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後日譚〜あれから〜

45 【リュカ】エピローグ3

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「今日は、聖女様の生誕祭だ。親戚のリュカがお前たちのために食事を用意してくれた。楽しみなさい」

お祈りのあと、兄さんが子どもたちに声を掛けると、子どもたちは皆大きな目で俺を値踏みし、そして兄さんに向かって無言でうなずいた。
誰だかわからない、親戚らしい男。急に楽しめと父に言われても、どう答えたらいいのか。
利口な子どもたちは、静観することにしたらしい。
レオンだったら、大喜びするところなんだけど。

食卓には、生誕祭をイメージした花が美しく飾られ、きらきらと銀の燭台が輝いている。
金や銀で色を付けたまつぼっくりやテーブルの中央には聖女様の家を模したお菓子の家もある。チョコレートクッキーを家の形に組み上げて、屋根から粉砂糖をふりかけたものだ。甘い味のする雪景色のなか、聖女様をイメージした金色の砂糖菓子が中央に立っている。この人形は食べずに取っておいて、一年間部屋に飾っておくのがこの国の子どもの楽しみだ。昔、兄弟たちと聖女様の人形を取り合った記憶はまだ残っていて、この家の子供達も喜んでくれるかと思って用意した。人形を手に入れられるのはひとりだけ。勝者はゲームで決めるつもりだ。今日は、ゲームで負けて聖女様を取れなくてもがっかりしないように、星や馬の飾り物も用意しておいた。子どもだったら、自分はどれを狙うか算段し始めるはずだとおもったんだけど、公爵家の子どもたちは興味ないのかな・・・

カチャカチャとカトラリーと食器がかすかに触れ合う音だけが響く部屋の中。
子どもたちを前にした兄さんは、外向けの無表情に戻り、冷たささえ感じさせる威厳をまとい、まるで別人みたいだ。見ようによっては不機嫌にさえ見える。

子どもたちは、そんな兄さんの前でかちかちに緊張していた。
一番上のヴィクトルは、兄さんそっくりの無表情で、時折俺をチラチラと伺っている。まるで、小動物が、生まれたばかりの子を狙う蛇を、にらみつけているような視線。なんでそんなに警戒されているのか・・・やっぱり、父親を取られるとおもって心配しているのかな。
それとも、突然親戚だなんて、胡散臭いやつだと思われているのか。どっちもありそうだ。

リュシー姫は男ばかりの中の紅一点。
姫の周りだけが華やいで、使用人たちもリュシー姫の一挙手一投足を見守り、なにかご用命があればすぐに、と意気ごんでいた。当の姫は、いつものことと、素知らぬ顔で上品にカトラリーを使い、小さく切った肉や野菜を口に運んでいた。内心穏やかじゃないとしても、口元には微笑みを絶やさず、まるで貴族のお手本みたいだ。

となりに座っている弟たちは上のふたりと比べると、ずいぶん元気が有り余ってる感じだ。
次男は頭が良くて全体を見回しているタイプ。一番下の弟は、やんちゃないたずら小僧。
ふたりは俺が子供向けに甘めに味付けしてもらった肉を、脇目もふらずにむしゃむしゃと食べていた。上の子たちが持っている緊張感はなく、子供らしくてホッとする。仲良くなるならこの子たちからのほうが近道かも。

「おいしい?」

俺が二人に声をかけると、ふたりは同時に俺を見上げた。

「うん」
「おい」

素直に返事をした末っ子を小声でたしなめる次男。

「どうして?なにかいけないことしたかな?」

おれが次男に声を掛けると、次男は困ったように目を泳がせた。

「ん?」
「だって・・・食事中に無駄話をしちゃいけないって、先生かていきょうしが・・・」
「ああ、そう」俺にも覚えがあるよ。「でも、食事がおいしいね、とか、楽しい話とかは無駄話じゃないんじゃない?俺、君たちに楽しんでほしくて、結構頑張って準備したんだよ。使用人のみんなも、君たちが喜んでくれるかなって、ワクワクしながらみんなで協力して準備したんだ。恩に着せるつもりはないけど、楽しんでくれたら、すごくうれしい」
「おいしい!」末っ子が大きな声で言った。
部屋の中の空気が、一気に和らぎ、使用人たちがみな笑顔になった。

「こら、大声を出すな」あわてて次男が末っ子をたしなめると、末っ子はぺろりと舌をだした。
「だって、リュカおじさんがいいって言ったもん」
「ははは、いいよ。いいよ。みんな、うれしいんだよ。そう言ってもらえると。もし、マナーを気にしているのなら、ここには家族しかいないから、いいんじゃない?」
「あなたは、家族じゃない」

冷たい声で、ヴィクトルが口をはさんだ。ぴしゃっと冷たい水をかけたような声に空気が硬くなる。
兄さんそっくりな、薄青の瞳が冷たく光った。

「ヴィクトル」兄さんがかちゃりとカトラリーを置いた。「口を慎め」

兄さんがヴィクトルに目を向けると、ヴィクトルはさっと青ざめてうつむいた。その目が一瞬傷ついたようにひるんだ。

「兄さん、いいんだ」
「リュカ」
「当然だよ。初対面なんだから、俺の配慮が足りなかった。君の言うとおりだよ、ヴィクトル」

俺がヴィクトルに話しかけても、ヴィクトルは視線をそらしたままだった。
食卓にあるものが急に味気なく感じられる。
下のふたりも顔を伏せて、料理に夢中になっているふりをしているが、フォークは何度も肉を刺したり、ソースをかき混ぜたりするだけだった。
そんななか、リュシー姫だけは微笑んで食事を続けていた。一番鉄メンタルなのは姫かもしれない。貴族の鏡。もしかしたら王妃の器かもしれない。

「さ、さあ。そろそろゲームでもしようか?」

空気を変えるには、ゲームしかない!
俺が手を上げて合図すると、朝から準備しておいたとっておきのパンが運び込まれてきた。

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