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後日譚〜あれから〜
44 【リュカ】エピローグ2
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昨日は、体調を崩してしまい、更新できずすみませんでした。
軽い、お腹の風邪です。皆様も気温のアップダウンが大きいので体調を崩されませんよう・・・
********************
「今日はなにをしていたんだ?」
兄さんがカフスボタンを外しながら尋ねる。
「今日は、聖女様の生誕祭の準備をしてたんだ。特別なパンを焼いたから、お楽しみに」
「へえ。毎年、聖女様の生誕祭には料理人が特別な食事を用意していたが・・・今年は違うのか?」
「まあ、聞いてはいたんだけど、いつもより豪華な食事をとるだけだって聞いて・・・せっかくだから、子どもたちと楽しんだら?」
「子どもたち?」
「そう。豪華じゃなくても一緒に食事をとって、ゲームをしたりさ。兄さん、子どもたちとほとんど話さないって聞いたけど。忙しくても、少し気にかけてやってくれないかな」
兄さんの子どもたちは、一番上の女の子が9歳で、そこから男の子ばかり8歳、7歳、6歳と一歳違いで4人いるらしい。
これまで兄さんが家にほとんどいなかったし、食事もろくにとらなかったりで、子どもたちと食卓を囲む習慣はなかった。俺もまともに顔を合わせたことがないので、聖女様の生誕祭のお祝いにかこつけて話をしてみたいと思っていた。なにか、こういうイベントでもないと、顔をあわせることすら難しい。
なにより、俺が幼い頃、家庭教師に殴られたり、奥様にいじめられたりした経験は、今思い返しても楽しいものではなく・・・そんなトラウマじみた子供時代を、目の前にいる子どもたちに味わわせたくない。
子ども時代って、もっと楽しいものだと思うんだ。
「子どもか・・・」
兄さんはあごの下に手をおいて、なにかを考えていた。「ちょうどいい機会かもしれないな。リュシーもそろそろ結婚相手を探す年頃だし」
「リュシー?」
「一番年上の娘だ。今日、お前に紹介しよう」
「ああ、うれしいよ」
もっと前だったら、兄さんに子どもがいるって知っただけで傷ついたはず。
でも、子どもたちもだいぶ大きくなって、この世にしっかり根を張っているし、今さら嫉妬するというよりは、生まれてきてくれたおかげで兄さんも自由になれたことだし・・・運命とでも言うのかな。考えても仕方がないと言うか。うん。
事実を受け入れたら、すっかり楽になった。
それに、イネスもミラもここにはいないし。子どもたちに愛情を傾ける人が使用人しかいないってのは、それで本当にいいのか、と思った。まずは、会う機会を作らないと。
「ほかの子は?」なぜひとりだけ紹介するの?
首をかしげた俺を兄さんはちらりと見て「もちろん紹介するさ」と小さな声で言った。
なんだろう、この違和感。
その答えは、ベネディクトに案内されて飾り付けたダニングルームに入ってきた子どもたちの姿をひと目見て分かった。
先頭を歩いているのは、兄さんにそっくりな男の子。身体が一番大きいから、一番上の子だろう。口元を引き結び、緊張している。兄さんの前で失敗したくないんだろう。
兄さんのミニチュアみたいな子ども。ガッチリとした体つきと頑固そうなあごのライン。
目の色すら同じで、初めて会った頃の兄さんをそのまま幼くしたみたいだ。
(うわ!かわいい!)
思わず胸がうずき、頬がゆるむ。抱きしめて、頭をぐりぐりなでてあげたい!もちろんこの子は嫌がるだろうけど。
にこにこと笑いながら、「どうぞ、遠慮しないで」と声をかけると、怪訝な目で見られた。
確かに、俺はこの子達にとって何者でもないもんな。いきなり見知らぬ男に馴れ馴れしく話しかけられたら、胡散臭く感じるよな。
「ごほん」
兄さんが、上座からわざとらしい咳ばらいをして、硬い声を出した。
「ヴィクトル。あとで説明する。まずは食卓につきなさい」
「はい、父上」
兄さんのミニチュアがひとまわり小さくなったように思えた。兄さんにむかって礼儀正しく頭を下げ、兄さんに近い席についた。
「お父様、お久しぶりでございます」
晴れやかな張りのある声。
「リュシー」兄さんが、にっこりと笑った。こんな極上の笑顔見たことない。
兄さんのミニチュアに目を奪われていた俺は、声の主に目を移して、腰が抜けるほど驚いた。
そこには、かあちゃんがいた。
いや、かあちゃん、というより・・・かあちゃんをぐっと若くして少女にしたらこうなるだろうって感じ?
