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11 飛び降り
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ガタガタと体が震え出した。
耳の奥で血がうなりをあげている。
目はこぼれ落ちそうなほど見開かれ、どうしようもないほど恐ろしい。
心臓が喉から今にも飛び出しそうなほど激しく鳴り、恐怖のあまり悲鳴すら出てこない。
やたらと喉が渇き、パクパクと動いた口からはひきつったような喘ぎが漏れた。
「どうしたの?」
振りむくと、不思議そうなユカの顔があった。
「だ、だって、カズコちゃん・・・」
「そうだね、心配だね。大丈夫だよ。顔、真っ青だよ?」
いつも通りのユカの声。
教卓をもう一度見ると、カズコちゃんの頭はかき消されたように消えていた。
(うそでしょう?だって確かに・・・)
そう思ってキョロキョロしても、誰も反応していない。
おかしいのはわたし?
それともみんな?
でも、絶対おかしい。おかしいよ!
「席について、ホームルーム委員」
先生が声をかけると、リナが立ち上がった。
「今日は6月のクラスマッチの出場種目について話し合いたいと思います」
「うわめんどくせー」
「楽しそうじゃん」
教室のあちこちから好き勝手な声が聞こえてくる。
「先生」私は手をあげた。
「あの、カズコちゃんはどうなったんですか」声が震えた。
みんなの視線が勢いよく刺さる。
注目されるのはいや。でも、カズコちゃんがあんなだったのに、みんな知らん顔してクラスマッチって・・・
それに、さっきの生首は確かにカズコちゃんの顔だった。
絶対に何か起こっているはずなのに、見て見ぬ振りなんてできない。だってクラスメイトなのに。
「あー、和泉はな、体調不良で保健室で休んでいるから、心配するな」
本当に?もう毎日おかしなことばかりで、なにが本当で、何が幻なのかわからくなってくる。
でも、言葉は意外と理性的だった。
「あの、帰りたがってたんですけど、やっぱり、ダメなんですか・・・?」
「学校は帰りたいから帰るところじゃないだろう。それに和泉は・・・まあ、迎えを待っているところだ。先生に任せて、山田は授業に集中しなさい」
「はい」
小声で返事をすると、先生は安心したようにリナを促した。
リナのハリのある声が聞こえてきたけど、私はクラスマッチどころじゃない。
いつの間にかホームルームが終わり、1時間目の数学の授業が始まったけど、全然集中できなかった。
なんだか、この学校って変。
体育倉庫は謎に広いし、あちこち不気味だし、変な音とかするし。
それに、何よりも砦跡ってのが・・・
「山田・・・山田!」
「ミナ」ユカが小声で私をつついている。「先生が呼んでるよ?さっきから」
「は、はい」
私が慌てて返事をすると、先生はムッとしていた。
「問5の答えは?」
「・・・わかりません」
正直、全然集中できなくて、開いているページには問5なんてどこにもない。
「次のページだよ」ってユカが合図を送ってくるけど、お手上げだった。
「わかりません」正直に答えるしかない。
「たるんでるぞ」
先生にビシッと言われ、「すみません」と小さく謝った。
「じゃあ、中村」先生は私をさっさと見捨てて次の人を指した。
「250です」
「正解」
そのまま、授業は進み、私はまた考え始めた。
カズコちゃんが言ってたことってどういうこと?
七不思議を全部知ったら死んじゃうって?
なんで?
でも、私って幾つ知ってる?
えっと。走る二宮金次郎でしょ?
それから、体育倉庫が本当は広いこと。
4時44分に階段の踊り場にある鏡の前に立つと引きずり込まれる。
あとは、音楽室の前の階段が夜中になると13段になる?
ここが砦だったことも七不思議になるのかな。そうだとしたらもう6つ・・・
ぞくり。
背中を冷たいものが走り抜けた。
ま、まさかだよね。でも、これ以上聞いたらまずい気がする。
そういえば、放送室がどうのこうのっていってたけど話が途中だから、関係ないよね?
昨日のお昼の放送は変だったけど・・・まさか、変な音が混じるのが七不思議だったら?
背中のぞくぞくはどんどんひどくなり、私は体が震え始めた。
関係ないよね?そんなの迷信だよね?みんな知ってるよね?
そうだよ、みんな知ってるから大丈夫なはず。
学校の七不思議なんてない。
無理やり自分を説得させようとしたけど、震えが治らない。
やっぱり、怖い。
ここでは絶対何かが起こってる。怖い。ここからにげたい。
なんとかならないかな。
そう思って窓を見た瞬間。
目の前をカズコちゃんが落ちていった。
スローモーションのようにカズコちゃんの恐怖に見開かれた目。
二人の目が合い、私を認識した。
声にならない悲鳴がその口から漏れ、白い首、そして制服のリボン、スカート、足へと視線は移り、最後につま先が赤い上靴。そして青い空。
窓枠から見切れたカズコちゃんは、音もなく視界から消えた。
「きゃーーーー!!!」
思わず立ち上がって叫ぶ。
「人が落ちたぞ!」
別の誰かが叫んだ。
クラス全員が立ち上がり、先生が窓枠から下を覗いた。
「全員座りなさい!窓から下を覗かないように!」
大声で指示すると、そのまま部屋から駆け出していった。
耳の奥で血がうなりをあげている。
目はこぼれ落ちそうなほど見開かれ、どうしようもないほど恐ろしい。
心臓が喉から今にも飛び出しそうなほど激しく鳴り、恐怖のあまり悲鳴すら出てこない。
やたらと喉が渇き、パクパクと動いた口からはひきつったような喘ぎが漏れた。
「どうしたの?」
振りむくと、不思議そうなユカの顔があった。
「だ、だって、カズコちゃん・・・」
「そうだね、心配だね。大丈夫だよ。顔、真っ青だよ?」
いつも通りのユカの声。
教卓をもう一度見ると、カズコちゃんの頭はかき消されたように消えていた。
(うそでしょう?だって確かに・・・)
そう思ってキョロキョロしても、誰も反応していない。
おかしいのはわたし?
