11 / 25
11 飛び降り
しおりを挟む
ガタガタと体が震え出した。
耳の奥で血がうなりをあげている。
目はこぼれ落ちそうなほど見開かれ、どうしようもないほど恐ろしい。
心臓が喉から今にも飛び出しそうなほど激しく鳴り、恐怖のあまり悲鳴すら出てこない。
やたらと喉が渇き、パクパクと動いた口からはひきつったような喘ぎが漏れた。
「どうしたの?」
振りむくと、不思議そうなユカの顔があった。
「だ、だって、カズコちゃん・・・」
「そうだね、心配だね。大丈夫だよ。顔、真っ青だよ?」
いつも通りのユカの声。
教卓をもう一度見ると、カズコちゃんの頭はかき消されたように消えていた。
(うそでしょう?だって確かに・・・)
そう思ってキョロキョロしても、誰も反応していない。
おかしいのはわたし?
それともみんな?
でも、絶対おかしい。おかしいよ!
「席について、ホームルーム委員」
先生が声をかけると、リナが立ち上がった。
「今日は6月のクラスマッチの出場種目について話し合いたいと思います」
「うわめんどくせー」
「楽しそうじゃん」
教室のあちこちから好き勝手な声が聞こえてくる。
「先生」私は手をあげた。
「あの、カズコちゃんはどうなったんですか」声が震えた。
みんなの視線が勢いよく刺さる。
注目されるのはいや。でも、カズコちゃんがあんなだったのに、みんな知らん顔してクラスマッチって・・・
それに、さっきの生首は確かにカズコちゃんの顔だった。
絶対に何か起こっているはずなのに、見て見ぬ振りなんてできない。だってクラスメイトなのに。
「あー、和泉はな、体調不良で保健室で休んでいるから、心配するな」
本当に?もう毎日おかしなことばかりで、なにが本当で、何が幻なのかわからくなってくる。
でも、言葉は意外と理性的だった。
「あの、帰りたがってたんですけど、やっぱり、ダメなんですか・・・?」
「学校は帰りたいから帰るところじゃないだろう。それに和泉は・・・まあ、迎えを待っているところだ。先生に任せて、山田は授業に集中しなさい」
「はい」
小声で返事をすると、先生は安心したようにリナを促した。
リナのハリのある声が聞こえてきたけど、私はクラスマッチどころじゃない。
いつの間にかホームルームが終わり、1時間目の数学の授業が始まったけど、全然集中できなかった。
なんだか、この学校って変。
体育倉庫は謎に広いし、あちこち不気味だし、変な音とかするし。
それに、何よりも砦跡ってのが・・・
「山田・・・山田!」
「ミナ」ユカが小声で私をつついている。「先生が呼んでるよ?さっきから」
「は、はい」
私が慌てて返事をすると、先生はムッとしていた。
「問5の答えは?」
「・・・わかりません」
正直、全然集中できなくて、開いているページには問5なんてどこにもない。
「次のページだよ」ってユカが合図を送ってくるけど、お手上げだった。
「わかりません」正直に答えるしかない。
「たるんでるぞ」
先生にビシッと言われ、「すみません」と小さく謝った。
「じゃあ、中村」先生は私をさっさと見捨てて次の人を指した。
「250です」
「正解」
そのまま、授業は進み、私はまた考え始めた。
カズコちゃんが言ってたことってどういうこと?
七不思議を全部知ったら死んじゃうって?
なんで?
でも、私って幾つ知ってる?
えっと。走る二宮金次郎でしょ?
それから、体育倉庫が本当は広いこと。
4時44分に階段の踊り場にある鏡の前に立つと引きずり込まれる。
あとは、音楽室の前の階段が夜中になると13段になる?
ここが砦だったことも七不思議になるのかな。そうだとしたらもう6つ・・・
ぞくり。
背中を冷たいものが走り抜けた。
ま、まさかだよね。でも、これ以上聞いたらまずい気がする。
そういえば、放送室がどうのこうのっていってたけど話が途中だから、関係ないよね?
昨日のお昼の放送は変だったけど・・・まさか、変な音が混じるのが七不思議だったら?
背中のぞくぞくはどんどんひどくなり、私は体が震え始めた。
関係ないよね?そんなの迷信だよね?みんな知ってるよね?
そうだよ、みんな知ってるから大丈夫なはず。
学校の七不思議なんてない。
無理やり自分を説得させようとしたけど、震えが治らない。
やっぱり、怖い。
ここでは絶対何かが起こってる。怖い。ここからにげたい。
なんとかならないかな。
そう思って窓を見た瞬間。
目の前をカズコちゃんが落ちていった。
スローモーションのようにカズコちゃんの恐怖に見開かれた目。
二人の目が合い、私を認識した。
声にならない悲鳴がその口から漏れ、白い首、そして制服のリボン、スカート、足へと視線は移り、最後につま先が赤い上靴。そして青い空。
窓枠から見切れたカズコちゃんは、音もなく視界から消えた。
「きゃーーーー!!!」
思わず立ち上がって叫ぶ。
「人が落ちたぞ!」
別の誰かが叫んだ。
クラス全員が立ち上がり、先生が窓枠から下を覗いた。
「全員座りなさい!窓から下を覗かないように!」
大声で指示すると、そのまま部屋から駆け出していった。
耳の奥で血がうなりをあげている。
目はこぼれ落ちそうなほど見開かれ、どうしようもないほど恐ろしい。
心臓が喉から今にも飛び出しそうなほど激しく鳴り、恐怖のあまり悲鳴すら出てこない。
やたらと喉が渇き、パクパクと動いた口からはひきつったような喘ぎが漏れた。
「どうしたの?」
振りむくと、不思議そうなユカの顔があった。
「だ、だって、カズコちゃん・・・」
「そうだね、心配だね。大丈夫だよ。顔、真っ青だよ?」
いつも通りのユカの声。
教卓をもう一度見ると、カズコちゃんの頭はかき消されたように消えていた。
(うそでしょう?だって確かに・・・)
そう思ってキョロキョロしても、誰も反応していない。
おかしいのはわたし?