真っ黒な髪とこぼれおちそうなほど大きな若草色の瞳。
雪のように白い肌とつんととがった小さなあご。大切に育てられたご令嬢だとひと目でわかる、育ちの良さ。
男ばかりの中、たったひとりの娘だ。兄さんも溺愛しているのかもしれない。
まあ、ミラのお父さんは俺のかあちゃんの弟だから、よく似た子が生まれても不思議はないか。
俺と目があったリュシー姫は、社交的な笑みを浮かべ、小さくひざを折ると、笑顔を崩さないまま席についた。
なんか、なんだか、毒気を抜かれたような気になる。
姫のあとから付いてきた男子ふたりは、先に挨拶をしたふたりが印象的すぎて、ぼんやりと受け流してしまった。
そうこうしている間に、ディナーが始まった。
軽い、お腹の風邪です。皆様も気温のアップダウンが大きいので体調を崩されませんよう・・・
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「今日はなにをしていたんだ?」
兄さんがカフスボタンを外しながら尋ねる。
「今日は、聖女様の生誕祭の準備をしてたんだ。特別なパンを焼いたから、お楽しみに」
「へえ。毎年、聖女様の生誕祭には料理人が特別な食事を用意していたが・・・今年は違うのか?」
「まあ、聞いてはいたんだけど、いつもより豪華な食事をとるだけだって聞いて・・・せっかくだから、子どもたちと楽しんだら?」
「子どもたち?」
「そう。豪華じゃなくても一緒に食事をとって、ゲームをしたりさ。兄さん、子どもたちとほとんど話さないって聞いたけど。忙しくても、少し気にかけてやってくれないかな」
兄さんの子どもたちは、一番上の女の子が9歳で、そこから男の子ばかり8歳、7歳、6歳と一歳違いで4人いるらしい。
これまで兄さんが家にほとんどいなかったし、食事もろくにとらなかったりで、子どもたちと食卓を囲む習慣はなかった。俺もまともに顔を合わせたことがないので、聖女様の生誕祭のお祝いにかこつけて話をしてみたいと思っていた。なにか、こういうイベントでもないと、顔をあわせることすら難しい。
なにより、俺が幼い頃、家庭教師に殴られたり、奥様にいじめられたりした経験は、今思い返しても楽しいものではなく・・・そんなトラウマじみた子供時代を、目の前にいる子どもたちに味わわせたくない。
子ども時代って、もっと楽しいものだと思うんだ。
「子どもか・・・」
兄さんはあごの下に手をおいて、なにかを考えていた。「ちょうどいい機会かもしれないな。リュシーもそろそろ結婚相手を探す年頃だし」
「リュシー?」
「一番年上の娘だ。今日、お前に紹介しよう」
「ああ、うれしいよ」
もっと前だったら、兄さんに子どもがいるって知っただけで傷ついたはず。
でも、子どもたちもだいぶ大きくなって、この世にしっかり根を張っているし、今さら嫉妬するというよりは、生まれてきてくれたおかげで兄さんも自由になれたことだし・・・運命とでも言うのかな。考えても仕方がないと言うか。うん。
事実を受け入れたら、すっかり楽になった。
それに、イネスもミラもここにはいないし。子どもたちに愛情を傾ける人が使用人しかいないってのは、それで本当にいいのか、と思った。まずは、会う機会を作らないと。
「ほかの子は?」なぜひとりだけ紹介するの?
首をかしげた俺を兄さんはちらりと見て「もちろん紹介するさ」と小さな声で言った。
なんだろう、この違和感。
その答えは、ベネディクトに案内されて飾り付けたダニングルームに入ってきた子どもたちの姿をひと目見て分かった。
先頭を歩いているのは、兄さんにそっくりな男の子。身体が一番大きいから、一番上の子だろう。口元を引き結び、緊張している。兄さんの前で失敗したくないんだろう。
兄さんのミニチュアみたいな子ども。ガッチリとした体つきと頑固そうなあごのライン。
目の色すら同じで、初めて会った頃の兄さんをそのまま幼くしたみたいだ。
(うわ!かわいい!)
思わず胸がうずき、頬がゆるむ。抱きしめて、頭をぐりぐりなでてあげたい!もちろんこの子は嫌がるだろうけど。
にこにこと笑いながら、「どうぞ、遠慮しないで」と声をかけると、怪訝な目で見られた。
確かに、俺はこの子達にとって何者でもないもんな。いきなり見知らぬ男に馴れ馴れしく話しかけられたら、胡散臭く感じるよな。
「ごほん」
兄さんが、上座からわざとらしい咳ばらいをして、硬い声を出した。
「ヴィクトル。あとで説明する。まずは食卓につきなさい」
「はい、父上」
兄さんのミニチュアがひとまわり小さくなったように思えた。兄さんにむかって礼儀正しく頭を下げ、兄さんに近い席についた。
「お父様、お久しぶりでございます」
晴れやかな張りのある声。
「リュシー」兄さんが、にっこりと笑った。こんな極上の笑顔見たことない。
兄さんのミニチュアに目を奪われていた俺は、声の主に目を移して、腰が抜けるほど驚いた。
そこには、かあちゃんがいた。
いや、かあちゃん、というより・・・かあちゃんをぐっと若くして少女にしたらこうなるだろうって感じ?
真っ黒な髪とこぼれおちそうなほど大きな若草色の瞳。
雪のように白い肌とつんととがった小さなあご。大切に育てられたご令嬢だとひと目でわかる、育ちの良さ。
男ばかりの中、たったひとりの娘だ。兄さんも溺愛しているのかもしれない。
まあ、ミラのお父さんは俺のかあちゃんの弟だから、よく似た子が生まれても不思議はないか。
俺と目があったリュシー姫は、社交的な笑みを浮かべ、小さくひざを折ると、笑顔を崩さないまま席についた。
なんか、なんだか、毒気を抜かれたような気になる。
姫のあとから付いてきた男子ふたりは、先に挨拶をしたふたりが印象的すぎて、ぼんやりと受け流してしまった。
そうこうしている間に、ディナーが始まった。
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