それともみんな?
でも、絶対おかしい。おかしいよ!
「席について、ホームルーム委員」
先生が声をかけると、リナが立ち上がった。
「今日は6月のクラスマッチの出場種目について話し合いたいと思います」
「うわめんどくせー」
「楽しそうじゃん」
教室のあちこちから好き勝手な声が聞こえてくる。
「先生」私は手をあげた。
「あの、カズコちゃんはどうなったんですか」声が震えた。
みんなの視線が勢いよく刺さる。
注目されるのはいや。でも、カズコちゃんがあんなだったのに、みんな知らん顔してクラスマッチって・・・
それに、さっきの生首は確かにカズコちゃんの顔だった。
絶対に何か起こっているはずなのに、見て見ぬ振りなんてできない。だってクラスメイトなのに。
「あー、和泉はな、体調不良で保健室で休んでいるから、心配するな」
本当に?もう毎日おかしなことばかりで、なにが本当で、何が幻なのかわからくなってくる。
でも、言葉は意外と理性的だった。
「あの、帰りたがってたんですけど、やっぱり、ダメなんですか・・・?」
「学校は帰りたいから帰るところじゃないだろう。それに和泉は・・・まあ、迎えを待っているところだ。先生に任せて、山田は授業に集中しなさい」
「はい」
小声で返事をすると、先生は安心したようにリナを促した。
リナのハリのある声が聞こえてきたけど、私はクラスマッチどころじゃない。
いつの間にかホームルームが終わり、1時間目の数学の授業が始まったけど、全然集中できなかった。
なんだか、この学校って変。
体育倉庫は謎に広いし、あちこち不気味だし、変な音とかするし。
それに、何よりも砦跡ってのが・・・
「山田・・・山田!」
「ミナ」ユカが小声で私をつついている。「先生が呼んでるよ?さっきから」
「は、はい」
私が慌てて返事をすると、先生はムッとしていた。
「問5の答えは?」
「・・・わかりません」
正直、全然集中できなくて、開いているページには問5なんてどこにもない。
「次のページだよ」ってユカが合図を送ってくるけど、お手上げだった。
「わかりません」正直に答えるしかない。
「たるんでるぞ」
先生にビシッと言われ、「すみません」と小さく謝った。
「じゃあ、中村」先生は私をさっさと見捨てて次の人を指した。
「250です」
「正解」
そのまま、授業は進み、私はまた考え始めた。
カズコちゃんが言ってたことってどういうこと?
七不思議を全部知ったら死んじゃうって?
なんで?
でも、私って幾つ知ってる?
えっと。走る二宮金次郎でしょ?
それから、体育倉庫が本当は広いこと。
4時44分に階段の踊り場にある鏡の前に立つと引きずり込まれる。
あとは、音楽室の前の階段が夜中になると13段になる?
ここが砦だったことも七不思議になるのかな。そうだとしたらもう6つ・・・
ぞくり。
背中を冷たいものが走り抜けた。
ま、まさかだよね。でも、これ以上聞いたらまずい気がする。
そういえば、放送室がどうのこうのっていってたけど話が途中だから、関係ないよね?
昨日のお昼の放送は変だったけど・・・まさか、変な音が混じるのが七不思議だったら?
背中のぞくぞくはどんどんひどくなり、私は体が震え始めた。
関係ないよね?そんなの迷信だよね?みんな知ってるよね?
そうだよ、みんな知ってるから大丈夫なはず。
学校の七不思議なんてない。
無理やり自分を説得させようとしたけど、震えが治らない。
やっぱり、怖い。
ここでは絶対何かが起こってる。怖い。ここからにげたい。
なんとかならないかな。
そう思って窓を見た瞬間。
目の前をカズコちゃんが落ちていった。
スローモーションのようにカズコちゃんの恐怖に見開かれた目。
二人の目が合い、私を認識した。
声にならない悲鳴がその口から漏れ、白い首、そして制服のリボン、スカート、足へと視線は移り、最後につま先が赤い上靴。そして青い空。
窓枠から見切れたカズコちゃんは、音もなく視界から消えた。
「きゃーーーー!!!」
思わず立ち上がって叫ぶ。
「人が落ちたぞ!」
別の誰かが叫んだ。
クラス全員が立ち上がり、先生が窓枠から下を覗いた。
「全員座りなさい!窓から下を覗かないように!」
大声で指示すると、そのまま部屋から駆け出していった。
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