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14 鏡の向こう側
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「ミナ!」手にプリントを持ったユカが一瞬鏡の前で立ち止まり、まわりを見まわすと、そのまま昇降口に向かって階段をかけおりた。
「ユカ!」私は慌てて戻ろうとしたけれど、鏡の向こうはまるでガラス張りの世界のようで、私の声は聞こえないみたい。ガラスをいくらたたいても、生徒たちは全然気づかずに目の前を通りすぎていく。
ここは真っ暗。
前も後ろもわからない場所だけど、目の前に大型スクリーンに映し出されたように、生徒たちの帰っていくすがたが見える。そして、そこは明るい。
どんどん!「たすけて!」
誰も反応してくれない。
「たすけて、たすけてよ!ここに、いるの!」
いくらたたいても、叫んでも、誰にも聞こえないみたい。
「今日配信だよね」
「好きなドラマの日なんだ」
「今日新曲リリースだから、はやく帰って聞かないと」
「ゲームがさあ・・・」
「宿題うざい」
当たり前の日常が、どんどん通りすぎていく。私だけを、おいて。
「まって、まってよぉ。おいていかないでよぉ」
半泣きでガラスをたいても、鏡はビクともしない。「私だって、かえりたいよぉ」
涙と鼻水が一緒に出てきてなさけないけど、それをみて笑う人すらいない。
だって、私、全然見えないみたいだから。
ガラスに手をついて泣いていると、横にカズコちゃんがいた。
薄暗い鏡の中の世界では、カズコちゃんがいても違和感がなかった。
カズコちゃんは相変わらず、頭が崩れてるし、スパゲッティみたいなものが見えているし、正直言ってグロい。
でも、鏡の中に入っちゃったっていう非常事態の下では、もうそんなことどうでもいいように思えた。
「ここに来たかったんでしょ?」
カズコちゃんはにんまりと笑った。
目が三日月みたいな形になってまるでまんがみたい。
それに、ニヤッと笑った口元は血まみれだった。腕は変な方向に曲がったままだし。
さっき教室で座っていた時にはわからなかったけど、右足も折れているのか、変な方向を向いている。
「なに言ってるの?そんなわけないじゃない」
私が反論すると、カズコちゃんは意外そうな顔をした(頭半分くずれてるけど)
「じゃあ、なんで来たの?私止めてあげたのに。そのせいで学校につかまったんだから自業自得じゃない?」
「が、学校につかまった?」
「そうだよ。忠告してあげたよね?」
「忠告?」
そんなことされてない。
わたしが目を見開いてカズコちゃんをみていると、カズコちゃんがぐにゃりとゆがんだ。
なにか、黒い大きなてのひらみたいなものに、わしづかみにされて、そのままそのてのひらみたいなものに握りつぶされ、小さくてのなかで丸められてしまったようにみえる。
そして、そのまま、カズコちゃんはどこかに消えた。
なんだかよくわからない。
だけど、まともじゃないことだけはわかる。
ここはおかしい。鏡の向こう側なんておかしいにきまってるけど、今までいた世界とは絶対にちがう、どこかだ。
私はいてもたってもいられれなくなって、元いた世界をもう一度みた。
生徒たちは皆下校し、もうだれもいない。
見回りの先生すらいない。
がらんとした階段の踊り場を見ていると無性にこわくなってきた。
ここは、いったい、なに?
でも誰も答えてくれない。
カズコちゃんがいたってことは、元の世界とはちがうってこと?
でも、とにかく、なんでもいい。ここから出たい。ううん。絶対に出なきゃ。
私はもう一度鏡のガラスを強く押した。
踊り場を映すスクリーンはビクともせず、私のてのひらをつめたく押し返してきた。
映画やドラマであるように、いすをたたきつけて壊せたらいいのに。
でも、ここにはなにもない。せいぜい私の手だけだ。
つまり、どうしようもできないってこと。
私は、あきらめて別の出口を探すことにした。
スクリーンに背を向けて歩き出すと、足元はぐにゃぐにゃして、歩きづらかった。
いつの間にか真っ暗に見えていたこの世界も、私の周り半径一メートルぐらいはなんとか見えるようになっていた。
でも、相変わらずここがどこなのかはわからない。
学校の、どこか。
たぶん、あの、体育倉庫と同じ空間みたいな気がする。
だとすれば、あの体育倉庫を見つければ、出られるってこと?
