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後日譚〜あれから〜
47 【リュカ】エピローグ5
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俺の子?どういうことだ?
「ちがうよ」
「そうだ」
俺と兄さんが同時に口を開いた。
小さな悲鳴がリュシー姫の口から上がり、両手で口を抑えてガタガタとふるえだした。
大きな若草色の目にはうっすらと涙が浮かび、途方に暮れたように俺と兄さんを交互に見ている。
さっきまで、男の子たちがどれほど騒ごうと完璧な令嬢然とした態度を崩さなかったのに、いまの姫は年相応の少女にしか見えなかった。
「お父様?」か細い声で兄さんを呼ぶと、兄さんが姫に近づき、肩を抱いた。
「リュシー、リュシエンヌ。お前の父親が私ではないことは知っていたね?」
「はい。お父様は、そうおっしゃいました。若くして亡くなった・・・お父様の弟の子だから、実の子も同然だと」
「そうだ。事情があって、今は詳しいことは話せないが・・・お前はリュカの子だ。お前の名は、父親から取った」
「・・・」リュシー姫の瞳からはとめどなく涙があふれ出ていた。
「では・・・では、なぜこの方はわたくしが娘ではないとおっしゃるのですか?」
「それは・・・すべて私のせいだ。告げるのを先延ばしつづけた結果、お前を苦しませてしまった。すまないと思っている。リュカは、以前ひどい病気にかかって、その当時の記憶がないんだよ。お前が生まれたことも今まで知らなかった」
「そんなこと・・・」
「互いに一番いいタイミングで話をしようと思っていたんだが・・・突然知らせることになってしまい。すまなかった」
全員が戸惑い、困り果てていた。
口火を切ったヴィクトルもまさかこんなことになるとは、と立ち尽くし、手のひらを開いたり閉じたりをくり返している。
「リュカ」兄さんが俺を呼んだ。「お前の娘だ。お前は知らなかっただろう。ナタリーがお前の娘を産んだ。これまで公爵家の娘として育ててきたんだ」
「・・・嘘だろう?なんでそんな大事なこと・・・ずっと黙ってたんだよ」
俺はどうしたらいいのか、本気で分からなかった。
突然こんな大きな娘がいるって告げられて、しかも、俺とはかけ離れた立派なご令嬢で・・・さっき、王妃の器だとまで思ったんだぞ?
「ほん・・・ほんとうに?」
姫に近づくと、兄さんの腕の中から見上げた瞳は、さっきはかあちゃんとそっくりだと思ったが、俺と同じだった。
「まさか、ナタリーがこんな贈り物をくれたとは・・・知らなかった」
胸の中にじわじわと温かい感情があふれだす。経験したことのないその感情は、俺の全身に伝わっていった。
娘がいたんだ。
預かりっ子じゃない、ほんとうの娘。
俺の、娘。
「リュシー姫。似ているとは思ったけど、まさか、俺の娘だなんて。こんなに美しい子が俺の娘だとは、思いもよらなかったよ。うれしいなあ。手を握っても?」
リュシーは俺の方に白い手を差し伸べた。
その手は小さくふるえ、おびえていた。
両手でそっと包み込む。
「今日のところは、これくらいにしておいたほうがいいかな?本当は抱きしめたいけど、小さなレディだし。失礼なことはしたくない。君に嫌われたくないからね」
リュシーはどうしようと相談するように兄さんを見上げ、兄さんがうなずくと、俺の方に一歩近づいた。
「あの・・・」さっきまで落ち着き払っていたリュシーはいま、小さな女の子にしか見えなかった。
「ああ・・・リュシー、本当に?そうだったらどれほどうれしいか」
もう我慢できない。俺はリュシーを抱き寄せた。
俺に娘がいたんだ。俺に娘が。
兄さんを愛しているけど、子が持てないことだけがすこしさみしかった。
でも、こんな完璧な娘が俺にいたなんて、信じられない。
いや、リュシーが俺の娘だっていうんなら、どんな姿をしてたって完璧だ。
腕の中にすっぽり収まる幼い身体が、俺の腕と心を温める。
どれほど抱き合っていたのかはわからない。ただ、俺とリュシーが満足するまで、兄さんとその子どもたちは待っていてくれた。
「おとうさま・・・?どうお呼びすれば?お父様はもういらっしゃいますし・・・」
「そうだねえ。これから考えていこう。たくさん話しをして、仲良くしようね」
俺はリュシーの手を握りしめた。
「兄さん、リュシーを立派に育ててくれてありがとう。リュシーを見ればどれだけ大切にされていたのか、ひと目でわかる。きれいだし、かわいいし、上品だし・・・、本当にこんなかわいい子が俺の娘なの?まだ信じられない」
「リュカおじさん、鏡見たほうがいいんじゃない」
末っ子の空気を読まない発言に、全員が爆笑した。
確かに。
リュシーは俺にそっくりだ。
そりゃ、俺の娘だから!