それともみんな?
でも、絶対おかしい。おかしいよ!
「席について、ホームルーム委員」
先生が声をかけると、リナが立ち上がった。
「今日は6月のクラスマッチの出場種目について話し合いたいと思います」
「うわめんどくせー」
「楽しそうじゃん」
教室のあちこちから好き勝手な声が聞こえてくる。
「先生」私は手をあげた。
「あの、カズコちゃんはどうなったんですか」声が震えた。
みんなの視線が勢いよく刺さる。
注目されるのはいや。でも、カズコちゃんがあんなだったのに、みんな知らん顔してクラスマッチって・・・
それに、さっきの生首は確かにカズコちゃんの顔だった。
絶対に何か起こっているはずなのに、見て見ぬ振りなんてできない。だってクラスメイトなのに。
「あー、和泉はな、体調不良で保健室で休んでいるから、心配するな」
本当に?もう毎日おかしなことばかりで、なにが本当で、何が幻なのかわからくなってくる。
でも、言葉は意外と理性的だった。
「あの、帰りたがってたんですけど、やっぱり、ダメなんですか・・・?」
「学校は帰りたいから帰るところじゃないだろう。それに和泉は・・・まあ、迎えを待っているところだ。先生に任せて、山田は授業に集中しなさい」
「はい」
小声で返事をすると、先生は安心したようにリナを促した。
リナのハリのある声が聞こえてきたけど、私はクラスマッチどころじゃない。
いつの間にかホームルームが終わり、1時間目の数学の授業が始まったけど、全然集中できなかった。
なんだか、この学校って変。
体育倉庫は謎に広いし、あちこち不気味だし、変な音とかするし。
それに、何よりも砦跡ってのが・・・
「山田・・・山田!」
「ミナ」ユカが小声で私をつついている。「先生が呼んでるよ?さっきから」
「は、はい」
私が慌てて返事をすると、先生はムッとしていた。
「問5の答えは?」
「・・・わかりません」
正直、全然集中できなくて、開いているページには問5なんてどこにもない。
「次のページだよ」ってユカが合図を送ってくるけど、お手上げだった。
「わかりません」正直に答えるしかない。
「たるんでるぞ」
先生にビシッと言われ、「すみません」と小さく謝った。
「じゃあ、中村」先生は私をさっさと見捨てて次の人を指した。
「250です」
「正解」
そのまま、授業は進み、私はまた考え始めた。
カズコちゃんが言ってたことってどういうこと?
七不思議を全部知ったら死んじゃうって?
なんで?
でも、私って幾つ知ってる?
えっと。走る二宮金次郎でしょ?
それから、体育倉庫が本当は広いこと。
4時44分に階段の踊り場にある鏡の前に立つと引きずり込まれる。
あとは、音楽室の前の階段が夜中になると13段になる?
ここが砦だったことも七不思議になるのかな。そうだとしたらもう6つ・・・
ぞくり。
背中を冷たいものが走り抜けた。
ま、まさかだよね。でも、これ以上聞いたらまずい気がする。
そういえば、放送室がどうのこうのっていってたけど話が途中だから、関係ないよね?
昨日のお昼の放送は変だったけど・・・まさか、変な音が混じるのが七不思議だったら?
背中のぞくぞくはどんどんひどくなり、私は体が震え始めた。
関係ないよね?そんなの迷信だよね?みんな知ってるよね?
そうだよ、みんな知ってるから大丈夫なはず。
学校の七不思議なんてない。
無理やり自分を説得させようとしたけど、震えが治らない。
やっぱり、怖い。
ここでは絶対何かが起こってる。怖い。ここからにげたい。
なんとかならないかな。
そう思って窓を見た瞬間。
目の前をカズコちゃんが落ちていった。
スローモーションのようにカズコちゃんの恐怖に見開かれた目。
二人の目が合い、私を認識した。
声にならない悲鳴がその口から漏れ、白い首、そして制服のリボン、スカート、足へと視線は移り、最後につま先が赤い上靴。そして青い空。
窓枠から見切れたカズコちゃんは、音もなく視界から消えた。
「きゃーーーー!!!」
思わず立ち上がって叫ぶ。
「人が落ちたぞ!」
別の誰かが叫んだ。
クラス全員が立ち上がり、先生が窓枠から下を覗いた。
「全員座りなさい!窓から下を覗かないように!」
大声で指示すると、そのまま部屋から駆け出していった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結済】ダークサイドストーリー〜4つの物語〜
野花マリオ
ホラー
この4つの物語は4つの連なる視点があるホラーストーリーです。
内容は不条理モノですがオムニバス形式でありどの物語から読んでも大丈夫です。この物語が読むと読者が取り憑かれて繰り返し読んでいる恐怖を導かれるように……
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。


ナガヤマをさがせ~生徒会のいちばん長い日~
彩条あきら
ミステリー
中学生徒会を主役に、行方不明の生徒会長を探し回るミステリー短編小説。
完全無欠の生徒会長ナガヤマ・ユウイチがある日、行方不明になった!彼が保管する文化祭実行のための重要書類を求め、スバルたち彩玉学園中学生徒会メンバーは学校中を探し始める。メンバーたちに焦りが募る中、完璧と思われていた生徒会長ナガヤマの、知られざる側面が明らかになっていく…。
※別サイトの企画に出していた作品を転載したものです※
【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~
潮ノ海月
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる