学校の七不思議って、全部知ったらどうなるの?

藍音

文字の大きさ
上 下
9 / 25

9 自転車置き場

しおりを挟む
終礼のチャイムがなり、やっと帰れる。
今日はいろいろなことがありすぎて、疲れた。

私は日直の声に合わせて礼をして、ほっと息をついた。

「ミナ、じゃあね」

別の友達と連れだったユカに声をかけられた。
ユカは今日から吹奏楽部に仮入部だって言ってたっけ。

私は、本当はテニス部に入りたかったんだけど、数年前に廃部になったそうだ。
少子化の影響で生徒数が減って、あちこちで部活が成り立たなくなっている。
友達の中には、この学校にはない部活がやりたいから違う学校に行くって子もいたけど、そこまでじゃないし。
わざわざ2倍も時間をかけて別の学校に行くほどやりたいわけじゃない。

のろのろと机の中を見回して、忘れ物がないかチェックしてからカバンを掴んだ。
一人は寂しいけど、これから毎日こうなるのかな。
ユカと一緒に吹奏楽部、は違う気もするし。

帰るために階段に向かうと、男の先生が踏み台に乗って時計の電池を交換しようとしていた。
この先生は、以前学年主任をやっていた時に、モンスターペアレンツにいじめられて精神を病んだって言われている。
3年ほど休んで復職した中年の先生は、授業も持たず、たまに数学の補助で入ったり、雑用をこなしたりしていた。
ということは、数学の先生なのかな?いや、確か、理科の実験でも補助に入っていたから、どっちなのかはわからない。もしかしたら両方ってこともあるのかな?

私が「さようなら」と挨拶すると、先生は顔をあげた。
「はい、さようなら」そう返事をしてくれた先生は、髪は乱れて油っぽくて根元から毛がまとまってるし、目はうつろだし、ジャージも薄汚れていた。何よりも近くを通ると垢じみたおじさんの匂いがした。
うわ、キモい。そう思ったけど、そういうことは言っちゃいけませんって大人は言う。
きちんと身だしなみを整えるのも、マナーじゃないのと言い返したくなるけど、私は黙って頭を下げて通り過ぎた。
ただ、通り過ぎる時に、先生がにたりと笑顔を作って歯の欠けた口の中が見えた。

(歯は、きちんと磨こう)

そう思いながら階段を駆け下りると、大きな鏡があった。
階段にあるこの大きな鏡ってなんのためにあるんだろう。
不気味だ。
下の方に、「◯◯工務店謹呈」って書いてある。
どこだか知らないけど、そのはげかけた金色の社名が妙に不思議な気がした。

しゅしゅしゅしゅしゅ

小さな音が聞こえたような気がする。

振り返ると、ピタリと何かが止まった。え、何?気のせい?

また前を向くと、「しゅしゅしゅしゅ」とかすかな音が聞こえる。
もう一回振り返ると、その違和感の正体に気が付いた。

あの、天井にあった、手のひらみたいな汚れの跡。位置が下がってない?
まさかだよね。
だけど。
だけどやっぱり、天井にあった手のひらみたいな跡が窓枠の上に移動してない?
ゾッとした。
やっぱり、この学校、どこかおかしい。

私はぎゅっと目をつぶった。
だめだ、怖い。押し潰されそう。

勇気を出して目を開き、全速力で駆け出した。
このままいたら頭がおかしくなりそう。

猛ダッシュで駆け抜けると、「しゅしゅしゅ音」は気にならなくなった。
とにかく、早く帰るしかない。

自転車置き場に駆け込み、半ヘルを急いで被った。
半ヘルが懐かしくなる日が来るとは思いもよらなかった。

キー

相変わらず、私の自転車は、異音を立てている。
でも、もうどうでもいい。
とにかく、怖くて怖くてたまらない。理屈なんてない。
形のない、黒いものに追いかけられているような気がする。その黒いものに追いつかれたら、きっと、取り込まれてしまうに違いない。

ハンドルを強引に引き寄せ、無理やり自転車を引っ張り出そうとすると、ガシャン。
隣の自転車が倒れる無慈悲な音が聞こえた。

ガシャン、ガシャン、ガシャン・・・

自転車はまるでドミノのように次から次に倒れ、そして、橋の自転車まで残さずに倒れると、急に耳が痛いほど静かになった。

(ああ、もう!)

倒した自転車は直さないと、何言われるかわからない。
諦めて、自分の自転車を置き場の外にそろそろと引きずり出し、戻って自転車を立て直すことにした。

ひとつ、ひとつ、今度は倒さないように慎重に起こしていく。
下校時間なのに、自転車置き場は静まり返り、誰も手伝ってくれる人はいなかった。

(まあ、自分がやったから仕方ないけどさ)

私は不運を嘆きながら、一つ一つ自転車を起こしていく。
自転車の金属音がコンクリートの壁に反響して冷たく響いた。
10台以上も自転車を立て直し、一番端まで来ると、コンクリートと地面の境目はなぜかほかの部分よりも暗いように見える。
いつのものかわからない破れた蜘蛛の巣が風になびき、埃と土の匂いがした。

早く帰ろう。
私は、手をはたいて埃を叩き落としながら、自分の自転車にまたがった。
相変わらず私の自転車は理由もなく、「キー」と音を立てた。
でも、もうどうでもいい。とにかく頭にあったのは早く帰ることだけだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ナガヤマをさがせ~生徒会のいちばん長い日~

彩条あきら
ミステリー
中学生徒会を主役に、行方不明の生徒会長を探し回るミステリー短編小説。 完全無欠の生徒会長ナガヤマ・ユウイチがある日、行方不明になった!彼が保管する文化祭実行のための重要書類を求め、スバルたち彩玉学園中学生徒会メンバーは学校中を探し始める。メンバーたちに焦りが募る中、完璧と思われていた生徒会長ナガヤマの、知られざる側面が明らかになっていく…。 ※別サイトの企画に出していた作品を転載したものです※

処理中です...