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10 カズコちゃん
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翌日。
朝は当然来る。そして学校も行かなきゃいけない。
私は低血圧のもうろうとした頭のまま、朝ごはんを食べ、歯を磨き、そしていつも通りのジャージに半ヘルの激ダサスタイルで学校に向かった。
昨日もめんどくさかったけど、今日はもっとめんどくさい。
それに、何より、学校が怖かった。ガチで。
自転車をキーキー鳴らしながら、坂道をこぐ。
昨日、学校が元砦で、人がいっぱい死んだって聞いてから、ますますゆううつになっている。
足元に死体が転がってたかもしれないって聞いて、誰がうれしいの?
いくら、いつだかわからない何百年も昔だって、不気味は不気味。
細心の注意を払って自転車置き場に自転車を入れ、教室に向かうと、昇降口でカズコちゃんが待っていた。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を交わして横を通り抜けようとすると、カズコちゃんにガシッと腕を掴まれた。
いたいいたいカズコちゃん、力加減・・・!
私が目で訴えてもカズコちゃんは厚い前髪のせいで見えないらしい。
「あの・・・」
そっと手に触れると、その手はゾッとするほど冷たかった。
「冷たっ!」
思わず声を上げてしまうと、カズコちゃんは慌てて手を離した。
「ごめん、ずっと待ってたから」
「なんで?私を?」
「うん」
私はカズコちゃんをじっと見た。だって、わけがわからない。今まで一度も話したことないし、名前と顔が一致したのも昨日。カズコちゃんは私のこと知らないと思うんだけど。
「知ってるよ」
カズコちゃんが心を読んだようなタイミングで答えた。
「えっ?」
「知ってるよ、あなたのこと。なんで話しかけられたのかわからないって思ってるんでしょう?」
「う、うん」私は正直に答えた。
でもカズコちゃんにはどうでも良かったみたい。
「あのね。あの話本当なのよ」
「あの話?」
「私の姉、年が離れてるの。7歳離れた姉がいるんだけど、本当にいなくなった先輩がいるのよ」
「いなくなった?」
「そう。体育倉庫で」
背中に氷の柱が立ったようにゾッとした。
なんで知ってるの?話したこともないこの人が。
でも喉から出たのは小さな声だけだった。
「うそ・・・」
「うそなんかじゃない!」
思いも寄らない激しさでカズコちゃんが反論した。
「本当よ。本当に起こったことなの。姉の2つ下の学年で、体育倉庫にボールを取りに行って、それっきり戻ってこなくなった人がいるんだから」
「な、なんで」
「この学校はなんか不気味なのよ!わからないの!?」
カズコちゃんは、叫ぶと同時に泣き出した。
周りにいる生徒たちは、何をもめているのかと遠巻きに見ている。
もめてないけど、でも、気持ちが悪い。
「あ、あのさ。学校の怪談なんてどこにでもあるんじゃないの?」
私はおずおずと言った。確かにこの学校は不気味だけど、あと3年近くも通わなくちゃいけない。認めちゃったらますます来たくなくなるじゃない。
「トイレの花子さんとかさ、ビビるほどの話じゃない、ちょっと夏に楽しめばいいんじゃないの?」
カズコちゃんは目を剥いた。「何を言ってるのよ!!!」
カズコちゃんの方が怖い。
「本当なんだから!本当に、この学校にはなにかあるんだから。大人たちは、見て見ぬ振りをしてるけど、人がいなくなったり、普通じゃないよ。それに・・・それに、知りたくなかったのに。私、この学校の怪談7つめを昨日聞いちゃったのよ!7つ目を知っちゃったらどうなるの?どうなるのよぉ・・・」
カズコちゃんは、耐えられないというように膝をついて泣いている。
私はカズコちゃんの肩に手を伸ばそうとしたけど、やっぱり怖くて手を引っ込めてしまった。
カズコちゃんには異界に引きずられそうな、そんな不気味さがある。
「あ、あのさ・・・大丈夫だよ。そんなの迷信・・・」
「迷信だって嫌なの!知りたくないの!怖いの!もう、学校に居たくない、帰りたい」
うわーんと大きな声を出してカズコちゃんは泣き出した。
もう、こうなっちゃったらどうしたらいいのかわからない。
「田中」先生が私の肩に手を置いた。「教室に行きなさい。話は後で聞くから」
私は目顔で頷くと、小走りに教室に向かった。
とにかく、この場から逃げ出したかった。
不気味な学校も同級生も、もうたくさん。
教室に駆け込むと、もうみんな席についていた。
「大変だったね」ユカが小声で話しかけてくる。
私は声を出さずに頷き、次の瞬間、心臓が止まった。
教卓の上には、カズコちゃんの生首がのっていた。
「・・・・!!!!!」
声にならない悲鳴をあげ、目を見開くと、教卓に乗ったカズコちゃんの口が動いた。
「に、げ、て」
生首は、間違いなく、そう言った。
朝は当然来る。そして学校も行かなきゃいけない。
私は低血圧のもうろうとした頭のまま、朝ごはんを食べ、歯を磨き、そしていつも通りのジャージに半ヘルの激ダサスタイルで学校に向かった。
昨日もめんどくさかったけど、今日はもっとめんどくさい。
それに、何より、学校が怖かった。ガチで。
自転車をキーキー鳴らしながら、坂道をこぐ。
昨日、学校が元砦で、人がいっぱい死んだって聞いてから、ますますゆううつになっている。
足元に死体が転がってたかもしれないって聞いて、誰がうれしいの?