暗い世界を目的もなく歩き、振り返ると、鏡のスクリーンはずい分とちいさくなっていた。
(どうか、体育倉庫にたどり着きますように)
空気はまるでゼリーのように重だるく感じられた。
手応えのない、それでいて、抵抗がある。
必死で、ぐにゃぐにゃした床の上を歩き続けると、遠くに小さな明かりが見えた。
まるで私を呼んでいるような、広い宇宙にたった一つ現れた希望のように。
進みづらい床を必死で足の裏で押し、前に進む。
どれほど歩いたのかはわからない。
ただながい時間がたったような気がする。
小さな明かりは少しずつ、その形を表し、正方形に近い窓に格子がかかっていることが分かった。
あれは、あの窓の形は・・・
がらがらと重たげな鉄の扉を動かす音。
体操着のクラスメートたちが、白球を追っていた。
たどり着いたのは体育館。
そして、いま、体育の授業中らしかった。
**************************************************
家族から風邪をもらってしまい、数年ぶりに発熱しています。
一応、コ◯ナもインフルも陰性でしたが、数日間更新が不安定になります。
期間内には必ず終わらせますので、すみません。
発熱って、こんなにつらいんでしたっけ・・・
「ユカ!」私は慌てて戻ろうとしたけれど、鏡の向こうはまるでガラス張りの世界のようで、私の声は聞こえないみたい。ガラスをいくらたたいても、生徒たちは全然気づかずに目の前を通りすぎていく。
ここは真っ暗。
前も後ろもわからない場所だけど、目の前に大型スクリーンに映し出されたように、生徒たちの帰っていくすがたが見える。そして、そこは明るい。
どんどん!「たすけて!」
誰も反応してくれない。
「たすけて、たすけてよ!ここに、いるの!」
いくらたたいても、叫んでも、誰にも聞こえないみたい。
「今日配信だよね」
「好きなドラマの日なんだ」
「今日新曲リリースだから、はやく帰って聞かないと」
「ゲームがさあ・・・」
「宿題うざい」
当たり前の日常が、どんどん通りすぎていく。私だけを、おいて。
「まって、まってよぉ。おいていかないでよぉ」
半泣きでガラスをたいても、鏡はビクともしない。「私だって、かえりたいよぉ」
涙と鼻水が一緒に出てきてなさけないけど、それをみて笑う人すらいない。
だって、私、全然見えないみたいだから。
ガラスに手をついて泣いていると、横にカズコちゃんがいた。
薄暗い鏡の中の世界では、カズコちゃんがいても違和感がなかった。
カズコちゃんは相変わらず、頭が崩れてるし、スパゲッティみたいなものが見えているし、正直言ってグロい。
でも、鏡の中に入っちゃったっていう非常事態の下では、もうそんなことどうでもいいように思えた。
「ここに来たかったんでしょ?」
カズコちゃんはにんまりと笑った。
目が三日月みたいな形になってまるでまんがみたい。
それに、ニヤッと笑った口元は血まみれだった。腕は変な方向に曲がったままだし。
さっき教室で座っていた時にはわからなかったけど、右足も折れているのか、変な方向を向いている。
「なに言ってるの?そんなわけないじゃない」
私が反論すると、カズコちゃんは意外そうな顔をした(頭半分くずれてるけど)
「じゃあ、なんで来たの?私止めてあげたのに。そのせいで学校につかまったんだから自業自得じゃない?」
「が、学校につかまった?」
「そうだよ。忠告してあげたよね?」
「忠告?」
そんなことされてない。
わたしが目を見開いてカズコちゃんをみていると、カズコちゃんがぐにゃりとゆがんだ。
なにか、黒い大きなてのひらみたいなものに、わしづかみにされて、そのままそのてのひらみたいなものに握りつぶされ、小さくてのなかで丸められてしまったようにみえる。
そして、そのまま、カズコちゃんはどこかに消えた。
なんだかよくわからない。
だけど、まともじゃないことだけはわかる。
ここはおかしい。鏡の向こう側なんておかしいにきまってるけど、今までいた世界とは絶対にちがう、どこかだ。
私はいてもたってもいられれなくなって、元いた世界をもう一度みた。
生徒たちは皆下校し、もうだれもいない。
見回りの先生すらいない。
がらんとした階段の踊り場を見ていると無性にこわくなってきた。
ここは、いったい、なに?
でも誰も答えてくれない。
カズコちゃんがいたってことは、元の世界とはちがうってこと?
でも、とにかく、なんでもいい。ここから出たい。ううん。絶対に出なきゃ。
私はもう一度鏡のガラスを強く押した。
踊り場を映すスクリーンはビクともせず、私のてのひらをつめたく押し返してきた。
映画やドラマであるように、いすをたたきつけて壊せたらいいのに。
でも、ここにはなにもない。せいぜい私の手だけだ。
つまり、どうしようもできないってこと。
私は、あきらめて別の出口を探すことにした。
スクリーンに背を向けて歩き出すと、足元はぐにゃぐにゃして、歩きづらかった。
いつの間にか真っ暗に見えていたこの世界も、私の周り半径一メートルぐらいはなんとか見えるようになっていた。
でも、相変わらずここがどこなのかはわからない。
学校の、どこか。
たぶん、あの、体育倉庫と同じ空間みたいな気がする。
だとすれば、あの体育倉庫を見つければ、出られるってこと?
暗い世界を目的もなく歩き、振り返ると、鏡のスクリーンはずい分とちいさくなっていた。
(どうか、体育倉庫にたどり着きますように)
空気はまるでゼリーのように重だるく感じられた。
手応えのない、それでいて、抵抗がある。
必死で、ぐにゃぐにゃした床の上を歩き続けると、遠くに小さな明かりが見えた。
まるで私を呼んでいるような、広い宇宙にたった一つ現れた希望のように。
進みづらい床を必死で足の裏で押し、前に進む。
どれほど歩いたのかはわからない。
ただながい時間がたったような気がする。
小さな明かりは少しずつ、その形を表し、正方形に近い窓に格子がかかっていることが分かった。
あれは、あの窓の形は・・・
がらがらと重たげな鉄の扉を動かす音。
体操着のクラスメートたちが、白球を追っていた。
たどり着いたのは体育館。
そして、いま、体育の授業中らしかった。
**************************************************
家族から風邪をもらってしまい、数年ぶりに発熱しています。
一応、コ◯ナもインフルも陰性でしたが、数日間更新が不安定になります。
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