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後日譚〜あれから〜

20 【リュカ】証人

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すみません。昨日2話更新するといいながら、寝てしまいました。
というわけで、今日こそお詫びの2話公開です。ペコリ。


********************


ごくりと、ポールがつばを飲み込んだのが分かった。

「そ、それは」
「話が不自然すぎる」
「ふ、ふしぜんとは・・・」」
「公爵家からリュカに届けさせた小麦粉を、何故お前が持っていた?ギルドから指定されていない粉を、リュカがお前に渡したのか?ギルド長に届けてくれと?そんなはずはない。しかも、お前は、リュカの不利益になるように誘導したのだろう?」
「・・・」
「なぜ、なにも申し開きをしない?しないのであれば勝手に判断するしかない。お前は、リュカの家に忍び込み、小麦粉を盗んだ。そして、ついでに香辛料の入った袋を発見した。うまく行けば相当の金になるが、失敗すれば足がつき、捕らえられかねない。そう思ったのだろう?だからリュカを陥れるためにつかったのではないか?おそらくは、ギルド長に渡したのはお前が盗んだすべてではあるまい。リュカを盗人に仕立てたあと、ほとぼりが冷めたら売りさばくつもりだったんだろう」
「な、なにを証拠に・・・」
「愚かな」兄さんが笑った。「証拠など、いらん」
「そんな」ポールの足がガクガクと震えだした。

兄さんはギルド長に目を向けた。
「ギルド長に聞く」
「は、はい!」
「お前のギルドでは、盗人の持ってきた盗品をもとに、誰かを裁きの場に突き出しているのか?」
「そ、そんなことは・・・」ギルド長の顔色が変わった。
「粉を届けさせてすぐに発覚していること、しかも香辛料の小袋まで。持ち出し、ギルドに提出している。あまりにも、動きが不自然に思えるが?盗みに入ったと考えるのが妥当と思うが、どうだ」

ギルド長は真っ青になってポールを見たが、ポールは目を合わさず、そっぽを向いた。


「それだけではない。ポールとやら。お前、リュカの飲み物に薬を盛り、宿で暴力をふるったな?調べはついている」
兄さんが視線を向けると、後に控えていたジャックが前に出た。

「見覚えはないか?」
「え・・・?全然」
「そうか。良かった。念のため、酒場の主人を呼んでおいた。お前が忘れてしまったときのためにな」

ジャックに連れられ、酒場の主人が前に出た。
酒場の主人は、急にこんな場に立たされたことに戸惑いながらも、皆の視線を一身に集めると、照れくさそうな自慢げな表情になった。これまで、こんな重要人物になったことはないのだ。

「証言せよ」
「はい。オレ・・・いや、わっしは、ドランシの街で酒場をやっておりますが。リュカ親方とは前からの知り合いで。やしないっ子が母親に引き取られて落ち込んでいた親方が、あらっぽい飲み方をしてたもんですから、心配しておりました」
「やしないっ子・・・?母親?」
「へい。親方は、男手ひとつで、預かった子どもを育てていたんです。オレたち・・・じゃなくて街の者たちは皆それを知ってたんで、陰ながら応援していた次第で」
「・・・子については後で聞こう。それで、リュカが酒場で飲んでいて、どうなったのだ」
「へい。親方が飲みすぎて床に伸びちまいまして、一緒に飲んでいたポール親方が、部屋に連れて行って寝かせてやる、というのでお預けしたのですが。こちらの」酒場の主人はジャックを指さした。「こちらの旦那がところ、リュカ親方が薬を飲まされて、殴られていたと聞きまして・・・悪いクセがまた出たなとすぐに分かりました。リュカ親方は、男だから大丈夫かと油断してしまい、すみませんでした」
「ほう。悪いクセとは?」
「しばらく前から、娼婦たちの間で噂になってたんですよ。商売柄、耳に入っちまうもんで。ポール親方相手に商売をすると、記憶がとぶことがあると。だけど、金を盗まれたわけじゃないし、お役人様に言っても、たかが娼婦と相手にされないし、と」
「余罪がありそうだな。後ほど、被害にあった娼婦に相談に来るように伝えよ」
「へい。うけたまわりました」
「盗みの罪だけでも、右手を失う。お前の罪はどれほど深いのだろうな?」
兄さんがポールをギロリと見ると、ポールはへなへなと腰を抜かした。
「いや、誤解です。誤解です・・・何のことやら・・・」

「ギルド長」
兄さんは冷たい視線をポールに向けたあと、ギルド長に声をかけた。
「お前は、このような者が持ってきた証拠をもとに、リュカを折檻したのか」
「は、はい・・・申し訳ありません」
「本来は手を切り落としてやりたいところだが、庶民の食を預かる立場でもあり、リュカの同業者でもある。どのような罰を与えるのかは、追って伝えるが、まずは、リュカにどのような扱いをしたのかを報告せよ。殴ったものはひとり残らず書き留めるのだ。先程、この場ですら、リュカに暴力を振るったものがいるな」
俺を押し倒した親方を兄さんがにらみつけると、小さな悲鳴が上がった。
「助け起こしたのはひとりだけだった。他の者達は、リュカに対する暴力を肯定していたな?」
「・・・」

親方たちは、うなだれて震えている。
手を切り落とされたら、もう仕事なんかできない。物乞いになって、野たれ死ぬ未来しかない。

「リュカに対する暴力は、私に対する侮辱と同義と心得こころえよ」
「ひっ」

殺したような悲鳴が親方たちの間に上がり、皆が震えながらひざをつき、こうべれた。

「連れて行け。重罪人の入る牢に入れてやれば口も滑らかになるだろう」

兄さんがポールに向かってあごをしゃくると、数人の兵士がポールを取り囲んだ。

「ま、待ってください!!リュカは、スパイです!!俺は、その証拠を探そうと忍び込みました。国のためだったんです!!」
「突然なにを言い出す」
「ほんとうです!!これを!!」
ポールが胸元から袋を取り出し、紐を引っ張ったが、指がもつれ、袋の中身が床にぶちまけられた。

足元に散らばった金貨のひとつが、俺の足元に転がってきた。
手にとって見ると、見たことのない誰かの横顔が刻印されていた。
なぜ、こんなものが?
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