いくら、いつだかわからない何百年も昔だって、不気味は不気味。
細心の注意を払って自転車置き場に自転車を入れ、教室に向かうと、昇降口でカズコちゃんが待っていた。
「おはよう」
「おはよう」
挨拶を交わして横を通り抜けようとすると、カズコちゃんにガシッと腕を掴まれた。
いたいいたいカズコちゃん、力加減・・・!
私が目で訴えてもカズコちゃんは厚い前髪のせいで見えないらしい。
「あの・・・」
そっと手に触れると、その手はゾッとするほど冷たかった。
「冷たっ!」
思わず声を上げてしまうと、カズコちゃんは慌てて手を離した。
「ごめん、ずっと待ってたから」
「なんで?私を?」
「うん」
私はカズコちゃんをじっと見た。だって、わけがわからない。今まで一度も話したことないし、名前と顔が一致したのも昨日。カズコちゃんは私のこと知らないと思うんだけど。
「知ってるよ」
カズコちゃんが心を読んだようなタイミングで答えた。
「えっ?」
「知ってるよ、あなたのこと。なんで話しかけられたのかわからないって思ってるんでしょう?」
「う、うん」私は正直に答えた。
でもカズコちゃんにはどうでも良かったみたい。
「あのね。あの話本当なのよ」
「あの話?」
「私の姉、年が離れてるの。7歳離れた姉がいるんだけど、本当にいなくなった先輩がいるのよ」
「いなくなった?」
「そう。体育倉庫で」
背中に氷の柱が立ったようにゾッとした。
なんで知ってるの?話したこともないこの人が。
でも喉から出たのは小さな声だけだった。
「うそ・・・」
「うそなんかじゃない!」
思いも寄らない激しさでカズコちゃんが反論した。
「本当よ。本当に起こったことなの。姉の2つ下の学年で、体育倉庫にボールを取りに行って、それっきり戻ってこなくなった人がいるんだから」
「な、なんで」
「この学校はなんか不気味なのよ!わからないの!?」
カズコちゃんは、叫ぶと同時に泣き出した。
周りにいる生徒たちは、何をもめているのかと遠巻きに見ている。
もめてないけど、でも、気持ちが悪い。
「あ、あのさ。学校の怪談なんてどこにでもあるんじゃないの?」
私はおずおずと言った。確かにこの学校は不気味だけど、あと3年近くも通わなくちゃいけない。認めちゃったらますます来たくなくなるじゃない。
「トイレの花子さんとかさ、ビビるほどの話じゃない、ちょっと夏に楽しめばいいんじゃないの?」
カズコちゃんは目を剥いた。「何を言ってるのよ!!!」
カズコちゃんの方が怖い。
「本当なんだから!本当に、この学校にはなにかあるんだから。大人たちは、見て見ぬ振りをしてるけど、人がいなくなったり、普通じゃないよ。それに・・・それに、知りたくなかったのに。私、この学校の怪談7つめを昨日聞いちゃったのよ!7つ目を知っちゃったらどうなるの?どうなるのよぉ・・・」
カズコちゃんは、耐えられないというように膝をついて泣いている。
私はカズコちゃんの肩に手を伸ばそうとしたけど、やっぱり怖くて手を引っ込めてしまった。
カズコちゃんには異界に引きずられそうな、そんな不気味さがある。
「あ、あのさ・・・大丈夫だよ。そんなの迷信・・・」
「迷信だって嫌なの!知りたくないの!怖いの!もう、学校に居たくない、帰りたい」
うわーんと大きな声を出してカズコちゃんは泣き出した。
もう、こうなっちゃったらどうしたらいいのかわからない。
「田中」先生が私の肩に手を置いた。「教室に行きなさい。話は後で聞くから」
私は目顔で頷くと、小走りに教室に向かった。
とにかく、この場から逃げ出したかった。
不気味な学校も同級生も、もうたくさん。
教室に駆け込むと、もうみんな席についていた。
「大変だったね」ユカが小声で話しかけてくる。
私は声を出さずに頷き、次の瞬間、心臓が止まった。
教卓の上には、カズコちゃんの生首がのっていた。
「・・・・!!!!!」
声にならない悲鳴をあげ、目を見開くと、教卓に乗ったカズコちゃんの口が動いた。
「に、げ、て」
生首は、間違いなく、そう言った。
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