「ちがうよ」
「そうだ」
俺と兄さんが同時に口を開いた。
小さな悲鳴がリュシー姫の口から上がり、両手で口を抑えてガタガタとふるえだした。
大きな若草色の目にはうっすらと涙が浮かび、途方に暮れたように俺と兄さんを交互に見ている。
さっきまで、男の子たちがどれほど騒ごうと完璧な令嬢然とした態度を崩さなかったのに、いまの姫は年相応の少女にしか見えなかった。
「お父様?」か細い声で兄さんを呼ぶと、兄さんが姫に近づき、肩を抱いた。
「リュシー、リュシエンヌ。お前の父親が私ではないことは知っていたね?」
「はい。お父様は、そうおっしゃいました。若くして亡くなった・・・お父様の弟の子だから、実の子も同然だと」
「そうだ。事情があって、今は詳しいことは話せないが・・・お前はリュカの子だ。お前の名は、父親から取った」
「・・・」リュシー姫の瞳からはとめどなく涙があふれ出ていた。
「では・・・では、なぜこの方はわたくしが娘ではないとおっしゃるのですか?」
「それは・・・すべて私のせいだ。告げるのを先延ばしつづけた結果、お前を苦しませてしまった。すまないと思っている。リュカは、以前ひどい病気にかかって、その当時の記憶がないんだよ。お前が生まれたことも今まで知らなかった」
「そんなこと・・・」
「互いに一番いいタイミングで話をしようと思っていたんだが・・・突然知らせることになってしまい。すまなかった」
全員が戸惑い、困り果てていた。
口火を切ったヴィクトルもまさかこんなことになるとは、と立ち尽くし、手のひらを開いたり閉じたりをくり返している。
「リュカ」兄さんが俺を呼んだ。「お前の娘だ。お前は知らなかっただろう。ナタリーがお前の娘を産んだ。これまで公爵家の娘として育ててきたんだ」
「・・・嘘だろう?なんでそんな大事なこと・・・ずっと黙ってたんだよ」
俺はどうしたらいいのか、本気で分からなかった。
突然こんな大きな娘がいるって告げられて、しかも、俺とはかけ離れた立派なご令嬢で・・・さっき、王妃の器だとまで思ったんだぞ?
「ほん・・・ほんとうに?」
姫に近づくと、兄さんの腕の中から見上げた瞳は、さっきはかあちゃんとそっくりだと思ったが、俺と同じだった。
「まさか、ナタリーがこんな贈り物をくれたとは・・・知らなかった」
胸の中にじわじわと温かい感情があふれだす。経験したことのないその感情は、俺の全身に伝わっていった。
娘がいたんだ。
預かりっ子じゃない、ほんとうの娘。
俺の、娘。
「リュシー姫。似ているとは思ったけど、まさか、俺の娘だなんて。こんなに美しい子が俺の娘だとは、思いもよらなかったよ。うれしいなあ。手を握っても?」
リュシーは俺の方に白い手を差し伸べた。
その手は小さくふるえ、おびえていた。
両手でそっと包み込む。
「今日のところは、これくらいにしておいたほうがいいかな?本当は抱きしめたいけど、小さなレディだし。失礼なことはしたくない。君に嫌われたくないからね」
リュシーはどうしようと相談するように兄さんを見上げ、兄さんがうなずくと、俺の方に一歩近づいた。
「あの・・・」さっきまで落ち着き払っていたリュシーはいま、小さな女の子にしか見えなかった。
「ああ・・・リュシー、本当に?そうだったらどれほどうれしいか」
もう我慢できない。俺はリュシーを抱き寄せた。
俺に娘がいたんだ。俺に娘が。
兄さんを愛しているけど、子が持てないことだけがすこしさみしかった。
でも、こんな完璧な娘が俺にいたなんて、信じられない。
いや、リュシーが俺の娘だっていうんなら、どんな姿をしてたって完璧だ。
腕の中にすっぽり収まる幼い身体が、俺の腕と心を温める。
どれほど抱き合っていたのかはわからない。ただ、俺とリュシーが満足するまで、兄さんとその子どもたちは待っていてくれた。
「おとうさま・・・?どうお呼びすれば?お父様はもういらっしゃいますし・・・」
「そうだねえ。これから考えていこう。たくさん話しをして、仲良くしようね」
俺はリュシーの手を握りしめた。
「兄さん、リュシーを立派に育ててくれてありがとう。リュシーを見ればどれだけ大切にされていたのか、ひと目でわかる。きれいだし、かわいいし、上品だし・・・、本当にこんなかわいい子が俺の娘なの?まだ信じられない」
「リュカおじさん、鏡見たほうがいいんじゃない」
末っ子の空気を読まない発言に、全員が爆笑した。
確かに。
リュシーは俺にそっくりだ。
そりゃ、俺の娘だから!
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