろう?
そう、二宮金次郎って、昔のえらい人だって聞いてるけど。
・・・そういえば、学校の七不思議だった?なんだっけ・・・そうだ。走り回るって。夜中に校庭を走り回るっていってたんだ。
なあんだあ。やっぱり嘘か。私はちょうど目の高さにある金次郎さんの足元をみてほっとした。
金次郎さんの足元は、台座にぴったりと埋め込まれている。これじゃ、走りようがないじゃない。

「なぜだあ・・・」

上から声が聞こえてきた。
気のせいじゃなかったみたい。
まさか、本当に金次郎?
こわごわと銅像を見上げると、銅像の金次郎さんは、必死で本のページをめくろうとしていた。

「なぜだ・・・なぜめくれないのだ・・・・うぬぬ」
「しくしくしく・・・つづき・・・つづきが読めない・・・」

さっきまでめちゃめちゃこわくてびびってたのに、目の前の金次郎さんの必死さにおかしさがこみ上げてきた。
だって、銅像なのに、本がめくれるわけないじゃんって!

「金次郎さん、無理ですよ。銅像だもん」

思わず話しかけてしまうと、ギロリ!金次郎が私をにらみつけた。

「お前・・・今なんと言った?」

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