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後日譚〜あれから〜

46 【リュカ】エピローグ4

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銀のトレイにのせて、丸い大きなパンが運ばれてきた。

パンにはドライフルーツが練り込まれ、粉砂糖と金粉が飾られている。6つに分けられるよう、切れ目を入れておいたが、選ぶことを楽しませるためサイズはバラバラだ。俺は使用人からトレイを受け取ると、明るい声で呼びかけた。

「豆の入ったパンを食べたことのある人!」
「豆?」

子どもたちが俺をじっと見た。

「これはゲームだよ。このパンの中には金色の豆がひとつだけ入っているんだ。その豆に当たった人が王様で、何でも願いを叶えることができる。お父上におねだりしても、誰かになにかを命令してもいい。どんなことでもできる。さあ、参加したい人!」
「はい!」末っ子が元気に手を上げ、それをみた次男がおずおずと手を上げた。
ヴィクトルは俺をじっとみたまま動かず、リュシーは全員を見回してから、「わたくしも」と手を上げた。
「リュシー!?」
裏切られたとでも言いたげなヴィクトルをちらりと見たリュシー。

「お祭りの日なのに楽しまないのは、粋ではありませんよ」

リュシーの言葉にヴィクトルは真っ赤になった。

「だって、こんな、こどもっぽい・・・」

いや、君、子どもだからね?8歳の。
俺が兄さんをちらっと見ると、兄さんも手を上げた。

「私もやろう。ヴィクトル、お前も一緒にやろう」

父親に誘われるとは思わなかったんだろう。
「え?」とでも言うように口をぽかんとあけ、ぐるぐると考えこんでいる。
顔を上げると家族全員がヴィクトルを見つめていた。

「ぼ、ぼくも・・・」小さく手を上げると、兄さんが「えらいな」と励ますように、微笑みかけた。
ヴィクトルはうれしそうに、しゃきっと背筋を伸ばした。

「よかった!じゃ、一番年下の子からどうぞ」俺がトレイを差し出すと、末っ子は散々迷った挙げ句、一番大きな一切れをとった。
次男は、周りを見回しながらも、その隣のやっぱり大きな一切れ。
「次は・・・」ヴィクトル?リュシーが一番上って聞いてたけど、それでいいんだよね?体はヴィクトルのほうが大きいけど・・・
「ヴィクトルよ」鈴がなるような声でリュシーが言うと、ヴィクトルはまた赤くなりながら、手近なひとつを取った。
「では、わたくしは・・・」迷うふりをしながら、リュシーが一番小さな一切れをとる。

「どうぞ」兄さんにトレイを差し出すと、兄さんが「お前が先だろう」と俺に先に取るようにうながした。確かに、年の順なら俺が先か。
「はい」小さい方の一切れをとり、大きな一切れを兄さんに回す。
兄さんは片眉を上げ、最後の一切れをとった。口角が上がり、なんだか、楽しそうだ。

「じゃあ、よーいどんで金の豆を探して・・・」
「ないよーーー」言い終わる前に、末っ子ががっかりしたように言葉をはさんだ。
手元には、バラバラにされたパンのかたまり。
「は、速いね・・・それは食べ物だから、しっかり食べてね」末っ子の素早さに苦笑しながら、レオンを思い出す。あいつ、時々パンを丸めて遊んでたよな。元気かな。

ちょっと考えがそれた間に、パンを配られた子どもたちは夢中になって豆探しを始めていた。
「俺のには入ってない」
次に言ったのは次男。
「わたくしも」「私もだ」リュシー姫と兄さんが相次いで報告し、じゃあ?と皆の目が俺に集まった。
俺が仕掛けたゲームで俺に当たりが来てもなあ。

ただ念のため、パンを指先でちぎりながら食べていく。うん、おいしい。
でも、指でさぐったかぎり豆はなさそうだ。ということは・・・

「あった」

全員の目がヴィクトルに集まった。ヴィクトルははにかんだ笑みを浮かべ、みんなの視線に気がつくと恥ずかしそうに身を縮こませた。手元は、小指の先程度の金塊が転がっていた。

「なんだよ、兄上、ずるい!」
末っ子が遠慮なく大声を出すと、ヴィクトルは頬を真っ赤に染めた。
いや、この子本当にかわいいな。兄さんそっくりなのにシャイなんだ。頭から撫で回したくなるけど、怒るだろうな。

「ずるくなんかないよ。当たりを引いたってだけ。良かったね、ヴィクトル」俺が微笑みかけると、ヴィクトルは赤い顔のまま首を縦に振った。うわ!素直。やっぱりまだ子どもなんだ。
「で、願い事は何にする?」

「ぼ、ぼくは・・・そんな・・・父上のご多幸を願います」
「えーーー?」
「つまんなーい」
「そんなのーー?」

ヴィクトルの優等生的な発言に、兄弟が全員不満そうに口をとがらせた。

「はは、ありがとう、ヴィクトル」兄さんが笑ってヴィクトルの頭に手を置いた。「親孝行だな。お前のような子がいる私はすでに幸せ者だ。お前が生誕祭の願い事を私に使ってくれたので、私がお前の願いをひとつ叶えよう。なにかひとつ願いを言いなさい」

ヴィクトルは兄さんとこんなに親しく話したことがないのだろう、横から見ていても、どぎまぎして心臓が飛び出しそうになっていることが分かる。

「あ、あの・・・では、ひとつ願いがございます。私は、公爵家の嫡男として、日々学問と武道にいそしんでおります。必ず、公爵家を安心して任せられるような人材になってみせますので・・・リュシーをどこにもやらないでください」
「リュシーを?」
兄さんは驚いたように小さく目を見開いた。
公爵家を継ぐこととリュシー姫に何の関係が?一瞬首をかしげたが、りんごのように染まったヴィクトルの顔を見てわかった。この子、リュシー姫のことが好きなんだ。でも、姉弟なのに?

「なぜ、リュシーがどこかに行くと思ったのだ?」
「だって・・・リュカおじさんって方は・・・リュシーのお父上でしょう?リュシーを連れに来たんではないのですか?」

部屋にいた全員が息を飲んだ。
でも、誰よりも仰天したのは、俺だった。

俺の子?リュシーが?なんで?嘘だろう?





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