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後日譚〜あれから〜

24 【リュカ】決意

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 呆然と立ち尽くしていると、日が傾き、オレンジ色の光りが部屋を照らした。

(眩しいな)

 そう思いながらも、ふらふらと窓辺に近づく。足がまるでゼリーになったみたいだ。
 兄さんがあんなに怒っていたのは、イネスを愛していたから?信じたくはないけど、そうとしか・・・
 街の噂では、イネスと兄さんは離縁したと聞いていた。
 でも、王都の公爵邸を出るときに見かけた兄さんの子のことを思い出す。
 あの子は、兄さんにそっくりだった。

 また、イネスを誘惑して兄さんから奪う?
 いや、離縁してるんだからそんな必要はない。
 もし、兄さんが本当にイネスを愛していたら、離縁なんてするか?
 弟と密通しても別れられないほど愛した相手を手放す?もう弟は厄介払いしていないのに?
 兄さんは、そんな人間じゃない。

 落ち着け。

 目の前の夕暮れは、速度を速め、徐々に藍が広がっていく。昼と夜が出会い、そして別れるさまは、出会いと別れを繰り返す俺と兄さんみたいだ。
 また会えるまでに7年かかった。次はいつ?会えることがあるとしても、先の話しすぎて、会えないのと同じだ。そうしたら、もう、夜は明けない。

 もし兄さんが俺に会いたくないなら、俺がいる間、公爵邸に寄り付かなければ済む。
 それに、この城だって公爵邸だって、顔を合わせる必要がないほど広い。

 夜のとばりが降り、真っ暗な夜が訪れた。
 たとえ暗くても、兄さんに会いたい。追いかけっこをする太陽と月のように、俺は兄さんに惹かれ続けていた。

 今日しかない。

 兄さんは疲れているし、怒っているし、タイミングとしては最悪だ。でも、伝えるしかない。
 本気で伝えれば、叶うかもしれない。分かってもらえるかもしれない。俺が、今でも兄さんを愛しているって。
 ずっと、ずっと愛していたって。
 応えてもらえなくてもいい。蔑まれるかもしれない。でも、それでもいい。言うしかない。
 今日は、兄さんに会える最後の日かもしれない。言うしかない。

 俺はベルを鳴らし、ベネディクトを呼んだ。

「リュカ様・・・閣下はお仕事中です。それに誰も通すなと念を押されておりまして・・・」

 ベネディクトが額の汗を拭き、相当念を押されたのだろうと分かった。

「俺が勝手に押しかけたことにすればいいんです。場所だけ教えてください」
「リュカ様。困りましたね・・・」
「ベネディクト、俺、兄さんに、どうしても言わなければいけないことがあるんです。聞いてもらえないかもしれないけど、でも、どうか、頼みます。どうか・・・」
 俺がベネディクトの前に膝をつくと、ベネディクトは諦めたように、大きな息を吐いた。
「どうか、お立ちください。リュカ様。あなたにそんなことをさせたと知ったら、旦那様がどれだけお怒りになるか」
「ベネディクト。お願いします」
「リュカ様。私にはわからないんです。おふたりがどうしたいのか。これからどうすべきなのか」
「俺にはわかります。以前、公爵家を出たころ、俺と兄さんの間は行き詰まってしまって、どうしようもなかった。俺は兄さんを愛していたけど、公爵家にとって邪魔者になってしまったことは分かっていました。しかも”死んでる”し」
 ベネディクトが困ったように眉を下げた。
「全部のドアを叩いて回れって言うなら、そうします。でも、できれば兄さんの居場所を教えてください」
「リュカ様・・・成長されましたね。強くなられたようだ」
「時間も経ちましたし。やっぱり俺だって、俺のこころは大切なんです。だから正直に伝えたい。兄さんに不要だと言われても、怖がってばかりだった俺じゃないんです。砕けずに立ち直ります」
「お立ちください」ベネディクトが俺の手を両手で握りしめた。
「マティアス様は、僭越ながら、私の息子も同然の方です。ご両親のかわりに私が愛情を持って、導かせていただいたつもりです。ですが、ご両親からの愛を受けたこともなく、責任感の強い方ですから、ご自分よりも公務を優先されて、最近ではろくに食事もとらずにお仕事ばかりです。授かったお子様たちとも、交流はなく・・・かつて、自分がそうされたようにしかできないご様子です。ですが、唯一人間らしい感情を示されたのは、リュカ様に対してでした。どうか、リュカ様、マティアス様をお願いします」
「・・・俺になにができるかわからないし、兄さんにはいらないって言われそうだけど、でも、俺・・・もう後悔したくない」
「リュカ様」
「陳腐な言葉かな。でも、本音なんです。何度もあのときこうしなければ、こうすればと考えました。いまは兄さんに会って話がしたい。伝えたいことがあるんです。だから、どうか・・・」
「わかりました。ご案内いたします」

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