学校の七不思議って、全部知ったらどうなるの?

藍音

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19 こわれた先生

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驚くほど流麗に奏でられる旋律に吸い寄せられるようにして音楽室に入った。

「失礼します」

声をかけても、見えるところに人はいない。譜面台のかげになり、演奏者の姿はちょうど見えないし、聞いているひともいないみたい。

ただ、音楽室の中、グランドピアノだけが、ありえないほどの美しい音楽を奏でている。

「あのぉ?」

この曲聞いたことある。
誰だったっけ?
ラ・・・ラ・・・なんとかさん。長くて忘れた。でも、CDで聞くのと生で聞くのは全然違う。
今なら作曲者の名前も一発で覚えられそうだ。

誰が弾いているのかと、グランドピアノの演奏者をのぞき込み、ゾッとした。
誰もいない。
そんなわけない、と演奏者側に近づくと、室内に目が慣れ、黒い人影が暗闇と同化していたせいで見えなかったことがわかった。

俯いて一心不乱にピアノを弾いているのは、男の人。
顔は見えないけど、どこかでみた覚えがある。
近くによると、嗅いだことのある、汗と垢の混じったようなにおいがした。
よく見ると、髪の毛が固まっているし、ヨレヨレのワイシャツには見覚えがある。

目の前でプロのピアニスト並みに上手にピアノを弾いているのは、モンスターペアレンツにいじめられて精神を病んだ、元学年主任の先生だった。

「先生・・・?」

まさか、という思いから思わず呟いてしまうと、演奏がピタリととまった。
先生は無言のまま顔を上げ、私を見て、そしてにたりと笑った。
前歯が一本欠けて三角にとがっているように見える。
先生の笑顔は・・・申し訳ないけど、気味が悪かった。

「どうした、山田?」

先生の言葉が滑るように室内に響いた。

「先生、あの・・・」

突然、私は言葉を失った。
だって、なんて言ったらいいの?

ここはどこですか?
私はなんでここにいるんですか?
先生は何をしているんですか?

どの言葉もまるでわたあめのように口にした瞬間に消えてなくなってしまいそうに頼りない。

「えっと、その・・・」

先生はくつくつと笑い出した。

「自分が何をしているのか知りたいのか?」

私は先生が何を言い出したのかと先生の顔をじっと見た。

「目が飛び出しそうなぐらい大きくなってるぞ?そんなに意外か?私はずっと生徒たちの様子を見ていたぞ」

先生のしわがれた声が空気を震わせた。

「とくに、お前のような生徒のことはな」

私みたいってどういう意味?
私が反抗するようにぐいっとあごを上げると、先生はまたのどの奥で笑った。
その笑いには、どこかバカにするようなひびきが含まれていた。

「不満ばかり。反抗ばかり。子供のくせにエラそうにしやがって。私のことを見下していただろう?」
「そ、そんな・・・」

そうでないとも言い切れない。
確かに、こころのどこかでは、心を病んだって先生のこと、バカにしていたのかもしれない。本当に少しだけど。でもほんとうはそれよりも、先生の不潔さとか、おどおどとした態度とか目つきが嫌いだったんだ。

「まあ、お前のようなクズでも、役には立つんだろう」

まるで独り言のようにいうと、先生は私に興味を失ったらしい。

「どういうことですか、先生?教えてください!」

そう言っても、先生は私の存在を忘れたかのように、またピアノに向かい、違う曲を弾き始めた。
先生の見た目と演奏のギャップがすごい。

でも、ここは感心している場合じゃない。
先生のさっきの言葉はどういう意味?
私のようなやつでも役にたつ?
何の役にたつ、いえ何かの立たせようとしてここにいるの?
一体、誰が?

「先生!」

叫ぶように呼びかけても、先生は無視して演奏を続けている。
もう一度声をかけようとして息を飲むと、「うるさいぞ」と抗議するような声がした。

その声は、音楽室の高いところから聞こえてきた。
だれか、いるの?でもなんとなく気味がわるい。
そうおもって こわごわと見上げると、そこにいたのは・・・

「べ、ベートーベン?」

ギロリと私を見下ろしてるのは、かの偉大なる作曲家、ベートーベンだった。
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